実地研修⑤
以前言ったかもですが
ネタを思いついても、ネタとネタを繋げるネタを思いつくのが本当に難しいです。
音をたてながら枝がうごめいている。
1本1本の音は小さいのだが数が数なだけあり、乾いた音が絶え間なく大きく響いた。
特に視界という視界に細長いものがウネウネと動く景色は非常に気持ちが悪い。
「ちょっと流石にコレは数が多いわよ!」
前に出て枝を切っていたアレイヤがこちらに跳び退きながら叫んだ。
切られた枝は縮む様に引っ込んでいくが、また新しい枝を生やしてきてキリがない。
「ど、どうすんだよコレ……!」
男子生徒が怯えながら後ろへジリジリと下がっていく。
だが、その方向は元来た道――3階段の方ではなかった。
「うわぁッ!」
地面を這っていた枝に足を絡め取られ、倒れた男子生徒に次から次へと枝が絡んでいき、木の幹へズルズルと引っ張られていってしまった。
「ひぃぃッ!助けてくれぇ!」
――しまった。
クレイは枝によって木の幹に縛り付けられた生徒へと駆け寄り、枝の1つを掴んで引き千切ろうと力を込めた。
「うっぐっ……ぎゃぁぁぁッ!」
捕らえた獲物を離すまいと他の枝がギチギチと締め付けを強くする。
捕らえられたのがクレイならともかく、一般的な身体能力しかない男子生徒には耐え難い力だ。
このまま1本1本引き千切っていては、その内男子生徒に限界が来てしまう。
――神剣で素早く枝だけ切断するか?
――いや、駄目だ。
――それでは男子生徒ごと切ってしまう。
「どいて!私がやるわ!」
アレイヤが捕縛された生徒の前で剣を構え、短く息を整える。
「今の内に言っておくわ。アンタの事切っちゃったらゴメンね」
「え?ちょ……」
言わなくてもいい事をわざわざ言い、剣を振り下ろし、素早く切り返す。
拘束していた全ての枝が切り落とされ、男子生徒が崩れ落ちる。
「大丈夫?立てる?」
「あ、はい、ありがとうございます。大丈夫です」
アレイヤが解放されて膝をつく男子生徒の手を取り、引き上げる。
彼女が身を屈めて手を差し出した時に、男子生徒が胸元の谷間をガッツリ凝視していたが、「こんな状況で」と思わなくも無いが言わぬが花だろう。
男の子だもんね、気持ちは分かるよ。
とにかく、生徒に切られた痕は無い。
彼女は生徒を切る事を無く、一瞬で枝のみを切断をやってみせた。
凄まじい技量だ。
枝を切られた木が獲物を取り返そうと、枝を再生させ伸ばす。
「危ないッ!」
クレイは2人を引っぱり、位置を入れ替える様に前に出る。
剣を呼び出し、迫る枝を切り払った。
自分なら仮に枝に捕らえられたとしても容易に脱出できるはずなので、自分に狙いがいくようにしながら少しづつ後退していく。
……服を裂かれるのだけは回避しよう。
枝の1本がクレイの直前で止まり、戻っていく。
他の枝も同様だ。
「皆さん!コイツ等の枝は伸ばせる距離に限界があります!」
「そんな事言われたって階段周辺くらいしか届かない位置なんて無いわよ!?」
「……無理矢理作ります!」
一気に駆け出し、距離を詰める。
枝はクレイの速度に対応できない。
もう1つ分かったことがある。
この無数の枝は木の幹から生えているのだが、地面から約50cm程度の高さまでは枝が生えていない。
――ならば。
姿勢を低くし、地面から30cmほどのところを切断する。
ゆっくりと木の幹が倒れていく。
しかし、枝は動きを止める事なくクレイの左腕に絡みつく。
(コイツ!まだ動くか!?)
しぶとく動き続ける木の幹を蹴る。
大人の胴体程の太さがある木の幹が「く」の字に曲がり、低い放物線を描きつつ他の2〜3本の木々をなぎ倒していく。
(ええと、魔光石が2つ並んでいて、あっちに3つ並んでいるから……出口はあっちか!)
距離を詰め、斬り、蹴り飛ばす。
これを繰り返しながら脱出の障害になる木を次々となぎ倒していく。
端から見ればいつの間にか木の根元に居て、いつの間にか切断し、いつの間にか木が吹き飛んでいく……そのようにしか見えなかった。
「な、何が起こっているんだ……」
「アレイヤさんとは別の意味で何やってるのか分かんねぇ……」
生徒や教師、冒険者だけでなく、アレイヤやリーナにとってもクレイの動きは信じがたいものだった。
「ホントどうなってんのよ、あの娘」
「授業や決闘の時もそうでしたが……何なのでしょう……」
アレイヤは周囲を警戒しながらも、五感を総動員してクレイの動きを観察する。
いつか喧嘩をふっかけ……試合をする時の為に。
(以前見た時よりも動きが良くなってるわね……もっと動きを見て先読みできるようになれば……良い勝負くらいには持ち込めるかしら)
次で実地研修は終わる予定です。




