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バルケインはただ幸せに鋼を叩きたい  作者: ロヂャーさん
人魔事変
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クラっと

忘れ去られた土地、というのがこの地の名前の代わりだった。


魔王が破れ、王国軍が押しかけ、1度は占拠され、残党狩りと称して残らず焼き払われ、荒らしに荒らされた後はぺんぺん草も生えない。


ある意味当たり前だが、この土地に移住しようなどと思う民は全く集まらず、完全に捨て置かれた忌み地となった。


大枚をはたいて土地を収めよとの命令を受けた子爵はその金の大半を着服し、その土地の1番端に屋敷を建てただけ。


その子爵もまた着服がばれて居なくなれば後任になることを誰もが渋り、結局と持ち回り制となり、その1番離れた屋敷を手入れするだけの担当が代わる代わる訪れるだけとなった。


何もかも接収されたと知るトレジャーハンターやその他冒険家は一切訪れないし、草の1本もないとあれば採取に来る理由もない。


時折浮浪者が足を踏み入れ、姿を消すことはあるが、誰が捜索する訳でもない。


あるいは魔物にでもやられたかと言う話が囁かれても、間近にある集落に降りて来ることもは無ければわざわざ兵を呼ぶというのもはばかられる。


と言うのであれば、この土地に行き場のない者が隠れ住むのは逆に容易いものだった。


魔王の根城は再びスレイの主導のもと魔族が集まる場となった。


焼畑という言葉を彼らは知らないだろうが、焼き払われた集落を耕した畑からは多くの作物が採れた。


残党狩りから逃げおおせた魔族たちは少しずつ再集結し、さらに噂を聞きつけた迫害を受けた種族や国を追われた者などが加わり、次第に大きな集団となっていった。

その誰をも拒まなかった懐の大きさ、ある種の楽園がそこにはあった。


人が増えれば商いをするものが現れ、食事処や宿、あらゆる施設が所々に、自然に生まれた。


そこに裏の世界に生きる行商人を引き入れて、王国やその他の国の商品を取り入れ、その様相は繁華街と畑だけで出来た国そのもの。


いつしか、小さかった自警団は軍隊と言える程の規模になり、人が増えればどんどんと生活圏が広がっていった。


それは遅かれ早かれ、ではあった。


偶然、たまたまその時、土地の持ち回りが回ってきた貴族が勤勉で、冒険者に見回りをさせようなどと思わなければ今日この時も見つかることは無かっただろう。


とはいえ、そのたまたまが永遠に訪れないということもまた逆にありえないので、ある意味では必然とも言える。


どうあれ、起きてしまったものは戻らない。


それからは単純だ。

スレイを初めとする自衛組織もとい魔族の軍勢は攻め込んできた王国軍を圧倒した。


攻め返すことこそしなかったからなんとか膠着状態ではあるが、大敗を帰した王国軍は大打撃を受けた。

そして軍備回復の時を待つと共に多額の懸賞金をスレイに掛け、英雄の到来を待つこととなったのである。




「これは大まかな流れだけどね」

再建された石造りの建物、元魔王の根城のなかで比較的小さな寝室。

ベッド脇の小椅子に掛けたスレイは長い話を終え、やっとと一息ついて湯気の収まったマグを傾ける。


「まぁ、とりあえず把握はした」

ベッドから上半身を起こしたエイダは、しばらくと編んでいないびらびらの赤毛を弄りながら空になったマグを返して少しの間沈黙が生まれる。


「で、うちらに何をしてもらおうってのさ?」

何か目的があるんだろ?と、言外に込めて聞いてみる。

すごむような表情だが、与えられたネル生地のゆったりとした寝間着だとなんとも迫力に欠ける気がする。

そのことに、ほんの少し笑みを漏らすスレイは彼女の額に怒りマークが浮かんだのを見て、謝りる代わりに答える。


「そこまで深い話じゃないよ、連れてきたのは、このままだと、2人とも殺されていたからさ」

彼は疑問符でもない沈黙を受け、言葉を足して補足する。


「彼ら、プロだった

それもサンドラの事が明るみに出てから間を置かずに現れた、事情を知る誰かが雇ったとしか思えない」

あとは言うまでもない、寝込んでベッドから顔くらいしか出せない冒険者に、強さはともかく、こと防衛には向かない全方位攻撃特化の火精霊(サラマンダー)


あのままなら、少なくともエイダは確実に命を落としたことは想像にかたくない。


「んじゃ、本調子とまではいかねぇけど、そいつら引っ張って吐かせりゃいいんだろ?」


「殺したよ」


「んあ?」


「あの手のプロは口を割らない、時間の無駄というものだよ」

そこには何度と試したに違いない、疲れというものがあった。


「んだよ、ウチらに任してくれりゃ、拷問は得意なやつ居たのに」


「そうだったのか」


「あんたの100倍は拷問しまくってるよ多分、あの子エルフだし」


「子って言うと女の子か、少し会ってみたい気もするな」

そう笑うと、調子狂うというようにエイダはムスッとする。


長い沈黙。

それからスレイは憂いた表情で口を開く。


「俺が殺しをしたこと、何も言わないんだな……」


その許しを求める様な表情を見ても、エイダは神官の顔にはならない。


「私だって、余裕がなけりゃ殺すしかない、生きるか死ぬかだしよ」


「そうか……」


それからまた少し黙ってから、再び口を開く。


「俺を主と慕ってる人達はさ、多分、俺が笑いながら無差別に惨殺しまくっても、俺の言うことは正しいって、そう言うんだ……

だったらなにが、一体なにが正しいのか、それが時折分からなくなるんだ」

それが怖くなる。とは言わなかったが、手の震えからなんとなく分かった。


(正しい、か……)

エイダは、深く息をついて、ぼうっと天井を見上げる。


「正しいなんて、誰にもわかんねぇよ、後出しでああすればって言われたって、戻れねぇし、知りようもねぇ」


エイダは想像しか出来ない、しかしその想像の中ですらも重すぎる重圧を彼は抱えている筈だった。


その強さで王国を滅ぼす事も容易、あるいは王国軍を打倒しつつ誰一人死なせない事も可能だったかもしれない。


それでも殺した。

もしかしたら、膠着して時間を作ることか、力を見せることか、あるいは他になにか意図があったのかもしれないが、しかして正当化の理由にはなり得ない。


だがそれは、彼にも守るべきものがあって、それが王国民ではなかった。というそれだけに尽きるのことなのだろう。


一つの決断、例えばそこに迷いはなかったのかもしれない。

それでも、のし掛るその重みは変わらない。

受けるのは1人の人間。それはどれだけ残酷な事だろうか。


エイダは胸糞が悪いに近い、モヤモヤしたものが胸に溜まった。


「まぁ、それでも考えちまうんだよな……」


気を張るしかない大勢の臣下の中に1人だけの頭領。息が詰まるだろう。


「頭、貸しな」

エイダはそう言って、疑問符を浮かべて寄せてきた彼の首に手を回すと、豊かな胸で彼の頭を包んだ。


「疲れてる時はさ、お、お、おっぱいだって、き、聞いてな」

照れなきゃ、何時もの姉貴分みたいなカッコもついただろうに。

そうは思っても声が震えた。


だが、不思議と彼を包んでしばらく、その緊張が和らぐ気がした。


彼は真っ直ぐだ。

仲間の為にずっと1人で戦っていたに違いない。

そんな芯の強さ。


初めて会った時、仲間に再開した時に見せたあの柔らかな笑顔。

時に無慈悲に敵を殺しながら、その中に見える心根の優しさ。

(そういうのに、クラっと来ちまったのかな)


彼女はまた天井を見つめ、時間が過ぎていくのを自分の鼓動音だけで確認していた。




そのあと、何時までたっても離れないスレイに半ば照れながら付き合って居たらサンドラが現れて、その拍子にゲンコツを入れてしまったりしたが、まぁ仕方がない。


それから彼女は、彼らがバル達に「彼女は預かっている」などと言う極めて説明不足な手紙しか出していないことを知り、慌てて外出の準備を進めた。


「このままじゃ奴ら乗り込んで来ちまう」

(下手したら軍隊滅ぶぞ、具体的にはフィジカルお化けのトゥルーテちゃんとかにやられて)


半ば笑いながら仲間と連絡を取り合うスレイを見て、何だか仲間になったみたいだと思い、そうなってくれればなとも頭の端で願ってしまうエイダがいた。


結局と、彼は自分たちに何をさせたかったのか、彼がそれに答えていないと気づくのは更に後になっての事だった。

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