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バルケインはただ幸せに鋼を叩きたい  作者: ロヂャーさん
人魔事変
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みんな短気

大きな暖炉と窓からの陽光がこうこうと辺りを照らす談話室。

そこには槍を携えた数名の神官がテーブルと2つのソファの周りをとり取り囲む。


そのソファには剣幕でこそないが信頼などという言葉とは無縁な敵意に近い表情の神官団の長。


隣にはこの局面をどう乗り越えるか内心頭を抱えながらも笑顔を崩さないエイダ。


対面には面倒くさそうに組んだ足に頬杖をつくバルと、ガチガチに緊張した面持ちのトゥルーテ。

その間にはサンドラが2本の槍を突きつけられ、不機嫌ながらも大人しく座っていた。


彼女が後ろの神官をギロリと睨むと、恐れをなしてか警戒してか、一気に緊張が走るのがわかる。


「エイダ殿はこのことをご存知だったのですね?」

初めから有無を言わさぬ問いかけ。

詰問か尋問か、その境界が曖昧な、しかし名目上は事情聴取とされるものが始まった。


「う、はい」

誤魔化しようがない。


「では何故このようなことを企てたのです?」


「この子は邪悪な存在ではありません、そこには大いなる誤解が生じているのです」


「彼女は、自らを魔族と名乗ったのですよね?」


「見てわかる通りですよ、彼女は上位の火精霊(サラマンダー)、魔物や悪魔の類では無いのです」

なんとか苦し紛れでもこの論で丸め込もうとするエイダ。


「サンドラはいい子なんです」

何をどう言えばいいのか全くわからず、感情論に出るトゥルーテ。


「別に誰に迷惑もかかってねぇんだからよぉ、良いじゃねぇか」

そこに態度が甚だ大きいバルが続いていよいよ訳が分からなくなってくる。


「そこの魔族と名乗る本人は、何か申し開きがありますかな?」

神官団の長は訝しみながらも聞いてみる。


サンドラはふぅと一息付き、口を開く。


「私は……」

「魔族の言葉などに耳を傾けるものか!」

後ろの槍を突きつける神官が言葉を遮る。


「おい」

「こいつの言葉を聞くと、悪魔の呪いにかけられるぞ!」

睨んですごむサンドラに、口を開くなとばかりに槍をずいと突き付ける。


男は完全に恐慌状態になっていた。


「お黙りなさい、人の言い分を聞かずに上辺だけで判断するなどおこがましい、あなたは神の目をお持ちなのですか?」


エイダはあくまでも冷静に神官を窘める。


同じ神官であるエイダに言われた言葉はある程度彼に刺さるが、それでも槍を持つ手を緩めない。

「し、しかし」


「彼女の言う通りです」

神官長は静かに、しかし強く言い放つ。


「で、ですが」

「ここは、神に神託を委ねるべき時なのです」


そう言ってからゆっくりと自分の持つ槍先のついた錫杖をサンドラに向ける神官長。


「サンドラ殿と申されましたな、貴方にはこの儀式を受けるかどうか、選択する自由があります」


そう前置きをしてから儀式についての説明に入る。


要約すると

この槍で神の奇跡を賜った光を放つ。


この光は聖光(ホーリーライト)と呼ばれる奇跡で、邪悪なるものには光が突き刺さるが、善良なる者には決して刺さることは無いという。


この神の光に貫かれなかった場合、全ての疑いは晴れ、疑うことは逆に神に背く行いになる。


逆に貫かれた場合、それそのものが裁きとなり、天に召される事によって罪は許される。


つまりはどちらに転んでも、罪人は居なくなる。


という単純なものだ。


サンドラはよくよく考える、自分は罪を犯してきたか。


問われるまでもなく、イエス。

しかし、問われているのはその命の本質、自分はいつも主のため、生きるため、仲間を守るため、それだけのために汚れ仕事も行ってきたのだ。


こと今に至っても、それが完全なる悪とは思えなかった。


自分の主は、無意味に命を刈り取るような方ではない。その全ての意図は分からないが、何か理由があったはずだ。


そう考えるぐらい、サンドラは主であるスレイを信じていた。


「受ける」

サンドラは意を決して答える。


トゥルーテは心配そうに、エイダの顔には変化は見られないが、その実、ひたりと汗が垂れるような言いしれない不安があった。




神官団の長はゆっくりと槍を構え、目を瞑りながら、小さく祝詞を口にする。


その言葉と同時に光が槍に満ち満ちる。


「神よ、その光をもって……」


と、言葉を区切りながら槍を軽く上に振りかぶる。


「闇を祓いたまえ!!」


そう言い放ちながら、槍を強く握りこんで振り下ろす。


サンドラは目を瞑った。

トゥルーテの心臓は割れそうに、もはや生きた心地がしないぐらいにバクバクとがなりたてる。


そして強い光がサンドラに降り注ぐ


ことは無かった。




「どういうつもりですかな?」

神官長は問う。


「どうもこうもねぇだろうがよ」

そう言いながら、蹴り上げた足を槍から退けるバル。


その後ろで別の神官が光に肩を突き刺されて呻く。


「わかりませんな」


「お前、そうやって何人も殺してきたのか?」

バルは睨みつけて詰問する。


「彼の心に邪悪があったのでしょう」

神官長は涼しい顔でさも当然のように答えて見せた。


「いや違うね、使う奇跡が違ぇんだろ?そいつは聖撃(ホーリースマイト)、そうだろ?」


「何の事やら、私は祝詞を……」

「祝詞なんて宛にならねぇよ、俺の知ってる神官は面白半分に教えてくれたよ

神官はその祈りによって使う奇跡が変えられる、だから神官を警戒する手合いにはあえて祝詞と違う奇跡を使ったりもするってな」


「っ……」

神官が何かを口にしようとしたタイミングに合わせて、あえて被せるように、喋らせないように続ける。


「つまりてめぇは、殺す奴と殺さねぇやつ、勝手に選んできたんだろ?

そうなると、例えば金を積まれて罪を無くしてやったり、逆に気に入らねぇ奴を殺したり、そんな事も出来るわなぁ」


「何を馬鹿な……」


「本当ですか?」

エイダは言葉に気を込めるが如く、決して音量の大小でない真に迫る迫力の声で問う。


神官長は突然に向けられた甚だしい殺気にびくりと震える。

正に、正に強者の気配というものを感じで足がかくついた。


「ち、ちが、ちが」

「言葉がおぼつかないから、まだ、答えていない事にしてあげます

私、奇跡で嘘を看破出来ますよ?」


神官長は口をパクパクとさせ、絞るように口にする。


「こ、この奇跡は、そもそもアンデッドと悪魔にしか効かない、真に悪意ある罪人ですらも裁くことが、で、出来ない

だ、だから私は、常に正しい判断基準のもと、この奇跡を行使してきt」


それを言い切る前に、神官長の顔面に拳がめり込む。


そのまま窓ガラスを突き破り、5、6メートル吹っ飛んでから背中で滑って止まる。


「この件は聖掌教会を通して厳重に抗議させて頂きます、本日はお引き取り下さい」


にこやかに、ある種殴りたいやつを殴れて晴れやかな気持ちで、残りの神官団に告げる。


しかし、それでも、わからず屋というものはもので。


「私は神官長を支持します、そこの女は魔族の類、滅ぼさなくてはならぬのだ!皆そうだろ?」


それは先程サンドラの言葉を遮った男だった。


「カッコイイこと言ってるとこ悪いんだがよ、後ろ、誰もいないぜ?」


男はあれっと振り返り、仲間たちが既に撤退していることに気付く。


その後ろから槍を捕まれ、その槍から尋常でない熱が伝わってきて、悲鳴と薄皮を残して手を離す。


「とっとと帰れや」

そう言いながら多量の怒りを込めた笑顔で槍を握り、その極大なる熱量でもって槍を真ん中から溶かし潰すサンドラ。


男はそれを見て絶叫しながら蜘蛛の子散らすように全力ダッシュで逃げていった。


そして安心出来る距離になった所で、大声で捨て台詞を吐こうと口を開く。


バルはそれを見るや否や、イラゲージがマックスまで振り切れたトゥルーテに短く指示を出す。

「やれ」


それに対し、彼女は剣を振ることで答える。

「扇!」


「……」

男が発したその声が届く前に、彼はそこから姿を消す。


トゥルーテの尋常ならざる剛力の剣風によって、男は遥か彼方まで吹き飛んだのだった。


「いやぁ、スッキリしましたね」

額に手をかざし、何処まで行ったか見るトゥルーテは気分までスッキリしたようだ。


「やっぱ耐えられなかったな〜、あの顔面」

エイダはのんびり伸びをして、屋内に戻っていく。


サンドラはぷっと吹きだして

「皆短期すぎかよ」と笑った。


聖撃とは言うもののだ。

奇跡とは、そもそも術者の信仰心と精神力でもって神の御力の一部を、人の住まう地上に下ろすもの。


恐らく、サンドラの鱗をもってすればあの神官如きの一撃などでは傷一つ付けられない。


それでも、皆が自分のことのよう、いや、それ以上に怒りを感じでくれていたことに、彼女は少しばかりでもない嬉しさを感じていたのだった。




「あとはうちの教会に任せとけよ、悪くはしねぇから」

そうエイダはある種の男気を見せ、自分の教会に報告に行くと去っていった。


「ほんと、そこまで面倒見て貰うつもり無かったのに、なんか悪いな……」

サンドラは気まずそうに、少し照れた。


「それにしても、奇跡って凄いんですね、回復だけじゃなくて攻撃とかもあるんですね、嘘とかも見抜くし」

トゥルーテは今日一日で心底神官というものを見直した。


「んぁ?嘘見抜くって?そんなん嘘に決まってんだろ、んなん今日初めて聞いたわ」


「え?」


はてさて、彼女はそのような奇跡を賜ったのか、それは神と彼女しか知らない。

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