ギルドと最弱の冒険者
パンクでサイバーなゲームをやっていました。
もうしばらく平坦なお話にお付き合い下さい。
――メルボアの冒険者ギルド。
ギルド内には食事も提供する酒場が併設されているのが一般的で、メルボアのギルドもこの2つが同じ建物の中に存在している。
その為、建物としては周囲と比べて大きく、酒場は冒険者でなくとも利用できるので、建物内はそれなりの人数がおり、あちこち賑やかな空間となっていた。
「おい、今入ってきた白い服の娘、可愛くないか?」
「ああ、後5〜6年したらイイ女になるぜ」
「俺、今のままでも十分イケるわ」
「「マジか」」
などと言った会話も喧騒に紛れてクルトの耳に届くことはなかった。
複数ある受付、その一番奥、入り口から一番遠い受付が冒険者登録を受け持っている。
「小柄になったせいで受付のテーブルが高く感じるな」などと思いながら受付嬢へ声をかけた。
「あの、冒険者登録をお願いします」
「……冒険者志望ですか?……貴女が?」
何やら渋い反応が返ってきた。
冒険者として登録できない程幼く見えるのだろうか。
「何か問題でもあったんですか?」
「あぁ、いえ、冒険者をやるようには、その、見えなかったもので」
「装備は最低限揃えています、地図だって読めますよ、大丈夫です」
「そういう意味ではなく……冒険者志望にしては可憐というか可愛いというか……」
「?」
後半がボソボソと喋っていて聞き取れなかったが、申請できるらしいので気にしないことにした。
「では、こちらの紙を読んで、お名前を」
紙には冒険者としてギルドに登録し、活動するにあたっての注意事項等をまとめたものだ。
一通り読んでみたが、初めて登録をした時とほとんど内容は変わっていないようだ。
名前を書こうとしたところで、ふと止まった。
流石に「クルト」という名前は使えない。
新しい名前を考える必要がある。
――『我々の名は"バルバクレイス"』
あの時の剣の言葉が頭に浮かんだ。
バルバクレイス。
クルトはこの先「クレイ」と名乗る事を決め、書類にその名を書いた。
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クレイは個室に案内された。
部屋の中央には(大人であれば)腰の高さ程の机、その机には(大人であれば)手のひらが収まる大きさの魔法陣が手前に2つ奥に1つ描かれていた。
そしてこの個室には先客が居た。
鍛え抜かれた肉体、やたらとツンツンした赤髪と赤髭。
ギルド長のベザーだ。
「ベザーさん、また新人冒険者の下見ですか?」
受付嬢が特に驚くことなくベザーに声をかけた。
「おう、新人希望が居るって聞いてな、ちょっと気まぐれで覗きに来たんだ」
ベザーが髭を撫でながら答えた。
撫でた髭が「ピンッ」という音が聞こえてきそうな勢いでツンツンを取り戻していく。
一体どんな髭なのだろうか。
「お前さんが新人希望か!ずいぶんと可愛らしいじゃねえか!こりゃあ若い連中が放っておかないかもな!」
「ベザーさん、変な事言わないでくださいね」
ベザーの発言に釘を刺しながら受付嬢が奥の魔法陣に紙を2枚置く。
机に描かれた魔法陣は身体能力を測る為のものだ。
手前の2つの魔法陣に計測する人物の両手を置くと、奥の魔法陣の上に置いた白い紙が変色する。
青が低く、赤が高い。
一枚は肉体の強さ、もう一枚は魔力の強さが測れる。
魔法陣が小型の為、測れる強さの上限は高くない。
ここで高い結果を出せば、早い段階からモンスターの討伐などの仕事も受けられるようなるのだ。
「クルト」が新人冒険者として計測した時は、両方とも「ほぼ青」という結果だった。
しかし、ミノタウロスを単独で倒せる「クレイ」なら……一体どんな結果が出るのだろうか。
「ではクレイさん、そちらの魔法陣に手を置いてください」
「はい」
受付嬢に促され、魔法陣に両手を置く。
――が、魔法陣は全く反応しなかった。
「あの……これって?」
「おかしいですね……」
「ん~、紙が白いまま変色しないヤツは何人か見た事あるが……そもそも魔法陣が反応しないヤツは初めて見るなぁ……」
「この魔法陣は私の魔力で動かしています、彼女に魔力の素養が全く無かったとしても魔法陣だけは起動するはずですが……」
クレイの身体は神剣を軸となっている。
その為、人間というよりも、人の形をした神剣と言った方が正しい。
この魔法陣は「生き物」の強さを測るものだ。
故に神剣相手には機能しない。
しかし、その事に気付く者はこの部屋にはクレイを含めて誰一人居なかった。
「あの……この場合、結果はどうなるんでしょうか?」
「結果かぁ……しかしこいつは……アレだろうな」
「アレ……とは?」
嫌な予感がする。
「このギルド始まって以来の最弱の冒険者、って事になるな」
評価を頂き、ありがとうございます。
続きを出せるように何とか頭からひねり出していきます。
次はちょっとしたクエストに出て……アレやって、アレやって、アレやって……。