カマイタチ
まずはカマイタチのギンジからです。
ギンジはこの国の文化にそれ程明るい訳ではない。
だが、それでも彼女達の服装から給仕に関わる役職の人間であることは容易に推測できた。
非戦闘員である身分、それに加えて大人と言うにはまだ若い年齢。
それ故にギンジが持った彼女達に対しての評価は「どう戦うか、逆に迷う」というものだった。
「ハハハハ!何だ?お前等が俺の相手するってか?何ができるんだ?お茶汲みか?それともアレか?「私達は好きにしていいから、他の人は見逃してくれ」ってお願いでもする気か?」
「…………」
「…………」
反応を示さないミミアとメアに意を介さずギンジは続けた。
「無駄だ!無駄だ!テメェらの首であの蔵の扉をノックしてやんよォ!」
ギンジは両手の鎌を光らせながら2人へと走る。
人間よりも遥かに高い瞬発力。
凄まじい速度で距離が縮まっていく。
このまま2人の間をすり抜けつつ、両手の鎌でそれぞれの首を刎ねる、それで終い。
もはや確定したと言っても過言ではない結果に、ギンジはほくそ笑んだ。
ミミアとメアはギンジが駆け出したと同時に右の手のひらをギンジにまっすぐ向けた。
「火よ」
「風よ」
ミミアの右手から握り拳程度の火球。
メアの右手から、同じく握り拳程度の渦を巻く風が放たれた。
ギンジの身体能力をもって容易に回避できるであろう低速の火球。
同様に、速度こそあれ、当たったところでどうという事はない風。
ギンジは火球は回避し、風は無視する事にした。
しかし、その2つは混ざり合い、猛スピードでギンジへと迫る渦巻く火球へと変化する。
「なッ!?」
避ける間もなく渦巻く火球が顔面へ直撃した。
「ぐわッ!」
視界が火に覆われ、顔の体毛が焦げる匂いがした。
だが、その程度。
全身を焼き焦がすには程遠い威力。
予想外の後継に驚きつつも、ギンジは顔に付いた火をはたき落とした。
「クソッ!テメ――」
――居ない。
火球が直撃するまでは確かに居たはずの2人が居ない。
ギンジの視界が右端で何かを捉えた。
――ギンッ!
ギンジが振り上げた右手の鎌が、いつの間にかその手に握られていたミミアのナイフを受け止める。
「遅えッ!」
直後、背後に気配を感じたギンジは咄嗟に身をひねる。
――ヒュンッ
耳元で何かが風を切る音と、頬に僅かな痛み。
背中に視線を向けると、人差し指程の太さの針を持ったメアが居た。
「だから遅えってんだよ!」
「土よ」
「雷よ」
ギンジの足元から土が触手の様に伸び、絡みつく。
「しゃらくせぇ!」
ギンジが身をよじると、土の触手はあっさり根本からあっさり折れた。
――パチッ、パチッ、パチッ
頭上で小さな破裂音。
上を見ると、小さな電気を帯びた球が浮いていた。
破裂音の間隔が瞬く間に短くなっていく。
「チィッ」
この球が何を放つのかを察したギンジは後ろへ跳んだ。
パァンッ!
ひときわ大きな破裂音と共に球から小さな雷が放たれた。
その雷はギンジにいまだまとわりつき、アンテナの様に上へ伸びた土の先端へと軌道を変え、落ちた。
土を伝ってギンジの体中に電流が走る。
「ゴァッ……」
全身の毛が逆立ち、身体の動きが一瞬止まった。
その隙きを逃さず、ミミアとメアが針を数本投げる。
「クソがァ!」
いまだ抜け切れない痺れた身体を強引に動かし、針を打ち落とす。
その間にミミアとメアは左右に並び、ギンジから距離を稼ぐ。
「チマチマチマチマと!うざってぇ!」
仮に何か魔法を放ったとしても、無視して突っ込めばいい。
2人の魔法を合わせ、効果を上げても軽い足止め程度にしかならない……そう判断したギンジは再びミミアとメアへと迫る。
「氷よ」
「水よ」
ギンジが踏込もうとした先の地面に、小さな氷が張られた。
足1つ分よりも少し大きい程度の小さな氷。
その上に「パシャン」と水がかかる。
水に覆われ、摩擦が少なくなった氷の上にギンジの足が乗る。
「うおッ!?」
まっすぐ正面を見ていたギンジの視界がぐるりと回った。
尻もちをつき、起き上がろうとした直後、膝に激痛が走る。
「ぐぁッ……がッ……」
痛みに耐えながら膝を見ると、針が2本ずつ左右の膝を貫いていた。
「クソ……がァ……!」
それでも立ち上がろうとするギンジの両肩を2本の針が貫く。
「クソッ……クソッ……!」
四肢の痛みに悶えるギンジの元にへとミミアとメアが歩いていく。
2人の手にはナイフが握られていた。
「これで詰みです」
「これで終いです」
「くッ……ふッ……ハハッ、1つ……良い事教えてやるよ……」
「俺の通り名『カマイタチ』だけどよォ……アズマに伝わる妖怪かまいたちからきていてなぁ……このナリで鎌持ってるってのもあるんだけどよ……かまいたちってのはァ……」
突然、ミミアとメアの視界に2つの影が割り込んだ。
その内の大きな影がミミアとメアへと迫り、弾き飛ばした。
「がッ……!」
「ぐッ……!」
2人はボールのように何度も地面を跳ねながら転がっていく。
「3兄弟なんだよ」
 




