悩めるルニス
短いのになかなか文が思いつかず、こんな間が空いてしまいました。
このお話は間のお話となります。
章分割はまた後日行います。
木剣を握る手に汗がにじむ。
あの頃の自分は、あの姉の様にと鍛錬を行っていたものの届く気配が無く、気持ちだけがひたすらに積もっていた。
積りに積もった焦りが一つの事件を起こし、幸いにも無傷で帰ることができた。
以前なら無駄だ無駄だと身の入らなかった素振りなども、今ではすっかり日課になってしまった。
父から改めて剣技の講師を付ける提案があった。
以前は講師を付けていたのだが、焦るあまり折り合いが付かず長続きしなかった。
今の自分なら問題ないとは思う。
だが、今はまだ講師を付けるつもりは無い。
もう少し自分と向き合っていたい、考えていたい。
いや、考えを振り払いたいのかもしれない。
「ふぅ……」
素振りを、止めた。
別に疲れた訳ではない。
自分が鍛錬に勤しむようになった原因、あの人の事が頭を過ぎったからだ。
結局、あの後から1度も顔を合わせていない。
彼女は今何をしているのだろうか。
「クレイさん……」
―※―※―※―※―※―※―※―
「う~ん……」
弟ルニスの様子を遠目から見ていたアレイヤが唸る。
ルニスの様子が変だ。
いや、だいぶ前から変だったが、最近はまた違った様子なのだ。
以前の様な顔を真っ赤にしてがむしゃらに木剣を振り回していた頃と比べ、だいぶ落ち着いた様子ではある。
ではあるのだが、何というか、落ち着き過ぎていると言うか、憂いを帯びている……そんな感じなのだ。
何度か体を動かした後、突然止まり、ため息をつく……その繰り返し。
その様子は鍛錬だけでなく日常生活にも及んでおり、廊下を歩けば立ち止まってため息、食事をすれば手が止まりため息……。
そしてどこを見る訳でもなくぼんやりとする。
さすがにここまで露骨にやられては気付くし、気になる。
もの凄く気になる。
一体何が弟をそうさせるのか。
おおかたの予想はついている。
伊達にルニスの姉をやっているわけではないのだ。
鍛錬と称して弟をブッ飛ばしたり、修行と称して弟をブッ飛ばしたりしていない。
だがお相手がお相手だ。
銀の髪、褐色の肌、黄色い瞳、本人が気付いているのか疑問だが、彼女は相当目立った見た目をしている。
その上、(できるかどうかは別として)力づくでモノにしようとする性格も頭も悪い男共がワラワラと寄ってきた事が1度や2度ではない程の美少女だ。
ボヤっとしていれば頭と口だけはしっかり回る顔と地位だけが取り柄のどこぞの馬の骨とも分からない男にコロっとなびいてしまう可能性がゼロというわけではない。
そうなる前に我が弟がキッチリと先約の座を手に入れなければ。
どこぞの馬の骨「美しいお嬢さん、お互いの事を知る為に今からお茶でもどうですか?」
将来の義妹「ごめんなさい、私にはもう心も体も許した殿方がいらっしゃるのです……(なんかこう、思い出すだけでも恥ずかしいといった感じでモジモジしながらルニスに視線を送る)」
どこぞの馬の骨「そ、そんな……」
よし、これだ。
――確か近日『あれ』があったはず。
ならばこのアレイヤ、弟の為に一計を案じるというのが親心ならぬ姉心というもの。
うまくいけば悩みが解消され、ついでにあっちの方の経験もガッツリ積む事ができるやもしれない。
安心しなさい、弟よ。
この姉がお前を立派な大人にしてやるぞ。
弟を想う姉という建前の下、アレイヤはいたずらを思いついた子供の様な顔で足早にその場を離れていった。
次のお話までまたしばらくお待ちください。




