完璧な計画
山脈に入り早15日が経過した。
地盤の固そうな地層の隆起箇所を探し周り、穴を掘り。
そして別の箇所からまた掘りと繰り返し丸12日。
何も当たらない事に疲労が見え初める頃合いになる。
それまでに採れたものといえば荷車数台分の石炭ぐらいなもの。
それをどうにかこうにか商会に買い取ってもらい、借金の猶予を伸ばし、採掘を続行している。
ドワーフのおっちゃんに聞き齧った程度の知識で何故ここまで来てしまったのか。
そんな後悔をするまでにそう時間はかからなかった。
目の前の大きな崖には大きな穴が数箇所、後ろには森と言うには些か狭い林のような木々が広がる。
土の質は濡れて固く、何かが含まれていそうなものだが、掘っても晒してもバル位にしか用のない燃料ばかり。
疲れた顔で満載の台車を返して土を盛るバル。
このぼた山に積むのもそろそろ限界に近い気がする。
とはいえ、端から端まで見上げるような高さのぼた山が既にそびえている。
このままどんどん離れていっては効率が悪くなってくる。
いっそ、また穴を変えるかと思案し始める。
唸りながらも作業に一区切りつけ、どっかりと近くの切り株に腰かける。
バターナイフもあってか無精髭は無いが、服は煤と埃で汚れきって、黒くないところなどほとんどない。
トゥルーテの方もちらと見るが、やはり似たような状況だ。
しかし、彼女はよく働くと感心したものだ。
台車にツルハシと力仕事をどんどんこなし、多少の汚れも気にならないらしい。
魔物の警戒と迎撃を担当させているエイダはというと、まだまだ土埃に見えるものをつけている辺り、傍目からでは激務という風では無さそうに見える。
もしかしたら魔物避けのアイテムを自腹で使っているのかもしれない。
それならそれでいい。
必要な仕事がなされていれば、なにも問題はない。
それにどんな魔物避けも魔物の遭遇を完全に無くすことは出来ない。
実際と狼、スライムの類、死霊の類はかなり多いと話していた。
結局と見張りは必要なのだ。
バルはひとしきり周りを見渡したあと視線を下に落とす。
なんとはなしにポケットから出したこぶし大の石を分厚い手袋でもてあそぶ。
その石の内側からはちらほらと黄金色の輝きがこぼれている。
「金か」
とぼやいて深いため息を漏らす。
「要らねぇんだよなぁ」
テンションのあまり上がっていないバルの後頭部に蹴りが入る。
ひとしきり痛みを耐えた後、何をか抗議しようとしたところの胸ぐらを捕まえて前後にブンブンと振るエイダ。
「なんでもかんでも素材にしか見えとらんのかおのれは!!」
「知らん、こちとら台車に乗せられる制限があんだよ」
さらに強い語気で攻めようとするエイダをバルがなんとか制す。
「いいか、俺らは採掘調査で来てんだ、報告義務がある」
バルは一から説明を始める。
「そんでここで色々出たって知れたらどうだ?
どこぞの炭鉱夫と貴族とが大所帯できて、山の権利を主張したり、売った買ったの奪い合いが起きる」
死ぬほど面倒臭いし、言いたかないが、世の中は世知辛い。
バルはそれからどうなるか、予想がついていた。
「ところがこっちはここにいる数人しか頭数がいねぇ
こっちが掘った穴は知らんうちに最初から私のものだったとか、旗でも立てられてかっさらわれていくだろう
何せ四六時中山で見張りなんぞしたくねぇ
誰もいないが穴は自分らのもんだなんて主張は通らねぇ」
一度、小さい沈黙。
暗い空気になるが、それが全てではない。
「だが、ここにある荷車の中身まではやつら手が出せねぇ
金はアダマンタイトとかに比べたら還元率がわりぃんだ、加えて直接俺が使える分雲泥の差が出る」
わりとそれがメインなのだと、伝える。
「結局と、拾えれば勝ちの超レア鉱石を出来るだけたくさん持って帰る
金脈があったと伝えられる程度の金を持ってかえって
こっちの掘ったスポット付近の権利云々は早々に売っぱらっちまうのが確実ってこった」
残念ながらな、とでも伝えたげにバルは説明を終える。
世知辛い。それまで胸ぐらを掴みっぱなしのエイダであったが、放した手で頭を掻きたくもなる。
エイダには契約上何が出ようと、先に設定した依頼料を払うことにしている。
その使用用途にも口は出さない、とも。
直接関わりは無いことではあるが、なんともやるせなくはなる。
しかし、ふとエイダは疑問に思う。
そうは言っても、一時的に大金が入りはするはずなのに、このテンションの低さはなんだろうか?
「ま、実際とそれもしねぇつもりなんだけどな
むしろ狙いの鉱石だけ山積みにした石炭に隠して、そのまま持って帰る予定でいる」
バルは迷いなく、そうするつもりらしい。
「は?なんで?」
エイダは全く話が分からず、宇宙人とでも話している気分になる。
つまりどういうことなんだと、続きを聞かなければ全く納得できそうにない。
「山脈が有用と知れたら魔物討伐の依頼が俺にまわってきちまう、鋼を打つ時間が減る」
エイダは全てが腑に落ちたというように手を叩く。
「あー、なるほどなー、お前頭いいなぁ」
「だろ?」
バルにもう一撃蹴りが見舞われた。