クレイ対バルガス
この展開で良いのか?と悩みました。
ギルドへ戻り、依頼を報告したのだが……妙に外が騒がしい。
受付から出入口を覗くと、街の門の方角へ何人もの兵士が走っていくが見えた。
何かあったのだろうか。
「急ぎですまないが、戦える冒険者は居ないだろうか!」
他の兵士よりも装飾が多い、階級の高そうな男性がギルドに入ってくるなりそう叫んだ。
「街にモンスターが侵入した!今具体的な報酬の額は答えられないが、必ず支払う!」
ギルド内が騒がしくなる。
武器を握る物、何をしたら良いか分からず慌てふためく者、兵士と目線を合わせない様努める者、様々だ。
「戦える冒険者は!協力して欲しい!居ないか?!」
「ヨオ、邪魔スルゼ」
兵士の肩を後ろから赤黒い手が掴み、ギルドの外へと引き飛ばされる。
兵士の叫び声がすさまじい勢いで遠くなっていき、何かにぶつかる音が聞こえた。
兵士に代わり、小脇に上半身裸の女性を抱えた赤黒い肌をした大男がギルド内に入ってくる。
人間とは思えない風貌だが……あの顔には見覚えがある、バルガスだ。
バルガスがギルド内を進んでいく、体が重いのだろうか、一歩進むごとに床がギリギリと悲鳴を上げている。
小脇に抱えている女性は顔が見えない、潰されているのか右の二の腕が酷い状態だ。
引き飛ばされた兵士を見て怖じ気付いたのか、バルガスと戦おうとする者はおらず、バルガスがギルドの出入口から離れた事で、冒険者や食事をしていた人々が我先にと建物から出ていく。
「くれい……!見ツケタゼ!」
「バルガス……」
「オ友達ノ次ハオ前ダ」
小脇に抱えた女性をクレイの元へ投げ捨てる。
投げ捨てられ、床にうつ伏せとなった女性が僅かだが動いた、まだ生きている。
女性の元に駆け寄り、顔が見えた。
アレイヤだ。
「アレイヤさん!大丈夫ですか!?」
アレイヤが左腕で何とか上体を起こそうとするが上手くいかない、相当体力を消耗しているようだ。
「何とか……ね、うぷッ……おげッ」
アレイヤが大量に吐いた。
床に広がる胃液に混ざったこの白いのは……似たものが顔や上半身にもこびり付いている。
それにこの匂い……。
「こんな姿……ルニスには……見せられ……ないわ……ね……」
「アレイヤさん……!」
「死ニカケノ兵士ヲ殺スッテ言ッタラ大人シク咥エタゼ?マァ、ソノ兵士、踏ミ潰シテ殺シチマッタガナァ!ハハハハ!」
「バルガス……ッ!」
「オ前モコウナル、イヤ、ソレ以上ノ事ヲヤッテヤル!ソシテ殺ス!殺シテヤル!」
バルガスが人間とは思えない咆哮をあげる。
コイツは放置できない。
「狙いはボクです、アイツはボクが何とかします!その間にニナさんはアレイヤさんを頼みます!」
「クレイちゃん!」
「大丈夫です、ボク、強いですから」
「クレイちゃん……」
やり合うにしても、ギルド内はまずい。
「とりあえず……」
クレイが消え、次に現れた時にはバルガスに蹴りを放っていた。
「ウゴォアッ!」
「外に出ろ!」
バルガスは何とか耐えようとしたが、衝撃を殺しきれずにギルドの外、噴水のある広場へと吹っ飛んでいく。
「グゥ……テメェ……!」
噴水の手前で何とか止まり、顔を上げた。
入り口の先、ギルド内にクレイがーー居ない。
バルガスの背後、後頭部に回りクレイは神剣を呼び出していた。
(取った!)
頭部を切り落とされ、宙に舞う。
だが、頭部を無くしたバルガスが振り返り、クレイの脚を掴む。
「なッ……!」
首の断面から肉の塊がボコボコと現れ、再び頭部を形成していった。
「ヤルジャネェ……カッ!」
クレイをオモチャの様に振り回し、噴水に叩きつける。
叩きつける。
叩きつける、叩きつける、叩きつける、叩きつける。
噴水がただのガレキになるまで叩きつける。
「ウラァッ!」
トドメと言わんばかりに、大きくクレイを振り回し、ガレキとなった噴水へ投げつけた。
クレイはガレキに埋もれ、手足の一部が見えるだけだった。
「チッ……思ワズ殺ッチマッタカ……死体トやル趣味ハ無ェ」
静寂。
距離を取り、事態を窺っていた人々に悲しみと絶望の表情が浮かんでいく。
その中に轟音を聞きつけて様子を見ずにはいられなくなったニナの姿もあった。
「クレイちゃん……そんな……」
ムクリ、とクレイの上半身がガレキを押し退けて起き上がる。
「いやぁ、ビックリした」
「ナニッ……!」
死んでいないばかりか、血の一滴すら流していない。
更にガレキを押し退けて立ち上がる。
「胸当て取れちゃったけど……服は無事かな?」
あれだけの事がありながら、奇跡的に服はほぼ無事だった。
「テメェ!何デ生キテヤガル!?」
「頑丈なんで、ね!」
神剣を呼び直し、バルガスを上半身と下半身に分ける。
頭の時と同様、上半身から肉の塊がボコボコと現れ、下半身を形成していく。
「無駄ダ!効カナイネェ!」
バルガスが拳を繰り出す。
躱したクレイはその腕を切り落とす。
再生した腕がクレイを捕まえようと迫り、再び切り落としながら距離を取る。
(キリが無い……!何か急所のようなものは……!?)
何となくだが、バルガスの胸……心臓の辺りがぼんやりと光っているように見える。
これも神々の武器の身体の機能なのだろうか。
(そこか!)
距離を詰め、両腕を切断。
神剣を消し、神槍を呼び出す。
触手モンスターを倒した事で得た新たな武器だ。
凄まじい速度で両腕が再生していくが、クレイの神槍の方が速かった。
(一点集中!)
神槍がバルガスの体を、そして心臓を貫く。
同時に「パリン」という何かが砕ける音が小さく響いた。
「ア……ガ……馬鹿ナ……アリエネェ……」
神槍が消え、ポッカリと空いた胸から黒い血が流れ落ちる。
穴が再生することは無く、バルガスは力無く膝を落とした。
最後の一撃の為に神剣を呼び出す。
ゆっくりとした時間、クレイが持つ剣をバルガスは初めてしっかりと見た。
「ソノ……剣ハ……」
見覚えがある。
あのクルトを刺した、あの時の……。
「あぁ、そうだよ。じゃあな、リーダー」
驚き、目を見開いた頭がズルリと落ちた。
核を失ったバルガスの身体と頭部が塵となり消えていく。
「やった……のか?」
「やった……!やったんだ!」
クレイの周りに歓喜の声を上げながらワラワラと人々が集まってきた。
「す、すげぇ!」
「クレイちゃん!スゲぇぜ!」
「ホントに9等級かよ!?」
「その実力で何で9等級なんだよ!?」
「いやぁ……色々とありまして……」
次々に称賛の声を浴びせられ、流石に恥ずかしくなってきた。
そこでふと気が付いた。
駆け寄ってきた人々の目線が自分の顔よりも下を向いている。
目線が合わないのだ。
驚きや喜びと言うよりは、なんと言うか必死さと言うか「このチャンスを逃さん」みたいな……。
特に男性達からそう言った種類の視線を感じる。
視線の先を追って自分の体を見る。
「な……あ……な……な……」
確かに服はほぼ無事だった。
だが、噴水の水を浴びてすっかり濡れていた。
白い布というものは濡れると非常に透けやすい。
濡れた白い服がぴったりと体に張り付き、その先にあるものをしっかりと透かしていた。
例えば、胸にある2つのアレとか。
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クレイの羞恥の叫びが街中に響き渡った。
後1話か2話くらいまでを第1部みたいな感じで区切ろうかと思います。




