たびだちのまき その1
赤ん坊はモノタローと名付けられました。
モノは唯一の、という意味があるMONOから取っています。本を読むと無駄な知識が増えていいですね。
あ、タローは察してください。ググれカス。
そういった枝葉はさておいて、モノタローはすくすくと育ちました。
それというのも、お姫様が今まで断絶していた実家と連絡をとり、なだめ、脅し、すかして教育に必要な資金を遠慮容赦なくむしりとったからです。
田舎の家を増築し、優秀な家庭教師を住まわせました。
剣術、魔法、といった肉体的なことは父親になった魔王がみずから手ほどきをしました。
この魔王、父親のわからない嫁さんの子どもだというのに、それはもうニッコニコで育児に参加しています。とても魔王のできた人間です。もとい、人間のできた魔王です。言い直してもおかしくなるばかりです。
モノタローはしかし、何もかもを与えられすぎました。
勉強も出来る、剣術も、魔法もそこらの人間には有り得ない域に到達しました。
けれど彼は、いつからか何か乾いた感覚を覚えるようになっていきます。
モノタローが十七歳になった時のことです。
彼は実力に加えて、なかなかイカした外見を手に入れていました。
肩まである金髪を前髪を残してくくっています。黄金色の瞳が不思議な魅力を湛えていました。
室内にも関わらず着ている黒いライダーズジャケットには背中に髑髏のマークがプリントされています。下のジーンズはボロボロなのか、ファッションなのかわからないくらいダメージがふんだんに入っています。
しかしどこかの爆走族かと思えるくらい、似合っていました。それも安っぽい似合い方ではなく、何か得体の知れないオーラを垂れ流すボス級の似合い方です。
なお、武装うんたらと言い出してはいけません。爆走族は一般名詞なので大丈夫です。
「なあ、親父」
言われて魔王は振り向きました。こちらは見事な割烹着です。もうほとんど肝試しのように似合っていません。つまりは道で出会ったら通報されるやつです。
「なんだい? モノちゃん」
「ちゃんはやめろ、っていつも言ってるだろうが、クソ親父」
いきなりの罵倒です。しかしお姫様のお陰で耐性がついている魔王はびくともしません。
「ああ、すまないな、モノちゃん。で、何だい?」
「……」
モノタローはこめかみを指先で揉みほぐしました。話の通じない相手は疲れるばかりだ、と厭世的な気分で悟りました。
ですから、とりあえずそこについては諦めて、言いたい事を口にします。
「退屈だ」
その言葉に、魔王はふむ、と頷いて、指を一本立てます。
「ハゲ山でも作ってきたら?」
「火遊びか? 飽きた」
顔をしかめるモノタローに、魔王は二本目の指を立てました。
「洪水でも起こすとか」
「そんな力はねえよ。っていうかそんな無茶苦茶できるんは親父だけだ」
貧弱だなあ、とうっかり呟いて、モノタローの額に青筋が浮かぶのにも気づかず、魔王は指を更に一本、追加しました。
「じゃあ、時間はかかるけれど、世界征服でもしてみたら?」
「ッ! ソレダッ!」
ぴこーん。ひらめきました。
モノタローは目標を立てたものの、どうやれば世界征服を達成できるのか、わかりませんでした。
お姫様に無理矢理持ってこさせた帝王学の本を読みふけるのですが、どこにも世界の帝王となる方法が書かれていないのでした。
「てめえババア! これもダメだ! もっと探して来い!」
お姫様に容赦ない罵倒の言葉が叩きつけられます。それでもお姫様は笑みを崩しません。
若い頃のお姫様からは考えられない寛容っぷりです。まったく丸くなったものです。
「ああ、わたしの可愛いモノちゃん。どうしてあなたはそんなに勉強熱心なの?」
よくとらえ過ぎです。過ぎたポジティブは身を滅ぼすので気をつけましょう。
お姫様の言葉を完全スルーして、モノタローはいいから探して来い、とだけ繰り返します。
お姫様はすぐに魔法の鏡で実家である王城に連絡を取り、別の本を探させます。
「四十秒で探してきな! うちの可愛いモノちゃんがご入用だからね!」
どこのアマゾネスでしょう。丸くなったなど、とんでもない話です。
典型的なモンスターペアレンツです。
一方のモノタローはそんなお姫様には関心を示さず、ただ、目標を――正確には目標を達成する道筋を――描き続けます。
そして、一つの小目標を立てることにします。
まずは、拠点をつくろう、そう思いました。
このおはなしの半分は承認欲求でできています。
いいねとか超ほしいです。
なお残りの半分はネタ心でできています。