実地研修⑤
文の密度がまちまち過ぎる……。
文のアラがちらほらあるので、後々修整します。
「これで大丈夫です!皆さん」
1階層への階段の前でクレイが手を振る。
あらかたの木々をなぎ倒し、経緯を知らぬ人が見たら「ドラゴンでも通ったのか」と言いたくなるような1階層への道が切り開かれた。
その中をアレイヤを先頭に歩く。
後ろを歩く人々が不安げな表情で何度も周囲を見渡すのは、届かぬと分かりながらも枝を動かし続ける木々を警戒しているからなのか、それともこの有様を作ったクレイにドン引きしてのものなのか。
1階層は驚くほど静かだった。
動く様なモノは見当たらない。
音も無く、クレイ達の足音だけが響いている。
通常であれば多かれ少なかれモンスターが居るはずなのだが、ダンジョンが突然目を覚ました事はクレイにとっても初めてであり、正直判断ができない。
クレイとアレイヤが並びながら先頭を進む。
「うわッ!」
1人の生徒が驚きの声をあげた。
彼の左足に『何か』が付いている。
生徒はとっさに蹴るように左足を振ると『何か』が離れ、「ベチャッ」という音をたてて地面に落ちた。
落下の衝撃で地面に沿って広がっていた『何か』が少しずつ形を取り戻していく。
半透明で少し崩れた楕円形、中央には握り拳よりひと回り小さな球体が浮かんでいる。
――スライムだ。
人の頭位の大きさで、動きの鈍いモンスターだ。
恐らく壁のへこみ等の小さな死角から出てきたのだろう。
――マズい。
「靴を脱いで!早く!」
「え?何?……ひッ!」
クレイの声に先程の生徒が左足を見ると、スライムのものであろう粘液が小さな泡をいくつも立てながらブーツを溶かしていた。
「ひッ!ひィッ!」
ブーツだった事が災いして、左足をバタつかせた程度ではなかなか脱げない。
引っかかる部分が溶け、脱げた頃には遅く、左足には粘液によって赤く爛れた部分が小さいものではあったがいくつも出来上がっていた。
「何だコレ……!熱ッ!痛ッ!」
クレイはすぐさま生徒へ駆け寄り、ポーチからポーションを取り出して左足の粘液を洗い流す。
持っているポーションでは、とりあえずの応急処置にしかならないが、これ以上酷くなることは無いだろう。
質の良いポーションを使えばきれいに治る。
それまでの時間は十分稼げるはずだ。
クレイが応急処置をしている間に、アレイヤが核である内部の球体に剣を突き立てる。
本体が破壊されたスライムは形状を保つ事ができず、徐々に潰れていき、水たまりのようになった。
「――やっぱりダメね」
剣先を見てアレイヤがボヤく。
早くはないが、溶けて刃先も次々と欠けていく。
核を叩き潰すには問題ないが……長くは持たないだろう。
この剣が使い物にならなくなる前に障害となるスライムは排除しておきたい。
広い空間ならスライムを迂回していけるだろうが、この通路では難しいだろう。
スライム相手なら、先に発見さえすれば先制は容易い。
アレイヤが先行し、床や壁を観察しながら障害となるスライムの核を次々と潰していく。
「大丈夫ですか?出口まであと少しです、頑張って下さい!」
「ごめん、ありがとう……ありがとう……」
スライムの粘液にによって歩き辛くなった生徒に、リーナが肩を貸して進んでいく。
アレイヤが更に2匹倒したところで、脆くなった剣先が折れた。
出口までもう少し、まだこの剣は使える。
残った部分を使って更に3匹。
また剣が折れた。
後2匹。
半分の長さになった剣では、流石にスライム相手では間合いが心許ない。
(安物で良かったわ)
アレイヤは剣を捨て、次の手に移る。
「あんまり得意じゃないんだけ……どッ!」
剣で叩き潰した感触からして、投石でも上手く当てれば核は破壊できるはずだ。
アレイヤは手頃な大きさの石を拾い、スライムの核めがけて投げる。
2〜3個外しながらもそれぞれ命中し、核にヒビが入る。
――ダメか?
しばらく苦しむように不規則な動きを見せた後、核がパキリと割れ、崩れていった。
「邪魔なスライムは倒したわ!残った粘液に注意して!」
「や、やった!」
「助かるぞ……!」
アレイヤの声に皆が出口へと走っていき、歩みの遅いリーナ達が残されていく。
そんなリーナ達が出口に近づいた頃、念の為しんがりを務めることにしたクレイの視界……リーナ達の頭上で何かが落ちて来るのが見えた。
――スライムだ。
「危ないッ!」
クレイは2人を出口へと押し込み、頭上のスライムの核を斬る。
核を失ったスライムの粘液が雨となってクレイに降り注ぐ。
「クレイさんッ!」
「ボクなら大丈夫です!早く外へ!」
リーナを促し、クレイも少し間を置いて外へと出る。
全員出た事を確認した教師が急いでダンジョンの出口を閉めた。
入る際に『見た』限りでは、出口を塞ぐ魔法ならば、ダンジョン内で見たモンスターで突破するヤツは居ないだろう。
「クレイさん……その……大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です。念の為に持っていた『対スライム用の護符』が役に立ったみたいです、ハハハ」
もちろん嘘だ。
そんな護符は持っていない。
単純に、クレイ相手にスライムの粘液が通用しないだけだ。
「いや〜、私は大丈夫じゃないと思うケドね〜」
「え?」
アレイヤが「身体を見てみろ」と視線を下に向け、クレイはそれに従い、自分の身体を見た。
確かにクレイにスライムの粘液は通用しなかった。
――クレイの身体は。
スライムの粘液によって白いワンピースのあちこちに穴が空き、広がっていく。
何せ布1枚、溶けるスピードが尋常ではない。
「うわッ!ちょッ!わッ!」
慌てて粘液を手で払い落とそうとするが、そんな事で粘液を充分に払える訳も無い。
ビリッ!
それどころか脆くなった布が叩いた事で破け、スカート部分がパサリと落ちた。
「わわわわわわわ!」
素早く股間を手で覆い、男子生徒達から小さな歓声が漏れる。
「クレイさん!お尻!お尻!」
リーナの声に片手を後ろに回す。
十分隠せているか疑問だが、他に方法が無かった。
そうこうしている内に、みるみると最後の砦が溶けていく。
「あーッ!あーッ!あーッ!待って!待って!待ってよ!待ってよ!」
どうする?どうする?急いで物陰に隠れるか?
手頃な物陰を探そうとした瞬間。
――カランッ
「あっ……」
胸当て本体よりも先に、胸当てのベルトが溶けきって――落ちた。
男子生徒は後にクラスメイトにこう語ったという。
「いい景色だった」
と。
次のお話で学校編は終わる予定です。




