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第14話 武器

「もう、終わりだ……」

「畜生! 畜生……!」

「こ、鉱山は嫌だっ!」


 憲兵詰所の地下に、三馬鹿は幽閉されていた。

 酔いもすっかり覚めた三人は自分たちが何をしでかしたのかを悟り、自暴自棄になっていた。このまま鉱山へ向かう馬車が出発するまで放置するだけなので見張りはいないが、太い鉄格子の中から何かができるはずもない。

 誰もこないはずの地下で喚く三人の眼前に、ぬるりと影が現れた。

 暗闇を押し固めたようなそれはヒトと同じシルエットをしており、目にあたる部分が紅い輝きを放っていた。


「う、ウワァーッ!」

「だっ、誰だ!」

「たすけて!」


 三人が石造りの壁まで下がって怯える中、影は確かに嗤った。


「貴様らは死を待つだけなのだろう? 復讐したくはないか?」

「ふ、復讐……?」

「そうだ。お前らを屠った侍女姿の女に。そいつに守られている聖女に。こんな風にしたすべてに」


 男とも女ともつかない、不思議な響きの声。

 実体を持った影の問いに、怯えていたはずの三人から表情が抜け落ちる。

 魔法に熟達した人間ならば、影から伸びた魔力が三人を包んでいるのが見えただろう。見る間に目の焦点が合わなくなり、半開きになった口から涎を垂らし始める。


「ふくしゅう……」

「おれたちをこんなふうに……」

「あのガキどもを……」


 熱に浮かされたように呟く三人に、影は大きくうなずいた。暗闇色の手を伸ばし——人間ではありえないほどに伸びて鉄格子を越え、ぼんやりした三人の頭へと(かざ)していく。


「魔物寄せを使った馬鹿ども殺そうと来てみれば、面白い女が二人……暇つぶしにはちょうど良かろう。我が運命の可能性もあるしな」


***


「武器をお願いできませんか?」


 ノノが欲しがったのは身の丈を超えるほどの大剣だった。


「見た目でお嬢様を舐めて掛かる馬鹿が出ないよう威嚇的なデザインにして、片刃にして切れない方を作っていただけると手加減もしやすいかと」


 ノノの意見を聞きながら土魔法でモニョモニョと造形していく。普通の金属よりもずっと作りにくかったけれど、たくさん魔力を通したら何かバチバチ光り始めて、包丁とかと同じように造形できた。

 本当はすごく硬いはずのミスリルが粘土みたいに動くのは面白い。

 威嚇的な、というリクエストに従って峰には(つた)の這った髑髏(どくろ)をあしらった大剣になった。本当はもっと可愛いデザインが良かったんだけど、ノノのお願いだから仕方ない。


『鑑定:

 魔大剣”咎める者”。あらゆる魔を斬り、敵を葬るために生み出された魔大剣。構えるだけで敵を威嚇し、弱い魔物を退けることができる。強力な魔法で作り出したため魔法ですら切り裂く切れ味を誇る。マリアベル作』


 ……何か変な名前と効果がついた。

 まぁ使うのには問題なさそうだし、名前は黙っておけば問題ないよね。


「ありがとうございます」

「他にも欲しいのあったら作るからね。防具とかは要らないの?」

「ええ。ナノマシンの影響でかなり頑丈になっていますし、万が一けがしたら治していただけると思いますので」

「治すけどけがはしないでよ!」


 むっとして怒ったのに、何故かノノは微笑んでいた。


「頭撫でたってダメ! けがしたら怒るからね?」

「かしこまりました。必ずやお嬢様に仇なす者を屠り、無事にお嬢様の元へ戻ります」


 とりあえず約束してくれたので話はここまでにする。

 私にはすっごく優しいし普段は落ち着いてるのに、私のことになるとカッとしやすいし心配だなぁ。


「んー……今日はどうしよっか?」

「お嬢様は何か見たいものはございませんか?」

「本、とか? 必要なものは買っちゃったし、食べ物はノノが美味しいのを作ってくれるからなぁ」


 食べ歩きもしたいところだけれど、そんなことをしてしまったらノノのご飯が入らなくなっちゃうからね。

 珍しいものがあったらノノが食べて、それを再現してくれる約束にはなっているけれど、城塞都市ヴェントはそれほど珍しい食べ物があるわけではなかった。


「しばらくゆっくりして、別の街に向かうのも良いかもしれませんね」

「だね。本当はお米探しの旅に出る予定だったんだけどねぇ」


 その必要はなくなった。

 なぜならば、お米は普通に取り扱っていたから。


「まさか、家畜用の飼料になってるとは思いませんでしたが」

「あはは。美味しく食べれるって知らないんだね」

「買うと申し出たら驚いていましたね。今夜はお米を使って美味しいものを作りますので、楽しみにしていてくださいね」


 おにぎり、丼もの、と呟きながら献立を考えるノノを見ていると、自然と期待感も高まってしまう。

 うーん、楽しみ。

 ちなみに本は高級品なので気軽に売っているわけではない。羊皮紙をつくるのも大変だし、手書きにしたものを製本するのもすっごく手間がかかるからね。

 とはいえ大きな街なのでどこかしらで取り扱いもあるだろう、と歩き始める。おそらくロンドさんに聞けば一発だったんだろうけど、マヨネーズのレシピ片手に高笑いしてたからなぁ。

 体力づくりの一環として歩き始めたその時だ。


 街の外側、城塞とくっついた憲兵詰所が爆発した。

 石材や木材とともに土煙がもうもうと流れ、街の至るところで悲鳴があがった。


「お嬢様、ご無事ですか?」

「うん。ノノは?」

「平気です」


 咄嗟に私を庇ってくれたノノは、さっき作ったばっかりの大剣を早速構えていた。

 土煙を晴らすために魔法で風を起こす。

 城壁そのものが崩れたせいか、とんでもない勢いで土煙が舞い上がり、生き物のようにこちらにまで伸びてきた。

 中に人がいるかもしれないから加減はしたけれど、風魔法で視界を確保する。誰かを吹き飛ばしたりしないようにじわじわ範囲を伸ばしていけば、


「ノノ、けがしてる人がいる!」

「お嬢様、お待ち下さい!」


 思わず飛び出したのは、土煙の中で倒れていた人たちを助けるためだだ。驚いで転んだだけの人もいれば、飛んできた石材がぶつかった人もいた。倒れ込んで呻いた人たちに、回復魔法を掛ける。


「エリアヒール!」


 カッ、と魔力が渦巻いてけが人たちを癒していく。がれきでけがをした人もいるので風魔法で土煙を吹き飛ばしながらどんどん魔法を放つ。


「おお!?」

「い、いったい……」

「奇蹟……?」

「あの子が、回復魔法を」

「聖女だ……」

「聖女!」

「聖女さまだ!」


 回復した人たちがぽかんとした後、口々に何かを言っているけれど聞いている暇はなかった。


 突然の爆発。

 傷つき倒れた人々。

 脳裏に浮かんだのは、大樹林の最前線……魔物と人が永遠の殺し合いを続ける地獄のことだ。


『今日は一四人死んだ。お前の回復魔法が間に合わなかったせいだ』

『貴様が気絶したせいで死んだ者には、年老いた母がいたぞ』

『かわいそうに。お前の魔法が間に合えば、家に戻って子供を抱きしめられただろうに』


 騎士や第四王子が決まって話しかける日課の報告。唯一欠かされることの無かった言葉が頭の中に再生される。


——私が癒さないと。


 吐き気を押さえながら、私は走り始めた。


「お嬢様、無理をなされてはいけません!」

「放して! 私が助けなきゃ!」


 人が、怪我をしている。

 血を流し、倒れ伏し、動かない人もいる。

 死んじゃう。

 このままじゃ死んじゃう。

 私が助けなきゃ。

 帰りを待つ人がいるんだ。

 大切な人がいるんだ。


『お前のせいで死んだ』


 いるはずのない王子の幻聴に責められながらも、前線で鍛え抜き、ナノマシンによって強化された魔法を力の限り放ち続けた。


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