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バルケインはただ幸せに鋼を叩きたい  作者: ロヂャーさん
魔族との邂逅
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獣人のお迎え

平穏な日常、その終わりは突然に。


それはトゥルーテとサンドラの稽古中、唐突に訪れた。


工房の軒先、些かに低くなったがまだ高く感じる昼間の日差しの下、素振りの音。

時折曲がってるとか、下がってるとか、伸びてないとか、そんな注意の声が響く中であった。


その終わりは獣人の男の姿をしていた。

筋骨隆々、巨体と呼ぶに相応しい体に橙色の体毛が覆う猫科動物の獣人。

服は下半身しかなく、上半身は宝石も着いていない金属製のネックレスだけ。


「いよぅ、よろしくやってると思ったら、そういうよろしくだったのかよ、サンドラ?」

胸筋から響いているような太く大きい声。

馴れ馴れしくすら感じる声色を聞くや否や、警戒の色を見せるサンドラ


「お知り合いですか?」

彼女がバリバリの臨戦態勢に入る中、トゥルーテは終始のんびりとした顔で問う。


「キール、ウチんとこの幹部、猫科獣人族の族長」

とサンドラは耳打ちしてから「何の用だ」と問う。


キールはそんなに剣幕にされる言われるなどないと言うように大仰に両手を上げる。

いかつい顔、それでもなんとなく表情の機微が出る。

「おいおい、俺はお前を迎えに来たんだぜ?」


「誰の命令だ」

それでもサンドラは剣幕に睨んで威嚇する。


「わざわざ言わせんのか?俺たちに命令出来る存在なんてただ1人だろうが」

それをなんでもないようにずかずかと近づくキール。


「私も主に言われて彼女らを見に来た、仕事は放棄出来ない、主にはもうしばらくと伝えてくれ」


「はぁ、なるほどな、わかったわかった」

キールは2人の目の前まで来て止まると納得したように頷く。


次の瞬間、彼はトゥルーテに向かって拳をふりかぶる。

なんのためらいもなく、それを振り下ろそうとする一瞬前にサンドラが間に入る。


結果、寸止めにという形になり、拳の奥、サンドラの顔に風が吹き抜ける。

「何の真似だ?」


「俺の仕事の邪魔だ、それに連れて帰れば、両方仕事放棄にならねぇだろ?」


「殺すつもりだったろ」


「死体でも見てりゃ良いだろうが」

キールは最後に食い気味で吐き捨てて話を打ち切った。


改めて、サンドラは語気を強めて口にする。

「私の邪魔をするな」


彼は呆れたため息をつく

「そんなにそいつらが大事ってか、完全に丸め込まれやがって」


ドッと言う鈍い音がして、サンドラはみぞおちを抑えて沈む。

残された拳からは熱からか、威力からか、蒸気が立ち上っている。


「正気に戻れ」


トゥルーテはそれを受け止めて、介抱しようとするが、片手で断られる、大丈夫だからと


「ちょっと、誰だか知らないですけど、女の子に手をあげるなんて最低ですよ!」

頭の端っこにいつも手をあげてくる男が浮かぶが、棚にあげることにした。


キールはふんと息を着くが、言葉をかわすのも面倒になったらしい

「知らん、拳でかたぁつけよう」


サンドラはふはっと笑って忠告する。

「お前じゃ勝てねぇよ」


キールはきょとんとするがさらに豪胆にぶはっと吹き出しす。

「このマヌケそうな女にってか?」


指を指されたトゥルーテはカチンと来たようでぬるりと構える。

サンドラは戦いが始まる前にトゥルーテに言う。

「殺さないでやってくれ」


「綺麗な切断面だと、綺麗に縫合出来るんですよ?サンドラ」

目がマジになっているトゥルーテに、サンドラは何も言えなくなった。




2人はサンドラを挟んだ状態から同時に脇にズレる。

その距離感を感じて、なるほどとお互いに納得しあった。

相手は間合いと言うものをしっかりと理解している、


剣は腕の長さより若干と長い、正確に体に向けられれば、拳が届くよりも前に刺さってしまう。


さりとて、体の中心に剣の刃を通そうとしても、先に拳が届く距離に入ることになる。


手を伸ばせば拳が切っ先に届く距離、そこで互いに歩を止めた。

キールは拳にメリケンのようなものをしっかりと装着したが、はて、()()を言わぬは卑怯であろうか、トゥルーテは考え始める。


思った通り、彼は金属部分で剣にコツンと触れさせる。構えを乱す為だ。

しかし、何か違和感を感じて直ぐに体ごと手を引く。


キールは自分の手を見るやヒューと口笛を吹く。

「なるほど、切れてやがる」

外したメリケンの切れ目を起点にパキッと握り折って投げ捨てる。


「サンドラは、気付かずに自分から斬られに来ましたね」


「あんだけ熱いんだ、あいつは近接戦闘の相手が居なくて、疎いんだよ、しかし」

と一旦言葉を区切る。


拳の先についたほんの小さな刺傷を舐めながら、牙を見せてニヤリと笑う。

「滾るねぇ」


キールは構えを変えてステップを踏む、体の中心を小刻み変えながら、間合いを行ったり来たりする。


しかし、トゥルーテの剣先は完全に男の中心から揺るがない。

すん、と彼女が一足踏み込んだだけで、彼はステップの範囲を変えて後退せざるを得ない。


汗が飛ぶ。

キールはニヤリとまた笑い、今度は剣先の目の前まで顔を近づける。

今度はトゥルーテが一歩後退する。


その剣の持ち手のすぐ手前を足がすり抜ける、手元を刈る気でいたのだ。

「こちらの足の方が、剣よりほんの少し長いようだな」


「そのようですね」


彼は更に前へ出る、足を意識させる動きをあえてする。

ほんの少し、剣尖が下がる。

その、一瞬の構えの移行、その動きに合わせて、サッと詰め寄る。


拳が届く距離についた!

読み合いは俺の勝ちだ!そうキールは確信した。

右拳を突き出そうとする。

しかし、何故か右手が前にでない。

筋肉の引き締まる感触、感覚、そういったものが全く感じられない


(なんだ?流石におかしい)

二度目の違和感を感じて瞬時に距離をとる。


「あなたの敗因は、拳は剣より技の出が早いと考えた事です」


「なっ!」

キールは驚愕する、距離をとるその前の位置、そこに自分の肩から先が転がっていたのだ。


「もう片方、それに両足も同時に切れました、そうしなかったのは、失血死すると思ったからです」


唐突なること突風の如し

ガストウィンド


構えの状態から、剣に伝える力だけを遅らせてバネのような動きで初速をあげた剣撃。


剣をそう動かすと決め、体は先に動かしていたのだ。

それを可能にするのは技量と膂力、反応速度もあるが、つまるところ、読み。

その部分で彼は敗北したと言わざるを得なかった。


片腕で出血を抑えるキール


痛みは驚くほど少ない。

が、それを意に介さず次の拳、脚を出したらどうなるか、彼女の何処までも冷静な、言い換えるなら冷徹なその目を見れば嫌でもわかった。


「目にも止まらぬ、か、俺の負けだ」


「寄っていってください、縫合しますから」


「……わかった」

口惜しそうに敗北を噛み締める。

それと同時に、相手に対する敬意、冷めやらぬ興奮に、小さくにやつくキールであった。

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