三題噺第31弾「電気」「機械」「最速の関係」
「この“電気”ポットさん、ほんとによく働くわぁ」
と、魔女のサーヤは言いました。
「お嬢様の扱い方が上手いからですよ」
と、電気ポットは言いました。
魔女だから、何でも話せるように魔法を唱えてあるのです。
「まぁお上手に話すこと」
ポットからティーカップにお茶を注ぎます。
「あつっ、あつあつあつ」
と、ティーカップは言いました。
「あらあら、そんなに熱かったかしら」
「このまま飲むと火傷しますよ」
「あらー、それは大変ね。フウフウすれば大丈夫かしら」
「少しは冷めるかもしれませんが、あまりオススメはしませんね」
「じゃあ、少し本を読んで頃合いになったら呼んでくださる?」
「わかりました」
魔女のサーヤは一人暮らしですが、こうして物が話せるようにしてあるので、退屈はしません。本を読んでいても、どこからともなく歌が聞こえてきます。
ラッタッタ、ラッタッタ、ラッタッタ。
魔女のサーヤは歌が気になりはじめ、本に集中できません。本を読むのを止め、歌が聞こえる庭に出てみることにしました。
庭には桜が舞い散り、歌を歌っていたのでした。
ラッタッタ、ラッタッタ、ラッタッタ。
魔女のサーヤは一緒に歌い出しました。
ラッタッタ、ラッタッタ、ラッタッタ。
やがて、ティーカップから冷めたよと声が聞こえてきました。
魔女のサーヤは歌を歌うのを止め、家の中に入っていきました。
「うん、おいしいわ」
「お嬢様の入れたお茶が不味いはずがありません」
「ありがと」
お茶を飲んでいると、ごめんくださーい、と呼ぶ声がしました。はーい、どなた? と返事をする魔女のサーヤ。
かわいらしい十代中頃の女の子がいました。
「弟子にしてください」
「はい?」
魔女のサーヤは驚き尋ねました。
「聞こえませんでしたか? 弟子にしてください!」
「いいでしょう」
ここに魔女の弟子になるには“最速の関係”が結ばれました。
「やった、私も魔女になれるんだ」
「ちょうど直して欲しい“機械”があるのよね。直してもらおうかしら」
「私は修理屋じゃないですよ!」
「あらっ、魔女になるには何でもできなくてはダメよ。さぁ、やってちょうだい」
「できるかわかりませんよ?」
「うふふ、簡単なモノだからできるわよ。持ってくるわね」
「わ……わかりました」
「これよ、小型のラジオ。落としたときにどうかなっちゃったのよね」
「ちょっと見せてもらいますね」
お弟子になりにきた少女はラジオをくわしくみると気が付きました。
「これっ、電池入ってないだけでは!?」
「あら、そうみたいね」
魔女のサーヤはうっかり屋さんなのでした。
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