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このパーティで誰が追放されるべきなのか〜絶対に田舎に帰ってスローライフを送りたい〜

作者: みむめも

 まず、世界の半分は魔王とその配下の魔物達の手に落ちていた…


 そこに!選ばれし勇者のみが抜ける聖剣を一人の青年が抜き、人々は救いの手が神から施されたのだと歓喜した!


「うおおお!!!俺が勇者だあああああ!!!!世界救ったるぞおおおお!!!!」


 勇者もアホみたいに調子に乗り喜び、いっちょ魔王倒してやりますかと、調子に乗った奴らも仲間になった。


 調子に乗ったバカ4人の名は、勇者バルト、男戦士ガイゼル、女魔法使いカーリア、女僧侶アンナ…


((いっちょ世界、救いますか…))


 そう思い立ったバカ4人は、世界を救うため、旅に出た。


 そんな彼らを襲うのは、魔王配下の中でも指折りの実力を持つ十二天王や、その他雑魚達…


 とはいえ、十二天王をなんとか七人倒して、残りは五人のみ…


 旅もいよいよ終盤に差し掛かり、旅自体は、万事順調だった……


 休憩に来た街の酒場でも、勇者バルトは酒をあおりながら、仲間を鼓舞する。


「お前ら!遂に十二天王も残り五人!魔王討伐までもう少しだ!」


 だが、爽やかな言葉を嘯きながら、勇者は後悔していた。


(なーんで世界救っちゃうとか言っちゃったんだろ……前の十二天王とかマジで死にかけたし…俺元々農民なんだけど…!?冷静に考えて世界おかしくない!?農民に世界背負わせるのおかしくない!?)


 勇者バルトのメンタルはもうボロボロだった。


 そんなことをつゆ知らず、戦士ガイゼルが叫ぶ。


「おう!俺の剛腕で、残りの奴らも一捻りだな!」


 豪快無双の似合うタッパと難攻不落の精神力……というわけでもなく。


(もう俺の力とかいらねーだろ…パワー担当みたいなところあるけど、魔物の方がもうデカいよね、ガタイはパワーなわけで、城壁をぶち壊すサイクロプスとかの魔物なんかにはもう勝てないよね、となると、俺いらないよな…帰って母ちゃんのオムライスが食べたい)


 こちらの精神も、もはや難攻不落の要塞というより、今にも崩れる馬の小屋だった。


 その心情を分かるわけもなく、女魔法使いカーリアが呟く。


「まったく…私なしじゃあんたら何にもできないでしょ?私の魔法だよりなのに、なに言ってんのよ…」


 妖艶な雰囲気を纏う傾国の美女…その心の奥底は、常人では計り知れない迷宮のような…


 というようなわけでもなく。


(あーあ、なんでついてきちゃったかな〜…私家に引きこもって魔法の研究ばっかしてたような陰キャラなのに…お母さんに「あんたまともな仕事の一つくらいすれば?隣のタカシくんは………」みたいなこと言われて、勇者誕生って聞いて陰キャラ卒業!?とか思っちゃって、死の寸前ギリギリって…なにやってんのかな〜)


 妖艶な美女はただのメガネを被ったよくいる引きこもりで、毎日お母さんに嫌味を言われていた。


 そんな引きこもりの心を救うように、女僧侶アンナが言う。


「皆さんなら、いえ、私達ならきっと魔王を打ち滅ぼせます…!主もきっとそう言っているでしょう…」


 まさに聖人君主、神の御使い、神々しい雰囲気を周りに与える彼女の精神が弱いわけもなく……


 そんなわけはなかった。


(クソかったりい〜〜〜!地元の教会で毎日酒飲んでたら追い出されて、ここならまた飲み放題で名誉もついてくるじゃねーかと思ったけど……名誉は得られたけどよお!?全然飲めねえじゃんかよ!?あ''!?酒飲んだ次の日にゃ戦えたもんじゃねーし、死にかけるし、たまったもんじゃねー!)


 神の御使いは、飲んだくれで、本来の口調も天使というより、悪魔だった。


 四人ともが、心強いな…という笑みを浮かべながら、内心は思っていた。


((すごく帰りたい…))

 

 ということで、ここにいる全員が全員、魔王を倒すために立ち上がったわけだが、後悔していたのだ。


 だが、彼らも分かってはいる。自分がいなければ誰が世界を救うのか…故郷の人々はどうなるのか…


 勇者バルトは、後悔を胸に秘めつつも、仕方がないと、今日も仲間達と盃を交わす。

 

((誰か代わりがいればなあ…))


 四人がそう思った矢先、そのテーブルに、一人の男が歩いてきた。


 そうして、運命は巡ってきた。というか、巡ってきてしまった。


 その男は、勇者一行が囲うテーブルの前に立ち……言った。


「皆さん、初めまして…私は賢者グロー…勇者一行の魔王討伐の旅…どうか私もご一緒させてはいただけないでしょうか…?」


 四人は、同時に考える。


((これでこのパーティから抜けられる!))


 そうして、四人のあまりにくだらなさすぎる泥沼の戦いが今、幕を開けた!


 まず、勇者バルト先陣をとり、その戦いの火蓋を切る。


「ありがたいが……連携のことを意識すると、どうしても一人はこのパーティから抜けないといけないな…」

(よっし!!よっし!!チャンスが来た!!絶対農民に戻る!!耕す!!)


 しかし、その勝利への切符を勝ち取りたい者は、一人だけではなかった。


「しょうがねえが…バルト、俺を追放してくれ…」


 戦士ガイゼルが、切り崩すように悔しそうな演技をしながら口にした。


 当然、勇者バルトは動揺する。


(クソ…!ガイゼルゥ…!お前はいつも猪突猛進のパワータイプ…早速本題を言うとはな…!)


 長い旅の中で、四人ともが「あっ、こいつ抜けたいんだな」というのは気がついていた。


 しかし、だからといって譲る気はない。


「ごめんなさい…私故郷の母さんに言ったの…!必ずまたシチューを食べるために、帰ってくるって…!」

(帰りたい引きこもりたい帰りたい引きこもりたい引きこもりたい)


 女魔法使いカーリアが、理由を付けることで、その隙をついてきたのだ。


 戦士ガイゼルが、雷でも受けたかのように驚く。


(クソッ!情に訴えかけてくるとはな…!シンプルだが狡いやり口…お前らしいぜ)


 このままでは自分の負けか…と二人が思った時だった。


「賢者…ですか……私は回復役として頑張ってきましたが、遂に離脱の時が来てしまうとは…」

(酒のみてえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!)


 女僧侶アンナは、戦士ガイゼル同様、悔しそうに演技をする。


 魔法使いカーリアは、動揺を隠すように唇を噛み締める。


(嘘でしょ…!?役割を突いてくるなんて、流石にアンナね…!いつも冷静に状況を見ながら、その時々の最適解を叩き出す…!)


 しかし、四人ともどもが負けるわけにはいかないという熱い思いを胸にしている。


 賢者グローは知らない。四人とも、おうちに帰りたいことを!


「あ、あの…」


 グローが何かを言う前に、遮るように勇者バルトが目を手で覆い、上擦った声で喋る。


「すまん…俺、隠してたんだけどさ……俺の勇者の剣、偽物なんだよ…本物は今も地中に埋まってる…こんな偽物、本当はいるべきじゃなかったんだよ…!」


 ガイゼルはこの言葉に動揺したが、他二人は表情を崩さない。


(十中八九嘘でしょうね……バルト…あなたのいざという時に見せる勇気も、その力も、勇者に選ばれるべき素質の人間…バカなガイゼルのことを騙せても、私の目は誤魔化せなかったわね!)

(帰りたいからってクソみたいな嘘ついてんな)


 ガイゼルが動揺する隙に、二人のどちらが切り込むか…


 それは…


「バルト…あなたのその勇気も、優しさも…勇者じゃなくっても、私にとっては勇者そのものだったわ…!だから、偽物だとしても関係ない!きっと…いいえ、絶対に魔王を倒して、世界を救えるわ!」


 魔法使いカーリアだった。


(いや、嘘じゃないかとは言わず、偽物でもいいとそれっぽいことを言って…!この場において、それはあまりに効果的だ…!)


 勇者が一時的に敗北し、沈黙している隙に、カーリアは攻めを崩さず喋り続ける。


「それに比べて私は…前の戦闘でも、私が得意な火の魔法に耐性のある魔物達ばかりで役立たずだった…!きっとこの先もっと過酷になる戦闘に、私はいらないわ…」


 まるで、それは僧侶を…


(現実的な話に基づいて言ってたのを模倣してきやがった!普通に考えるなら、この場合一番役に立っていない奴が追放されるべき……でも、それは悪手だぜ)


 一瞬の隙をつくように、猪が、目を覚ました。


「それなら俺だ!!俺のパワーも、最近じゃめっぽう役に立ってねえ…空を飛ぶ魔物に拳は届かねえ、魔法を使う奴にはタジタジで話になんねえ!!追放するなら俺だ!」

(こいつっ…!この隙を狙ってたというの!?)


 それはそもそも、戦士ガイゼルが前から考えていたことだった。


 「俺、弱いし追放してくんね?」その一言を言う時を、ガイゼルばずっと前から待っていたのだ。


 だが、所詮は猪…神に勝てるわけではない。


「ガイゼル様は役に立てています!そもそも敵の攻撃を受けると言う役割は、ガイゼル様だけがこなせるもの!先ほども言いましたが、やはり役割が被っているならば…」

(嘘だろ!?まさか、俺を持ち上げることで!?)


 無理矢理割り込むのには、話の流れを作る必要があった。


 猪はまんまと神に利用され、「こいつは追放してもいいか」というポイントは、全て僧侶アンナが奪ってしまったのだった。


 ガイゼルとカーリアは、落ち込む。


((俺たちは…勝てないのか…!?))


 しかし、いつも、どんな時も諦めなかった男がいた。


 いつも立ち上がり、彼らを支えた人間こそが、そう…勇者なのだから!


「待ってくれ、一応グルーにはなにができるのか聞いておこう」

(なにぃぃぃいいイイい!?)


 もはやアンナの勝ち…そう思われた暗闇に、一筋の閃光が差した。


 グローは、指を3本立てて、それを一つ一つ折り曲げながら喋る。


「えっと…上級魔法全般、防御魔法、上級回復魔法ですね」


 戦士と魔法使い…二人の瞳に、希望の光が再び舞い戻った。


「それなら!俺が……」

「いいえ!火魔法ぐらいしか使えないんだし、私よ…」

「いや、個々の役割を伸ばせるんだぞ?俺に決まってる…」


 悲しそうな演技をするが、3人とも内心はウッキウキだ。


 しかし、流石に頭脳派…僧侶が再び勝ち星を奪ると口を開く。


「グルーさん?その話、一応詳しくお願いいたします」

「グ、グロ…」

「グルーさん?」


 何もなかったかのように僧侶アンナはそのまま、話を詳しく聞かないことには始まらない…と賢者グローへと質問する。


 そして再び、戦場は振り出しへと戻る。


「魔法はさっきも言った通りで…防御魔法は並の城壁程度、回復魔法は四肢切断の場合時間がかかります」


 さあ、どう転ぼうが俺の勝ちだと不適な笑みを一瞬浮かべたアンナは言う。


「そうですか…私は四肢が切断されたならくっつけることさえ不可能です…およよ…」

(本当は四肢切断でも一瞬だけどな…ガイゼルが守ってくれるし、一度もそうなったことがないのが幸い…!)


 そして、それはつまり、ガイゼルの防御力は並の城壁以上ということである。


「それに、カーリアさんは一度上級魔法のさらに上、最上級の魔法も見せたことがありますよね?ならばやはり…」

「いえ、私は火の他の属性魔法は中級しか使えないわ」


 これも嘘である。


 本当は全部最上級クラスでいけるが、前の戦闘は相手の火耐性に気付かず最初に最上級を撃ちまくったせいで中級しか使わなかったし、それまでは全部を最上級火魔法で押してきたので、カーリアにとっては幸いだった。


「でも、俺は他のみんなみたいな魔法も防御も使えねえよ…器用貧乏だってんなら、しっかり役割を持つみんなが残るべきだ…」


 なまじ魔法使いが偽物でもいいと言った以上、あなたは勇者だから…とは言いえない。


 それならばと、戦闘はさらに泥化していく。


「バルト様はカーリア様がさっきも言いましたが!その精神性です!その優しさがあるべき魔王を倒すべきものの証…」

「そっ、そんなの言ったら!アンナもだろう!?どの町でもまず孤児になけなしの資金でパンを買ってよ…!」


 精神性を褒めることで、自分のランキングを落とすことにしたのだ。


「ガイゼルはうんこした後すげえ便所を綺麗にしとくよな…潔癖ってわけでもねえのに、人の迷惑になることは絶対にしないよな!」

「う、うんこ…………ああ!いや!カーリア!お前夜も熱心に魔法の本読んでるよな…魔王を倒すとしたら、お前みたいな勤勉な奴だよ…俺なんて…」

「そ!そんなことないって!」


 そうして、話し合いは朝まで続き…


ーーーーー


「ゼエッ……は…ガイゼルは…魚の骨を綺麗に並べる…」

「バル…ト…さまは…どこの国に行っても子ども達に気さくに話す…」

「カーリアはよ…毎日熱心に魔法の勉強を…」

「それ、さっき言ったでしょ…?アンナ…は…魔物相手でも、救いを与えたいって言う優し、しい……」


 全員、疲れ果てていた。


 そして、勇者バルトが気づく。


「そういえば、グローは?」


 もう、賢者グローは机の前から姿を消していた。


「……………………」


 パーティに、長い長い沈黙が流れたのだった。



 その後、仕方がなく旅を続ける勇者達の姿を、魔物の視界を通して、四人の角の生えた者達が盗み見ていた。


「ククッ…遂に勇者が俺のところに来るか!楽しみだねえ!」

「気をつけろよ?貴様は五人の中で最弱…」


 五人がうすら笑いを浮かべる中、角の生えた可愛らしい女性が急ぎながら来て叫ぶ。


「魔王様より伝令です!残り5人で、勇者を一斉に叩けと…」

「ククッ…そうかそうか……しかし5人か…連携を考えると……一人が待機か追放か…」


 少しの沈黙の後、さっき「楽しみだねえ!」と言っていた奴が叫んだ。


「じゃあ俺が!」


 続けて…同様に…


「いや俺が!」

「私が!」

「ワシじゃな」

「ワタクシでしょ!」

「…………………ならさ、こうしないか?」


ーーーーー


 この後、5人の十二天王と、勇者一行が結託し、魔王をリンチ。


 遺言は「連携とか関係ないじゃん!全部火力でゴリ押ししてるじゃん!九人対一人とか絶位おかっ……ギャアアアアアア!!!!」だった。


 まあ、なんやあんやで人と魔物が手を取り合う時代が訪れて、世界は平穏になったとさ。


 めでたしめでたし。






 ………ちなみに、勇者一行は「勇猛果敢、死を顧みない清廉潔白」として、後世に語り継がれることになったのだった。



 …めでたいのか?


 


 





 


 


 


 

 

この作品は、お風呂に入ってる時に思いつきました。

正直何番煎じかもしれませんが楽しくみていただければ幸いです。

後一応設定載せときます。


ーー登場人物の設定ーー


勇者バルト

お試しで勇者の剣抜こうとしたら抜けた人。性格はいいし顔もいいし、剣技は世界一。でも一番調子に乗るバカ。


戦士ガイゼル

勇者の国の元兵士長。実は試さないだけでサイクロプスの腕力にも勝てる。一番バカ。


魔法使いカーリア

伝説の大魔法使いの娘。火力が高い。なんなら魔王より高い。引きこもりで世間知らずのバカ。


僧侶アンナ

酒は飲むけど子どもには優しい。頭部だけでも生存してるなら回復可能。酒飲みのバカ。


賢者グロー

全部中途半端。もしも加入していた場合次の十二天王で死んでいる。影薄いんだよバカ。


ーーーーー


これでほとんどになります。十二天王と魔王はすいませんが省きます。


最後に、参考のためにも、批判でもなんでもいいので、コメントお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] いかに自分がパーティを抜けるかの言い争いが面白かったです。
[一言] あははは! 面白かったよ! 特に内面と外面のギャップが! お気軽に読むにはちょうど良かったですよ! あえて言うなら、流れを潰すことにもなるだろうし、蛇足だろうけど、中途半端な賢者の心理描写…
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