とあるデパートの六階駐車場についての注意事項
熱帯夜になりそうなモワッとした空気の、そんな夜だった。
先輩のベテラン警備員から聞いた、ある注意事項が妙に私の心をざわめかせる。
「六階駐車場には消灯後絶対に入らないこと」
私は、東京都郊外のとある大型デパートに派遣されている警備員。
閉店後の警備員の仕事の一つに、屋内駐車場に置きっぱなしの車にロック掛けたり張り紙をはったりするという仕事がある。
今日も同僚と二人一組でその仕事を終え、責任者に完了報告を入れる。
そして駐車場から出ようとした時、私は一台の車を発見してしまった。
なぜ見逃してしまったのか。
大きい柱のちょうど影になる部分だが、いつもなら見逃すはずがないのだが。
むしろなぜ発見してしまったのか。
同僚に「おい」と合図し二人でその車の元に向かう。
――と、そのとき。
バチっ
照明が落とされた。
ギリギリ見えなくは無いが、懐中電灯をつける。
「そういえば、ここ六階だな」
「ああ」
同僚と作業スピードをあげていく。
「急げ」
「ああ」
どうして六階駐車場には消灯後絶対に入ってはいけないのか。
その理由は分からない。
だが、私と同僚は急いで作業を終わらせていく。
カチャッ カチャッ
ガサッ ガササッ
私たちの作業音だけが、心細げに辺りに響いている。
真夏の夜の生暖かい風が、不快に首筋を撫でる。
「消灯後に入った訳じゃないからな」
「そうだな、入ったんじゃなくて出てないだけだから」
「だよな」
同僚と二人でうなづきあう。
「そんな訳ないだろう」