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サイトウさん

作者: 森田ちひろ

1


いつからだ。


どこからだ。


空にはひっきりなしにヘリがこちらにライトを向けて飛び回っている



2022年11月18日


俺は自分の住むアパートで朝からビールを飲みながらバイト探しのフリーペーパーを机代わりにしてニュースを観ていた。


年末恒例、苗字はどれかナンバーワン、今年の1位は昨年に続き、佐藤さんでーす。


若い新人であろう女子アナが言う。

「続きまして2位は鈴木さん、3位は加藤さんという結果になりました。やはり今年も佐藤という結果になりましたが、どう思われますか?斎藤さん」


コメンテーターとして座っている斎藤と呼ばれたオッサンが答える。

ネームプリンス 齋藤とかいうちょっと知れた姓名判断の占い師だそうだ。

「いやぁまぁそうなるでしょうな。やはり日本の苗字と言えば佐藤ですよハッハッハっ。私も間に一文字・・」


ピッ


「相変わらずつまんねぇ事してんなぁ・・」と呟き俺はテレビを消した。

もっと大事なニュースとかあるだろ。どうせなら求人特集とかやってくれた方が俺は見るけどなぁと3日洗ってない頭をかいて悪態を垂れた。

しかしこうはいうもののやはり自分の苗字はどうなのかやはり気になってしまいスマホで調べた。

「えーっと・・・おっ36位か、んで上が山内で下が村、んで、そこから〜」と何気なくスマホを下にスクロールしていたらドスンっとアパートの郵便受けに何かが入った音がした。


なんだ?と見に行ってみるとそこには相変わらず俺に

は縁のないであろう不動産のチラシをおしのけるようにヤケに分厚い封筒が入っていた。

なんだこれ?

部屋に戻りチラシをゴミ袋に捨て封筒を開けた。


手紙?


中には一通の手紙と一緒に見たこともない白い帯で止められた万札が入っていた。

手に取るとテレビで誘拐事件とかの時に見る束になった100万円が入っている。

「はぁ!!な、な、なんだこれ??え!えぇ!?どういう事だ!?!?」

と動揺しながら同封された手紙を読むとこう書かれていた。


おめでとうございます。

100万円はあなたのモノです。


良かったですね。

あなたは選ばれたモノなのです。


決まった仕事も貯金残高も残り265385円しかない、引き出す手数料すら気になってしまいサイフの中があと200円にならなければATMの前に立つのも躊躇するあなたには喉から手が出るホド欲しいモノでしょう、 佐藤さん?

差し上げます。

差し上げますよ。

この100万円はあなたのモノです。

好きに使ってくださって結構です。


だれだよ??なんで俺の事を知ってるんだ!

ってか200円にならなきゃ下ろさないって俺でも気付いてねぇーぞ、多分。

。。。


一瞬車が通り過ぎる音がした。


差出人の名前はない。

よく見ると消印もない。


定職についてないどころか手紙を出す?ましてや金をくれる知り合いなんざ心当たりも無い。

俺には100万円なんて夢のまた夢である。

その俺に100万円をくれるなんて。

なにやら無性に気になる文面だが俺は嬉しかった。


間違いか?でも俺の名前も書いてある。俺宛にまちがいはなさそうだ。

しかし誰からだ?

何のために?

そう思いながら手紙の続きを読んだ。


ただし


1週間でいいです。

お名前を 佐藤 ではなく サイトウとして暮らして下さい。

それだけでいいのです。


いいですか。 たった1週間あなたのお名前を 佐藤 ではなく サイトウ にして暮らして頂くだけなんです。

それだけで100万円が手に入るのです。


100万円あれば何が出来ますか?

バイト探しではなく就職活動も出来るでしょう。


お決めになりましたら下記のURLよりアクセスして下さい。

サイトウとして暮らして頂けるか確認画面が出ます。

そこに「ハイ」と「イイエ」の選択画面が出ますので「ハイ」を選んでください。


それで晴れて100万円があなたのモノです。

おイヤでしたら交番にでも届けて下さい。

それでも落とし主が名乗り出なければ100万円はあなたのモノになりますから?

さぁ、よき100万円ライフを。


手紙はそこで終わっていた。


馬鹿な話もあったもんだ、これならどの道俺に100万やるって話じゃねぇかと思いながら封筒の中にある札束に触れる。


あぁなんか気持ち悪いな。でも消印もないって事は直接入れに来たって事だよな?

それに間違いだとしてもどの道この100万は俺の物になるってんだから。

サイトウだろ?アクセスするだけだ、1週間名前をサイトウって名乗ればいいんだろ?バイトだ!そうだ、バイトだよ。なんか知らんが多分どっかの議員が選挙の票欲しさに低所得者に金配ってんだろ?

いいぜ。貰ってやるよ、佐藤だろうが斎藤だろうがなんでもいい。

100万もらってやるよ。

誰がなんと言おうがこの100万はこの俺、斎藤のもんだ。

俺はイキイキしながら手紙にあったURLにアクセスし「ハイ」を選んだ。


画面が切り替わり


ようこそ、サイトウさん

よき100万円ライフを。


俺は電源を落とした。



2


まず身なりを整えよう


そう思い床屋へ行こうとしたが閉まっている。


「なんだよ、おい。あぁん?あぁそうか、今日は月曜か、ちくしょう」と勢いに任せドアを蹴ろうとしたがとどまった。


おいおい、俺は今100万持ってんだぜ?100万持ってるやつぁ持ってるやつの振る舞い方ってあるだろう。

と蹴るために後ろに振り挙げた足をフワッと方向を変えさせて別の方へ足を出した。

慣れない動きに少しよろめいたが何事も無かった様に歩き始めた。


「ふふんっ、そうだよ 今日の俺は100万持ってるんだから、リッチだ。こんな事気にするな。なぁまずは腹でも満たすか。

久々に外で飲むのもいいな。」


そう思い街を歩いてみる、がしかしどこもかしこも空いていない。それどころか歩いてる人も少ない。平日の昼間であるのにも関わらずだ。


「おいおい、どうしちまったんだこの街はよう。せっかく100万持ってんのに使えるところがねぇじゃねぇか」


ただでも風が冷たいのにビールでタプタプの運動不足の体には数分歩くだけでキツい。

息が苦しい。


どこかに腰を下ろそうとした時、運良くジュースの自動販売機を見つけた。


何か飲もうと自販機の前に立った時、俺は唖然とした。

「なんだぁ!これはどういう事だ!?」

自販機に購入ボタンはあるもののコインを入れる投入口がない。

代わりに自販機のボタンには佐藤様専用とある。

すると自販機から冷たい機械音声が流れる。


「イラッシャイマセ、コチラハ サトウサマセンヨウハンバイキトナッテオリマス。シツレイデスガアナタサマハ サトウサマ デイラッシャイマスカ?」

と話しかけてくる。すかさず俺は

「佐藤?あぁ俺は砂糖だよ、佐藤 健士だよ。」

と言うと

「サトウ タケシ サマ。タイヘン モウシワケアリマセンガ サトウ タケシ サマ ノトウロクハミツカリマセンデシタ 」

とメッセージが流れる。

「はぁ?なんだ?佐藤健士がみつからない?どういう事だ?あ、そうかそういう事か。俺は今日からサイトウだ。1週間だけサイトウだったんだ」と自分が今サイトウである事を思い出した。


「あぁ、わりぃ、俺はー、その、サイトウだ。サイトウ健士だ」と言うと

「サイトウ タケシサマ デスネ。 トウロクガミツカリマシタ。サイトウタカシサマ ニハ サイトウタカシサマ リョウキンデノハンバイトナリマス。ゴリヨウアリガトウゴザイマス」

と音声が終わると同時に自販機の飲み物の値段表記が高速で回り始め変化し止まった。


目にした金額に驚きと共に声を上げた。


「は?お茶が1本、一、十、百、千、、・、、、35万?35万円!?バカ言ってんじゃねぇよ。どうなってんだ」


何かの間違いだと思い小走りに歩き始めた。

しかしやはり人もいなけりゃ開いてる店もない。まるで世界が1度終わったかの様な光景だ。


ようやく横断歩道の向かいに自販機がならんでいるのが見えた。

「なんかの間違いだ、間違いだ」と自分に言い聞かせ歩道を渡り自販機の前に差し掛かった時にそこに並んでる自販機達が一斉に「オカエリナサイマセ サイトウ タカシ サマ ゴリヨウアリガトウゴザイマス」と次々に値段表記がサイトウタカシ料金に変わる。


「うわぁぁぁぁ あ や や やめろぉぉ、やめてくれぇぇぇ」

俺はサイトウタカシとの機械音声が響自販機達から頭を抑えながら逃げるように走り抜けた。


オレの横を車が通り過ぎた。



3



どこまで来たのだろうか。


どこにいるのだろうか。


もう周りは暗い。

頼りの街灯も着いては消え、着いては消えをくりかえしている。


「なにがおきたんだ。」


あれからどれくらい経つのか、オレは走り回り何も分からない現状から逃げ回り疲れきっていた。


ようやく座れそうな所を見つけ腰をかける。

すると身体に激痛が走った。

んぐっ、、、てぇ

体を見るとどこで着いたかも分からない擦り傷や切り傷だらけだった。打ったのか打撲もあちこち激しい。


どうなってんだ。落ち着け。落ち着けよ。

オレはただ手紙をもらってその中には手紙と・・そうだ!100万!!どこだ、確かに。確かに封筒ごと持って


するとズボンの膨らみに気付く。

急いで中を漁ると封筒がある、中にはしっかり白い帯で締められた100万円が入っている。


はぁはぁ、良かった。100万は無事だ。

ひとまず安心した。

でもこれからどうしたらいいんだ。まずここはどこだ?

何か手がかりになりそうな物はないかと、周りを見回すと何やら人の気配がした。


怖くなり急いで手近にあった木の枝を武器に立ち上がった。


「だれだ!そこにいるんだろ!?わかってるぞ、誰だ?出てこい、さぁオレは武器を持ってる。さぁどこからでもかかって来い」

そう怒鳴りつけるとゆっくりと人影が現れた。

来いと怒鳴るが早いか遅いか、一瞬早く人影が言った。


「お前もか?」


「あぁん?お前も?もってなんだよ、説明しろ!あぁ悪い、オレもワケがわからなくてな、怪我させようって訳じゃないんだ。ほら、争おうって事じゃないんだ。なぁ何か知ってるのか?なら教えてくれ。なぁ教えてくれ。オレもってどういう事なんだ?」

武器を投げ捨てるとゆるゆると人影が姿を表した。見ると自分と同じく身体中傷だらけだ、と同時にそこかしこからも人がずりずりと姿を表した。

そして


「お前もだろ、佐藤」


佐藤?佐藤?訳が分からない


「あぁ、オレは佐」と言いかけて口を閉ざした。

そうだ俺はどうであれ今はサイトウなんだ。

どれだけ経ったかわからんが今、俺が佐藤だと話すのは得策じゃない。ここはサイトウでいくしかない。


そう思い「佐藤?なんだ??誰だそれは。オレはサイトウだ。よくわからんが自販機まで俺の事をしってたぞ。お前たちもここに来るまでに自販機の前くらい通ったろ?そうだよ、オレがサイトウ タカシだよ」


そういうと出てきた影たちが口々にボソボソと言いはじめる。

一斉に言い出すもんだから重なって何を言ってるのか分からない。

「うるせぇよ。なんだよハッキリ言えよ。何が言いてぇんだよ!」


と怒鳴りつけると着き消える電灯に照らされた影の1人が答えた。


「オレタチもだよ」


空にはヘリの音と共にきらびやかなライトが何かを探す様に動き回っている。


4

2022年11月25日


今日の占い

今日のラッキーネームは佐藤のみなさん。

1番多いから今日も連続ラッキーさん。

ラッキーアイテムは自分とどこか似てる人だよ。


私は斎藤 正義、姓名判断の占い師だ。

巷ではネームプリンス 齋藤と言ったほうが伝わるだろう。

今日は朝の生放送の人気ニュース番組の毎年恒例になっているコーナー 苗字はなにかナンバーワン の監修をしている。


「先生、準備よろしいでしょうか?」

と番組ADの加藤君が呼びに来た。


先生入られまーすとのAD加藤君の声と共にコーナーはスタートした。


「では最後に先生、一言お願いします」と若い新人女子アナに振られた。

「えぇまぁ名前は1文字で変わります。私も齋藤ですが1文字違っていたら、ましてや今年も1番になった佐藤だったら。今頃どんな人生を歩んでいるやらわかりませんからねぇ」




終わり








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