クレイ対アレイヤ 再び
内容に若干の矛盾が生じていたので、前のお話を少し修正しました。
捕縛されている様子もないノーセン。
彼に付き従うように並ぶアレイヤ。
2人に放置されるような形で裸で横たわるリビア。
クレイの目にはアレイヤの頭を中心に全身を覆っている靄のようなものが映っていた。
分かれる前のアレイヤにそんな物は覆っていなかった。
(何かをされたんだ……恐らく、ノーセンに)
「クレイちゃん無事だったのね」
普段と変わりない様子だ。
「なら家族に伝言を頼めるかしら、"私はノーセンの所有物になったから、私の事は忘れて欲しい"って」
「……今のは聞かなかったことにします」
先程と変わらない調子でありえない言葉が出てきた。
これは相当重症の様だ。
神剣を呼び出し、構える。
できれば速やかにノーセンを無力化してアレイヤが開放されればいいが……。
「ノーセン、悪いけどこの娘の相手は私がやるわ」
――やはりそうなるか。
アレイヤを何とか無視してノーセンだけを狙うという手もあるが、上手く反応したアレイヤがノーセンを庇って……ていうのは避けたい。
「あの娘、強いのか?」
「手加減できないくらいには」
「分かった、任せる」
戦闘をアレイヤに任せる事にして、ノーセンは後ろに下がる。
アレイヤはノーセンを守るように立ち、剣を抜く。
何故ここで彼女の弟ルニスの名前が出てくるのかは分からないが、アレイヤは本気のようだ。
「そうね、ルニスには悪いけど、アンタもノーセンの所有物になるっていうのはどうかしら。せめて一夜くらい彼を独占したいんだけど……クレイちゃんなら特別に許してあげるわ。死ぬよりは良いでしょ?」
「お断りです」
「そう、仕方ないわね」
アレイヤが剣を構える。
無駄な力が入っておらず、リラックスした状態なのが見て取れる。
それでいてピリピリとした圧をアレイヤから感じる。
クレイは一瞬とも呼べる速さで距離を詰め、横腹めがけて剣を横に振る。
瞬きすれば見逃しかねない速攻の一撃。
それでもアレイヤは対応し、受け止め、ぐにゃりとアレイヤの剣の動きに合わせて神剣が軌道を変えていく。
(嘘だろ!?)
この速度にアレイヤが対応するとは思わなかった。
そのままあさっての方向へと流され、姿勢を崩される。
アレイヤはそのまま流れるように剣の軌道を変え、クレイの首へと狙いを定める。
(やばッ)
足に力を込め、無理矢理後ろへ跳んだ。
重心がズレており、くるくると回転する跳躍。
身体能力頼みの強引な回避だったが、何とか斬撃を躱す事はできたようだ。
「切らずに剣の腹で叩こうなんて……ナメてんの?」
「できれば殺したくは無いので」
今度は上から下へ神剣を振る。
それを受け止めるべくアレイヤが剣を上へ動かし始めたのを確認し、握る手に力を込めた。
強力な一撃を放つ為ではなく、剣の軌道を変える為に。
非常に強引で、そして強引であるが故に予備動作が一切無い軌道変更。
左へ軌道を変え、更に下へ軌道を変える。
そして左下から右上への軌道へ。
勿論、斬撃ではなく剣の腹による打撃だ。
それでもアレイヤはまるでそれが分かっていたかのように、クレイの剣を受け止め、いなす。
そしてクレイの頭上へ剣を振り下ろす。
(これも駄目か!)
後方へ下がり、アレイヤの斬撃をギリギリで躱す。
胸当てをかすり、小さな火花が散った。
ずれた胸当てを直しつつ、手段を練る。
――槍を使うか?
いや、剣よりも軌道が素直になってしまう。
アレイヤ相手では簡単に見切られて反撃を許してしまうだろう。
――弓は?
あれは威力が高すぎる。
アレイヤ相手に使えたもんじゃない。
仮に威嚇として使っても、この洞窟が崩れて生き埋めにしてしまうかもしれない。
「本当に化け物みたいな身体能力ね、普通はあの状態から回避なんてできないわよ?」
「ボクからすればアレイヤさんも十分化け物ですよ」
思っていた以上にアレイヤの方が戦闘における技術はクレイより上だ。
出力を上げれば、強引に彼女の防御を突破することも容易だろう。
だが、それでは彼女もひとたまりも無い。
仮に剣の腹で当てたとしても、衝撃で肉体が粉々に吹き飛んでしまうかもしれない。
そうなる手前ギリギリの出力なのだが、それで彼女に勝つのは難しいようだ。
どうにかして彼女の隙を作り、気絶を狙いたいのだが……。
(仕方ない、ここは自分を信じるしかないか……)
覚悟を決め、再びアレイヤに向けて剣を振った。
姿勢をなるべく低くし、地面を這うような右から左への軌道。
アレイヤの足元から一気に軌道を上げ、脇腹めがけて剣を振り上げる。
その軌道すら受け止められ、あっさりと真上へ跳ね上げられた。
「これは外さないわ」
ガラ空きになったクレイの首元にアレイヤの剣が迫る。
先程よりも小さく弧を描く軌道、速い。
回避は、間に合わない。
――ドンッ
彼女の剣がクレイの首を捕らえた。
が、当たったところで剣が止まった。
クレイがアレイヤの斬撃を防御した様子はない。
クレイは自分の首でアレイヤの剣を受け止めたのだ。
「な……ッ」
アレイヤが一瞬止まった隙を突き、クレイは素手で彼女の剣の刃を握った。
剣を引くが、動かない。
普通なら刃を握った素手など、刃を引けば簡単に指は切断される。
しかし、クレイの手は切断されるどころか血の一滴すら出ていない。
――ありえない。
「アンタ一体……!?」
「悪いね」
クレイは握った剣を引き、剣を握るアレイヤがつられて前に倒れ込み、それに合わせて彼女の腹に拳を一撃、叩きこむ。
「あ……が……」
「おっと」
意識が遠のき倒れるアレイヤを受け止め、ゆっくり地面へ降ろす。
――流石に肝が冷えるな。
「自分の身体が刃を通さない」という可能性は十分にあったが、実際に肌で剣を受け止めるという行為は思った以上に度胸が必要だった。
残るは一人。
「さて、次はお前だ、ノーセン」
続きはまた後日に投稿します。




