洞窟トカゲ
思っていたよりスケベじゃなかった。
クレイが左の通路を1人進む。
いくつかの分かれ道があったが、目印が施されており最初は意味が分からなかったが、2回3回分かれ道に当たると流石にどちらが行き止まりか帰り道か等が分かる様になってきた。
(誰かが通っているな……この目印に従えば簡単に奥へ行けそうだ)
とは言っても目的はノーセンの捕獲なので、行き止まりの側もしっかりと確認していった。
どの行き止まりの道もそこまで長くなかったのは幸いだった。
いくらかの分かれ道を過ぎた時だった。
松明の光が人の足を照らした。
(人が倒れている……?2人か?)
近づくと確かに2人倒れていた。
体には小さな噛み千切られた痕が無数に付いている。
顔も噛み千切られており、詳しい人相は分からないが体格からして2人とも男性だ。
身に着けているものや装備からして冒険者だろう。
ただ、装備品が少な過ぎる。
最低限どころではない。
(この2人、多分リビナさんが言っていた冒険者だろうな)
一応、生きているかどうかを確認する為に首筋に右手の指を当て、脈を探る。
当然だが脈は無い。
だが妙だ。
(この死体……僅かだけど温かいぞ)
少なくとも4日前に死んだものではない。
仮に昨日死亡したとしても、ここまでの移動がそこまで日数がかかるような場所じゃない。
その時、肩の噛み千切られてできた穴から出てきた『何か』がクレイの右手に噛みついた。
「いぃ!?」
突然の事に驚き、後ろに跳び退きながら右手を見た。
そこには艶の無い真っ黒な鱗を持ったトカゲがぶら下がっていた。
「これ、もしかして洞窟トカゲか!?」
―※―※―※―※―※―※―※―
「洞窟トカゲっていう黒いトカゲでいてな、トカゲにしちゃあ珍しく牙があるんだ。問題なのはそいつの牙に"毒"があるって事だ。生きながら体が動かなくなる即効性の毒……そうやってなるべく獲物を長持ちさせるのさ。俺も直前で気付けて良かったぜ。外の光を極端に嫌うからここまでやってくることは無いし、俺を捕まえに来た連中がトカゲに食われれば万々歳ってワケだ。そのお仲間も今頃洞窟トカゲに齧られてる頃かもな。ククク……」
「……」
「どうしましょう!?クレイちゃんが!」
「別に俺はどっちでも構わないぜ?ここでやり合うもお仲間を助けに引き返すのも」
ノーセンが剣を引き抜く。
アレイヤがその所作を見る限り、ノーセンは戦いに長けているようには見えなかった。
(まぁ、強くないってんならそこまで興味湧かないのよね)
アレイヤは思案する。
百歩譲って戦うにしても、リビナと共に速攻で倒してしまうのが良いだろう。
しかし、ルニスの将来を考えれば雑魚など放っておいてクレイを助ける方が確実に優先される。
「犯罪者は捕まえたけど、代わりにクレイを見殺しにしました」なんて事になったらルニスに顔向けできない。
会話が始まってから一度も目をそらさず見てきたが、やはり「強い」と思える要素は無い。
やはり戦う価値は無いようだ。
ならば答えは決まったも同然だ。
クレイの無事を信じて自分1人で戦うべきだ。
―※―※―※―※―※―※―※―
「う~ん……」
噛みついたままぶら下がっている洞窟トカゲを放置しながら眺めている。
(確か洞窟トカゲには毒があるって聞いてたけど……)
特に身体に変化はない。
このトカゲの毒も効かない様だ。
そもそも牙が刺さっていない。
ここにこのトカゲが居るという事は、この先に普通の人間は居ないだろう。
死体も2体のみだ、額当てを付けた死体は無い。
(こりゃ右側が正解だったみたいだなぁ……)
あの2人は無事だろうか。
(それにしても、この1匹だけにしては齧った痕が多すぎるような……ん?)
何かが足に触れている。
足元を覗くと、洞窟トカゲの群れがクレイの周囲を囲っており、既に数匹が足をよじ登ってきている。
(くそッ!気付くのが遅れた!)
周囲を囲っていたトカゲ達が一斉にクレイへ跳びかかる。
右手の噛みつきが効かなかった事を「獲物の皮膚が厚過ぎた」と判断したのか、皮膚の薄く柔らかい場所を求めて這いまわる。
「思ったよりッ……数がッ……多いッ!」
身を素早く捻ったり、直接掴んで投げ飛ばしたりしているが、まとわりつくトカゲ達を全て掃うには足りない。
1匹がクレイの太ももの内側を、そして脚の付け根へと這いあがっていく。
「あッ!てめッ!どこ登って――」
――ガブッ
「ヒンッ!」
元凶のトカゲを掴み、引き剥がす。
「変な声出ちゃったじゃ……ないかよォ!」
力いっぱい投げ飛ばす。
その間にもトカゲ達はクレイの『皮膚の薄い部分』を求めて這いまわる。
耳元まで這い上がり、胸元に潜り込み、太ももを登り、噛みつく。
「このッ!んんッ!止めッ!あふッ!チクショウ!あッ!あひッ!」
ひたすら振り払い、時には掴んで投げる。
その合間にクレイの喘ぎ声が幾度となく洞窟内に響き渡った。
「ハッ……ハッ……も、もう居ないか……?」
そんな事がしばらく続いた後、トカゲ達は「コイツは無理」と判断したのか次々と逃げていった。
今の肉体ならばこの程度の運動など、特別負荷のあるものではないのだが、顔は耳まで紅潮し、妙に艶のある吐息が漏れてしまう。
洞窟トカゲ……侮れない敵だった。
本当はハートマークを使いたかったのですが、表示できない場合が合ったら困るかなと控えましたが、もしかしたら差し替えるかもしれません。
なるべく早く続きが投稿できる様、無理のない範囲で頑張ります。




