たびだちのまき その3
モノタローは仕事のできる男ですから、迅速に準備を整えました。特に語るべきこともなく、あっという間に旅立ちの朝がやってきました。
モノタローは普段括っている金髪を下ろし、鉢金を巻いていました。愛用の黒いライダーズジャケットの下には、鎖帷子を着ています。
そして、腰には一振りの刀を帯びていました。朱塗りの柄に、黒檀の鞘が不気味なコントラストを醸し出しています。
名刀『血みどろ丸』お姫様の実家に代々伝わる、もう色々どこから突っ込めばいいのかわからないくらいの逸品です。服装のアレな感じとか、気にもならないくらいです。
「さて……」
流石に気を引き締めて、モノタローが親っぽい者たちに向けて、何か一言口にしようとした時です。
お姫様が耐えきれず、号泣を始めてしまいました。
「ううっ……どうしても行ってしまうの? わたしの可愛いモノちゃん……」
ひくり、とモノタローの頬が引きつりました。
正直鬱陶しい親だなー、とか思っています。間違いありません。
「行かないで! モノちゃ~ん!」
男に捨てられる寸前のような取り乱しようです。
どうしようもないお姫様の身体を、魔王が後ろから包み込むように抱き締めました。
ぴたり、とお姫様の涙が止まります。
魔王はその態勢のまま、モノタローへと視線を向けました。
「行ってくるといいよ。何も心配はいらない。ただ……」
モノタローも父親である魔王を見つめ返しました。男同士だけが通じる、視線が交差します。
「君が選んだ道だ。たとえ行いが非難されても、どんな困難が待っていても……命を落とすことになっても。すべては君が、責任をとるんだ。栄光も挫折も、君だけのものだ」
「……ああ」
モノタローはしっかりと頷きました。
そんなやりとりに、お姫様は少し寂しそうな表情を浮かべました。
母親というのはこういう時、損なものです。わかってはいましたが、浮かんでくるものを二人に気づかれないようにそっと拭いました。
「じゃあな、親父」
「ああ。私は母さんとイチャイチャしているよ」
二人が男くさい笑みを交わした瞬間でした。
するり、とお姫様は魔王の抱擁を抜けだし、振り返りもせずに肘を魔王の肝臓に叩き込みました。
どす、と鈍い音が響きます。
身体をくの字に曲げる魔王に向かい、反転しながらの回し蹴りです。これも見事にこめかみを捉えました。
派手に吹っ飛んだ魔王をじろり、と睨みつけて、お姫様は仁王立ちです。
「誰があんたと今更イチャイチャすんのよ! いい加減現実見なさい!」
酷い言葉です。時の流れという残酷さを表しすぎています。
その様子を見て、モノタローは声を上げて嗤いました。
「一生やってろ、バーカ」
とても思春期満載な、ある意味彼らしいセリフを二人に放り投げ、それが届いていないことを確認すると、モノタローはそっと家を出て行きました。
――それでも、育ててくれてありがとう。
そんな言葉が小さく残された気がしましたが、気づく人はいませんでした。
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