クレイ対ノーセン
クレイにはもっと頑張ってもらいたいので、クレイ攻略法を色々と考えております。
――素晴らしい。
それがクレイとアレイヤの決着を見たノーセンの感想だった。
アレイヤが敗北したのは予想外だ。
どの様な決着だったのかはアレイヤの背後に隠れて見えなかったが、そのアレイヤを負かした少女が目の前にいる。
改めて観察すると、なんと美しい少女だろうか。
首から下はノーセンの好みではなかったが、成長すれば絶世の美女になる事だろう。
ノーセンはクレイをまっすぐ見つめる。
視線が合う、ノーセンは心の中でほくそ笑んだ。
「驚いたな……まさかアレイヤを倒すとはな」
落ち着いて、ゆっくり話す事を心がける。
とにかく会話で時間を稼ぐ。
10秒でなくとも、なるべく。
さて、どういった内容にしようか。
誰かの奴隷になる為に冒険者を志し、ついに御主人様を見付けた。
ノーセンに敗北してそれを確信する。
こんな感じか。
「どうだ?アレイヤが言っていた様に俺のモノになるっていうのは、良い提案だと思うぞ?」
「何度も言うが、お断りだ」
「そうか、まぁ、今すぐ決める事ぁ無ぇんじゃないかね」
クレイもノーセンも互いに目線を外さず会話を続けている。
何度も10秒を数えてきたノーセンにとって、この10秒という時間を測る事だけは敏感だった。
既に10秒経過している。
もうすぐ20秒だ。
「お前は殺さない。手配中の人物だからな。そこは心配しなくていい」
クレイは剣を消して拳を握る。
「お~お~、有り難い事だ」
あの時は良く見えなかったが、この娘は武器を自由に出し入れできるようだ。
魔法武器……だったか、この年齢にしてその使い手の様だ。
これがあれば武器の持ち込みができない場所でも武器を持ちこむ事が出来る。
ますます欲しい。
そして条件を満たしている以上、この娘は既に自分のモノだと言って過言ではない。
「だが俺は黙って捕まるつもりは無いぜ?」
ノーセンは両腕を軽く広げ、クレイの攻撃を促した。
クレイは彼へと跳躍し、顔めがけて拳を放つ。
ノーセンは勝利を確信していた。
彼女がどの様な攻撃をしようと、適当に体を動かすだけで敗北を目指す彼女が勝手に攻撃を外してくれる。
こうやって頭を右に傾けるだけで……
「ゴヘァッ!」
ノーセンの左頬にクレイの小さな右拳が突き刺さり、勢いよく地面に倒れ込んだ。
顔面から地面に激突したせいで、鼻血がとめどなく流れてくる。
何故だ。
確かに条件は満たしたはず……!
どうして自分に攻撃を当てられる……!?
「う~ん、喰らった感じからして……しばらく目線を合わせると効果を発揮するタイプかな?無意識部分に命令を割り込ませて、思考に矛盾が生じても気付かず、対象が自発的にその命令に従う。でも効果はそこまで長く続かない……そんなところかな?」
「な、なぜ……」
――何故分かった!?
どういう事だ?
以前から『力』について知っていた?
いや、ならもっと有効な対処をしてくるはずだ。
そもそも何かしらの対処を行った素振りは無かった。
では何故この娘は『力』の影響を受けないんだ?
『力』を正面から受け止めて、無効化し、それを解析する……そんな事が可能なのか?
「"人を操るタイプ"っていうのは見当がついていたら、安心して喰らう事ができたよ。こういうのを喰らうのは初めてじゃないんだよね」
眼前にクレイの拳が再び迫り、ノーセンの意識はそこで途絶えた。
「神剣の敗北~あったかもしれないクレイ達のもしもの話~」というノクターンなお話……というのを気の迷いで思いついてしまいましたが、そんな事よりとにかく続きを考えないとですね。




