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ASMR

 という訳で引き続き次の動画の企画立案を続ける私と都だったが――。


「考察動画はどうだろうか? 君も聞くだろう? 考察系ユーチューバーという言葉を?」

 と、ここでも先に意見を出してきたのは都だった。

 なので私はアゴに手を当て。

「うむ、確かに聞くが――。考察動画となると独自の視点と斬新な切り口。そして豊富な知識が必要となるが……一体何を考察するつもりなのだ?」

「いや、逆に訊きたいのだがダイコンよ。君は何か考察してみたいものはないのか? 我が組織の頭脳たる君なら斬新な考察を提案してくれると私は期待しているのだが――?」

 ――と。いうような事を急に言われても私とてなんの準備もしていない……。となれば仕方がないのでアドリブでいくとするか。


「そうだな。やはり考察の王道としてミステリーはどうだろうか? 小説なのだが?」

「ミステリー小説か……となると当然。真犯人を考察、当てるという内容か?」

「ああ、その通りだ。因みにその小説の登場人物の名前は全員『ヤス』という」

「つまり犯人はヤス!」

 いや、犯人どころか目撃者も共犯者も、被害者も探偵も全員ヤスなんだがな?

 ……としていると都の方から質問してくる。

「因みにその小説のタイトルは?」

「家政婦はヤス」

「それはそうだろう? 家政婦だけアレクサンダー・ゴンザレスとかだったら登場人物全員がヤスにはならんからな?」

「そうか? 何故アレクサンダー・ゴンザレス・ヤスの可能性……いやアレクサンダー・ゴンザヤスの可能性を捨てる? その可能性を考察するのが考察系ユーチューバーではないのかっ!?」

「なっ!!」

 鳩が豆鉄砲を喰ったような顔を覗かせた都は――項垂れ。

「迂闊……私は考察系ユーチューバー失格だな。わかった、考察動画を撮る時は私以外に主軸を置くとして――。出来ればまだ何か欲しいな? 考察動画、レビュー動画以外に?」

 そうだな。どちらも悪くはないが決め手に欠くというか何かが足りない気はする。まだまだ煮詰める必要はあるが、今大事なのは質より量。煮詰めるのは後にして今は企画を1つでも多く出す事を先決しよう。


 と考えた私の口から出た言葉はこれだった。

「ASMRはどうだろうか?」

「ASMR?」

 とオウム返しをして小首を捻る都だが、すぐに縦にした右の拳を左手の平にポンと下ろし。

「ああ! あの咀嚼音で人気のASMRか!」

 っと。これを聞いた私はゆっくりと頷き。

「うむ。まあASMRと言っても色々あるが、やはり1番人気と思われる咀嚼音を録るのが手早くて安定していると私は睨んだ」

「そうだな。となれば我々も咀嚼音でいくとして――フランシスコ・ザビエルがたくあんを食っている咀嚼音とかはどうだろうか?」

「うむ。企画としては悪くはない……」

 と言って私は眉をひそめるとアゴを一撫でし。

「だが、フランシスコ・ザビエルは良いとして、たくあんの方はそう簡単には入手出来ないだろう?」

 すると都も眉をハの字に曲げ。

「ム? 言われてみればそういう問題もあるのか……? ではアレはどうだ? 最近流行っているお湯を入れてから29分で出来上がるカップラーメン『伸びない冷めない、けど美味くはない』を食う咀嚼音は?」

 ああ、最近多くのユーチューバーがこぞって食べている動画を上げているアレか……。しかしそれにも問題が1つある。

「その『伸びない冷めない、けど美味くはない』略して『のめなくはない』カップラーメンを食すASMR自体は問題ない。だが出来上がるまでの29分間、その場を繋ぐトーク力が必要不可欠になるぞ? しかもそれがASMRともなれば抜群のトーク力を要求される。我々にその課題をクリアする事が出来るのか?」

 すると都は「チッチッチッ」と言いながら突き立てた人差し指を左右に振り。

「甘いなダイコン。我々にはリキのバフがある。確かにトーク力を抜群に上げるバフは難しいかもしれないが、29分で出来上がるカップラーメンを3分で出来上がるように時間を短縮するバフがあるのは以前リキに確認しているので3分間ならば我々のトーク力でも問題なくクリア出来るはずだ」

 という言葉を耳にした途端。私はテーブルに両手を付いて立ち上がった。

「馬鹿か貴様はっ! だったら最初から普通のカップラーメンで良いだろう! 29分待つのがこのカップラーメンのアイデンティティだぞ? それを潰してなんの意味があるっ!」

「ぐっ……不覚」

 と下唇を噛み締める都を眺めつつ、私は再び腰を下ろし。

「まあ良い……今ので思い付いた事がある。その待っている29分間にフランシスコ・ザビエルが地元の名産、食材を食している咀嚼音を聴かせるというのはどうだ?」

「なるほど……地元の名産、食材を活かしたASMRという事か。確かフランシスコ・ザビエルの出身地は――」

「新潟だ」

「新潟か……となると名産はオリハルコンだからフランシスコ・ザビエルがオリハルコンを食う咀嚼音か……。間違いなく29分間場持ちするASMRだな? しかもオリハルコンならば今が旬だからたくあんより安く簡単に手に入るな?」

「だろう?」


 という訳で。我々はASMRも採用する事となり、まだまだ煮詰める必要はあるが、とりあえず今回の会議でレビュー動画、考察動画、ASMRの3つの企画をストックし撮影する事となった。

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