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神剣は気ままに暮らしたい(仮称)  作者: 一二三 四五六
間の話・アレイヤ姉弟の旅行編
72/72

アレイヤのメイド

大変お待たせしました。

アレ入れよう、コレ入れようと突っ込んでいたら4000文字超えてました。

「ぃ゛……ぁ……」

「……ん?お?ハハハ!おいおい!兄貴、ミドウ見ろよ!」


ギンジがメアから引き抜いた血の付いた人差し指を兄弟に見せびらかす。

メアの太ももに一筋の血が垂れていく。


「あ~あ、小兄ちゃんは相変わらず容赦ないなぁ」

「……」


ミドウはギンジに合わせて笑い、カネカズは特に表情は変えなかった。


「メア……」


外道達の前で双子の妹が辱められる中、ミミアはカネカズの腕1本で地面に押さえつけられていた。

片腕を押し付けられただけで起き上がることすらできない。

カネカズとミミアにはそれ程の単純な力の差があった。


「悪ぃなァ……初めてがコレでよォ……でもま、安心しろや、ミドウ!」

「はいはーい」


ギンジに呼ばれたミドウがミミアへと駆け寄り、へその下に触れる。

メアの下腹部から痛みが消える。


「どうだ?俺の弟はスゲェだろ?痛みだけじゃねぇ、これできれさっぱり元通りだぜ?」

「へへへ」


ギンジの弟自慢にミドウは頬を緩ませる。

宙づりになったメアが居なければ、微笑ましい兄弟として映っていただろう。


ギンジは人差し指と中指立てた右手をメアに見せた。


「じゃ、次は2本だ」


再びギンジの右手がメアへと迫る。


「ぐッ……」


メアは目を瞑り、歯を食いしばった。


「あ゛あ゛ッ!ぎッ……!あ゛ぐ……!」

「おいおいおい、この程度で音をあげんじゃねぇよ!この先もっと太いのがブチ込まれるだぜ?」


ギンジはわざと爪を立てながら左右に何度もひねり、そのたびにメアの太ももに新しい血が流れていく。


「俺は膝をお前らに貫かれた!肩を貫かれた!この程度で済むと思うなよ!」


そう言ってギンジは爪を立てたまま指を勢い良く引き抜いた。


「いぎッ!」


パタパタッと地面に血がこぼれる。

ギンジに言われるまでもなく、ミドウがメアの傷を癒す。


「よし、次は3本だ」

「ぐ……ッ!メア!メア!」


カネカズの拘束から逃れる為、ミミアは必死にもがく。

腕を動かし、身を(よじ)った。


「無駄だ大人しくしていろ」


そう言いながら、カネカズはミミアの動きを更に封じる為、押さえつけている右手を動かした。

ほんの僅かで、一瞬の隙間。

ただ動かしているだけでは抜けられないほどのわずかな隙間。

だが、ミミアにはそれで十分だった。


――コキッ


わざと腕の関節を外し、右腕がカネカズの手からするりと抜け出る。


パキッっという音と共に関節を器用にはめ直し、袖口から針を取り出し、握り、カネカズの右手に刺した。


「ぐッ」


思わぬ反撃にカネカズの右手がミミアから少し離れた。


「雷よ」


針を通してカネカズへ直接電流を流し込む。


「う……ぐお……」


カネカズにとってはダメージにもならない電流だったが、ミミアが拘束を抜け出すだけの時間は十分に稼ぐことができた。


「メア!」


全速力でメアの元へと走っていく。

可能な限り距離を詰める。

今はそれだけでいい。


「火よ!」

「風よ!」


メアとギンジの間に火の球が現れ、グルグルと回転を始める。

瞬く間に回転数が上昇していき、小さくなっていく。


――ボンッ!


限界に達した火の球が一気に膨れ上がり、爆発した。


「ぐおッ!」


目の前で予想外の威力の爆発に驚き、ギンジはメアから手を放す。

ギンジから解放されたメアは爆発によって吹き飛ばされた。


「メア!」


ミミアは力を振り絞ってメアと地面の間に滑り込み、メアを抱きかかえ、そして抱えたまま地面をいくらか転がった。


「メア……」

「ミミア……」


少し体に無理をさせ過ぎただろうか。

ミミアもメアもかなりダメージが蓄積していた。

だが、彼らは倒さねばならない。

アレイヤの為にも、自分たちの為にも。


「いけますか?」

「いけます」


たったそれだけの会話。

だが、その会話だけでこの先の方針が決まった。


「あぁ、くそッ!また毛先が少し燃えちまった!兄貴!頼むぜ!?」

「……すまん」

「まぁまぁ、小兄ちゃん、大兄ちゃんの事許してあげなよ。立て直したところで、どうせ彼女達に勝ち目なんてないんだからさ」


カネカズが前に出て、ミドウが下がる。

ミミアとメアは左右に並ぶ。


「確かに、あなた方は強い」

「確かに、あなた方は手強い」

「「しかし、アレイヤ様ほどではありません」」

「あ゛ぁ!?散々やられておいて吠えんじゃねぇよ!」


この期に及んで自分たちを格下と評するミミアとメアにギンジは怒りを隠さない。


「闇よ」

「光よ」


突然、周囲がより一層暗くなり、あちらこちらに明滅する小さな光が漂い始めた。


「アレイヤ様のメイドを務める者が如何なる者かを」

「その身をもってご照覧下さいませ」


ミミアとメアが「カマイタチ」に一礼する。


「「透明化(インビジブル)」」


2人が「カマイタチ」の前から音も無く、消えた。

隊列を維持したまま3人は周囲を警戒する。


「気をつけろ」

「あぁ、兄貴……って兄貴!?その体……!」

「何だ?む……これは……?」


カネカズが自分の手を見ると、完全な透明というわけではないが、透けていた。


「この魔法たちは……無差別?」

「何だよミドウ!?どういうことだよ!?」

「この魔法たちは発動したヤツも含めて周囲に効果が及んでる……僕たちと同じ光景がヤツらにも見えているハズだよ……!」

「んな事……マジかよ!?」


暗闇はそれほどのものではなく、通常よりも遠くが見えにくくなる程度のもの。

光の明滅もそれほど強烈なものでなない。

透明化も完全なものではない、自分の体が透けて見える程度。

しかし、それらが組み合わさると非常に嫌らしい。

暗闇の中の光のせいで、暗さと明るさが際立ち、見通せる距離が極端に短くなってしまう。

しかも光が明滅するせいで目が慣れにくい上に、どうしても視線が無意識に光の方に吸い寄せられる。

その上この周囲の環境の中、中途半端な透明化のせいで互いの状態を確認するのも難しい。

自然と「カマイタチ」の隊列が小さくなっていく。

四方からミミアとメアのものであろう足音が聞こえるが、姿は確認できない。


それぞれの魔法の効果は薄い分、魔力の消費量は少なくて済み、効果の対象を無差別にすることで細かな制御を行う必要も無い。

だが、影響下にある彼女達も3人の姿を目視できていないはずだ。


――トンッ。


カネカズの目の前で何かが地面に当たる音がした。


「そこか!」


ドンッ!


カネカズが音のする地面へ、並みの人間ならそのまま潰れかねない程の力で右の拳を振り下ろす。


「がああァッ!?あッ……がッ……!」


振り下ろした右拳に激痛が走る。

右手を見ると、2本の針が深々と刺さっており、その内1本が手のひらから先端を覗かせている。


(音の正体は地面に針が刺さる音……!?やられた!)


「う……くそッ……」


引き抜こうにも、針のほとんどが手の中に潜り込んでおり、今すぐ取り除くのは難しい。


ドドッ!


手に刺さった針に気を取られ、動きが鈍ったカネカズの右肘、関節の隙間を正確に狙ったに針が更に刺さる。


「ぐぉッ……!?ぐッ……!」

「大兄ちゃん!」


背中越しに状況を察したミドウが声をあげる。

この先の事を知っていれば、あげるべきではなかった。


ドスッ!ドスッ!


ミドウの首を左右から2本ずつ、針が貫いた。


「お゛……あ゛……」


ドスッ!


針によって塞がれた喉から小さなうめき声をあげるミドウの両目に針が続いて刺さる。

針は眼球を貫き、脳に達していた。


「……」


如何に傷を癒す能力に優れていても、自身の死まで癒すことはできない。

声を発する事無く、ミドウが崩れ落ちる。


「ミドウ……」

「ミドウ!ミドウ!くそッ!くそッ!」


周囲を警戒すべく、カネカズとギンジが背中を向き合って立つ。


――ヒュッ


僅かな風を切る音にギンジが振り返ると、カネカズの腰、背骨の辺りに針が刺さっていた。

下半身への指令を送ることができなくなったカネカズが、ドスンと音を立てて崩れ落ちる。


「足が……動かん……!?」


カネカズが必死に立ち上がろうとするが、完全に脱力した下半身は動くことは無く、チョロチョロと情けなく尿を垂れ流すだけだった。


「畜生!畜生!クソッ!クソ!」


その場から動くことができなくなったカネカズの視界を補う為にギンジはせわしなく周囲を警戒する。

が、狭くなった視界を1人で補うことはできなかった。

視界の端で何かが横切った。


「あ゛ッ……」

「兄貴!?」


恐らく、ギンジの隙きを突いて、カネカズ首を左右からナイフですれ違いざまに掻き切ったのだろう。

首元を切られたカネカズは噴水の様に血をまき散らし、急速に動きが鈍くなっていき、ついに動かなくなった。


「兄貴……?兄貴!?クソッ!何なんだよ!?クソクソクソ!」


ミミアとメアの姿は依然見えない。

今のギンジの視界は2m先が僅かに見える程度。

ミドウの話の通りなら、彼女達も「カマイタチ」の姿を捉えられる状況ではない。

ましてや、標的から一定の距離保ちつつ常に移動し、機を伺い、正確な位置に投擲し、時にはまっすぐ距離を詰める事など不可能なはずだ。


(何故だ!?この状況でここまで正確な攻撃ができる!?)


『不思議ですか?私達があなた方を捉えられるのが』

『分かりませんか?私達があなた方の居場所が分かるのか』


ギンジの心を読んだかのように、ミミアとメアの声が響く。


『簡単な事です』

『容易い事です』

『『視覚以外であなた方を見つければいい』』

『聴覚』

『嗅覚』

『触覚』

『『僅かな手掛かりを知覚し、纏め、探り出す』』

「んな……!?」


獣人は人間に比べれば知覚は鋭い。

彼らも敵との対峙において視覚以外の感覚も利用する。

とは言っても、これらは視覚を補うためのもの、あくまで視覚を前提としている。

その様な状態でいきなり視覚以外で敵を知覚しろと言われても、土台となる技術が無い、経験が無い。


『アレイヤ様はすぐに対応されましたよ?』

『アレイヤ様はすぐにコツを掴みましたよ?』

『『やはり、あなた方はアレイヤ様程ではない』』


ミミアとメアのせせら笑う声が響く。

孤独となり、追い詰められたギンジにそれを受け流す余裕は無かった。


「クソがッ!アレイヤアレイヤうるせぇんだよ!だったらソイツ連れて来いよ!刻んでやる!殺して……」


ギンジの視界の両端から僅かに光る物体が迫る。

――針だ。


「ぐッ……!」


「カマイタチ」の中でも身のこなしに長けるギンジは身を反らして回避する。

先程まで首があった場所に針が交差し、かすめていく。


「人間のクソガキ共が調子に……」


目の前に()()が現れた。

その何かの正体を確認する前に、ギンジの視界が消えた――否、貫かれた。


ギンジがその先の言葉を発することは、無かった。

この先を書こうか、「クレイがもしあの時、敵に敗北していたら」というIF話を書こうかまた悩んでいます。

もし敗北イベントを書くならまず間違いなくノクターン行きですね。

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