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全員殺しますわよシリーズ

婚約破棄されたので全員殺しますわよ 1 ~淑女覚醒、王国クーデター編~


「リーズレット、お前との婚約を解消させてもらう!」


 そう言ったのはこの国――アドスタニア王国の王子であった。彼の傍には黒髪の女性が笑みを浮かべながら寄り添う。


 王子も腰に手を回しながら、周囲に人が溢れる中で言い放った次第である。


「…………」


 一方的に婚約破棄を突き付けられた女性こそ、この物語の主人公。名はリーズレット・アルフォンス。


 アルフォンス侯爵家の長女であり、歳は17。茶色い長い髪をドリルのような巻き髪にした淑女だ。


 平均的な身長でありながらも胸は小さい。


 たった今、婚約者ではなくなった王子に寄り添いながら胸を押し当てている子爵家のビッチよりも。


 リーズレットは己の手が白くなるほど強く握りしめた。突然何言ってんだ、とんちきクソ野郎と内心で吐き出しながら。


「理由はお聞かせ下さいませんの?」


 怒りを抑え、何とか口から言葉を絞り出す。


「お前はマリアに対して酷い仕打ちをしたようだな? 身に覚えがあるだろう?」


 王子に寄り添うビッチ――マリアは見下すように笑ったのが見えた。


 は? と言い出しそうになるがマリアの顔を見て全てを悟る。こいつが王子にある事ない事言ったのだろう。


(このファッキンビッチッ! 私をハメやがりましたわねッ!!)


 クソアホな王子はそれを信じ込んだに違いない。いや、あのバカみたいにデカイ胸で誑らし込んだのかもしれないとリーズレットの脳裏を過った。


「お前は学園からも追放だ! さぁ、私の前から消えろ!」


 こうしてリーズレットは弁明の機会も与えられずに学園から放り出された。


 ふつふつと込み上げる怒りを抱え、どうしてやろうかと思いながら。だが、まずは家に帰って父親と相談せねば。


「コロスゥ! あのビィィッッチ!! 絶対にお父様の権力で殺してみせますわ! 家もぶっ潰してやりますわ! コロスゥ!!」


 学園の前で目を血走らせて地団駄を踏みながら許容量を超えた分の怒りを吐き出していると、リーズレットの前に1台の馬車が急停止した。


 馬車の側面にはリーズレットの家、アルフォンス家の紋章が描かれていた。


 どうやら王城で勤務している父親の方も婚約破棄の件を嗅ぎつけたのだろうか? そう思っていたが……。


「お嬢様! 早く乗って下さいませ! 旦那様が処刑されました!」


「ホーリィィィ、シットッッ!!」


 とんでもねえ! マジかよ! この世の終わりだぜベイビー!


 まさか侯爵でありながら権力をブイブイ言わせる父親が処刑されたなんて。リーズレットはドリルの巻き髪を振り回しながら驚きを露わにする。


「さぁ、お早く! このままではお嬢様までもが捕まってしまいます!」


 馬車の中にいた世話係のユリィに手を引かれ、馬車の中に引っ張り込まれる。


 出して! と叫んだユリィの指示通り、御者をしていた男は馬を走らせた。


「ユリィ、どういう事ですの!?」


「旦那様が国で禁止されている麻薬を密輸していたと何者かに告発されたようです! 仕事をしていた旦那様は王城で拘束され、屋敷にいた奥様も騎士団に……」


 そして、即刻父親は処刑されたとの事。


 リーズレットはキャビンの窓を開けた。


「ファァァァック!!」


 外に向かって叫んだあと窓を勢いよく締めてから再びユリィに顔を向けた。


「これからどうするんですの!?」


「まずは身を隠します!」


「身を隠すにしても……どこにですの?」


 リーズレットの問いにユリィはカバンを開けた。中にはリーズレットの衣服と共に金と宝石が入っていた。


「これでしばらくは生活できるはずです。まずはアンガー領へ」


 アンガー領。そこは王国の端っこにある領地だ。他国との国境沿いにあって常に緊張感で膨れた風船になっているような街。


 国内外から戦争を生きる糧とする傭兵がわんさか出入りしており、身を隠すにはもってこいだとユリィが説明した。


「私はお尋ね者になっていませんこと?」


「大丈夫です」


 バッグから取り出したカツラをリーズレットに被せるユリィ。だが、カツラの端からドリルの巻き髪がこぼれ出た。


「巻き髪を切らないとダメですね。髪を切ればカツラもいらないかもしれませんね」


「い、いやですわ! この巻き髪は淑女の命でしてよ!」


 ハサミを取り出したユリィに対して抵抗するリーズレットだったが、命には代えられないと強引にカットされた。


「ああ、私のアイデンティティ……」


 よよよ、と泣くリーズレットにユリィは苦笑いを浮かべながら、落ち着いたらまた伸ばせば良いと言った。


 ぐうの音も出ない程の正論である。


「それよりも誰が旦那様に無実の罪を擦り付けたかが問題です」


「お父様には敵が多かったですからね。恐らくは派閥の勢力争いをしていたマッキンリー家でしょう」


 マッキンリー家はアルフォンス家と同じ侯爵位を持つ家で、父親と対立していた家だ。


 どちらが国内でより強い権力を持つか。常に争い、父親が黒と言えば向こうは白と真っ向勝負していたように思えたが、どうやら強硬手段を取ったのだろうとアタリを付ける。


 特に対立していた原因は王国領土の拡張についてだろうとリーズレットは見当付けた。


 所謂、他国との戦争を賛成するか反対するかであった。既に隣国と小競り合いを始めている状態にも拘らず、別の国とも戦争をしようとの案が浮上したという。


 リーズレットの父は反対派。既に隣国とは戦争が始まっているし、ここから更に戦火を広げれば傷付くのは王国民であると主張。


 対し、マッキンリー家の当主は賛成派。というよりは「戦争しようぜ!」と主張し始めた本人である。


 戦争して領地拡大。そして、自然資源等を得られれば国は裕福になると。


 父親の話では王も戦争に対して肯定的であったようで、それを阻止する為に第一王子とリーズレットの婚約を結ばせたという理由もあった。


「クソッタレですわ! あんな芋臭い王子を誘惑したというのに!」


 父親が第一王子と結婚すれば一生安泰だよ、そう言うから特に好きでもなかった王子へ積極的にアプローチを繰り返して虜にしたというのに。


 事情を知ったからこそ分かる。あの胸の大きなクソビッチは黒幕と繋がっているに違いない。


 じゃなければ、子爵位なんぞというクソザコな家の娘が王子と接点を持てるはずがない。それか、やはりあの凶悪な胸で誑し込んだかのどちらかだ。いや、十中八九そうに違いない。


 だが、どちらにせよクソビッチのせいで素敵で優雅な未来計画はオシャカ。


 最高の未来を約束すると娘に提案した父親もオシャカ。


 リーズレットちゃん17歳。クソッタレなどん底人生の始まり始まり――


「ファァァァッック!!!」


 リーズレットはもう一度、窓を開けて叫んだ。後ろに見える王都へ向かって。 



-----



 アンガー領に辿り着いたリーズレット達は入場門に入る前に馬車を降りた。


 馬車には家の紋章が描かれてしまっている。王都を出る前は門番にまだ事の次第が通達されていなかったようで、何とか脱出する事が出来た。


 しかし、時間の経った今ではもう事情は関係各所に通達されているだろう。お尋ね者であったら一発で拘束間違いなしである。


 馬車を降りたリーズレットとユリィは御者に金を渡す。馬車をここで乗り捨てて、貴方は田舎に帰れと申し付けた。


「ガラの悪い者しかおりませんのね」


 フード付きのローブに身を包みながらユリィと共に入場門の列を並ぶリーズレットは周囲にいる者達を見た感想を漏らす。


 周りにはゴロツキのような者ばかり。腰には剣やらナイフを差して、ムキムキマッチョな男女ばかりである。


 傭兵と呼ばれた戦闘狂共に混じった2人の方が少々目立つ。


 だが、一度中に入ってしまえば問題ない。なんせ並んでいる人数だけも500人は越える。木を隠すには森、人を隠すには命が安い掃き溜めのような街に限る。


「次!」


 ようやく列が進んでリーズレットとユリィの番になった。


 入場門を管理する門番がフードの中を覗き込む前にユリィが銀貨を5枚出した。入場料としては多い金額だ。


「傭兵として稼ぎに来た」


 しかも、ちょっと声を野太くして。声音を変えているのがバレバレである。


「おう、入んな」


 さすが戦争の最前線。クソッタレ共が多い掃き溜めだ。金で頬をぶっ叩けば領騎士も思いのままである。


「次はどうしますの?」


「まずは宿を確保しましょう」


 確保した宿のランクとしては中の下。2人部屋で犬小屋のように狭い部屋であったが、ここまで来る道中の馬車暮らしと比べれば快適そのもの。


 フカフカ……とは言い難いベッドであるが、それでも今のリーズレットにとっては上等だった。


「当面は持ち出した宝石を売ってお金にしましょう。それでしばらくは暮らせるはずです。その後は……」


 金は有限だ。宝石を売って金に換えてもいつかは尽きる。そうなれば働かなければならない。


 こんな掃き溜めのような場所で女性が働く場所となれば酒場のウエイトレス、もしくは風俗か。商店の売り子に採用されれば万々歳である。


「いいえ、働きませんわ」


 だが、リーズレットは『NO』と言う。彼女には野望があった。


「あのビッチを殺しますわ。ビッチだけじゃなく、私の人生を滅茶苦茶にしたクソ芋虫共を全員殺しますのよ」


 そう、自分の人生計画を無茶苦茶にしたファッキンビッチを殺すという野望が。計画に加担した者共全員を殺すという野望を果たさなければ死ぬに死ねない。


 父親を処刑して人生を無茶苦茶にした者達を一人残らず殺す。その足掛かりとしてまずはあのビッチであると。


「換金したら武器を買いに行きますわよ」


 さっそく換金を終えたリーズレットは街のゴロツキに武器屋の場所を聞いた。


「それならあそこが一番だな」


 髭面でもみあげと髭が繋がったゴロツキ一押し、この街で一番ホットな武器屋へ向かった。


「いらっしゃい」


 武器屋の中は寂れていた。何たって王国で主流となっている剣や盾、魔法の杖などが展示されていないのだから。


「武器が欲しいのですが、店を間違えたみたいですわね」


 あのクソヒゲゴロツキに騙された、と思ったリーズレット。


「おいおい、嬢ちゃん。うちは武器屋だぜ」


 だが、店のオーナーは後ろにある壁を親指で指差した。


 壁に掛かっているのは王国ではなく、東にある国――帝国で作られた銃があった。 


 騙されたと思ったリーズレットであったがそれは間違い。この店は街で一番という評価は正解だったのだ。 


「これはライフル銃っちゅう武器でな。帝国に現れた転生者が作った最強の武器だぜ」


 なんと魔法を使う魔力も必要なく、剣よりも簡単に人を殺せる武器だと言う。


 弾を込めてトリガーを引くだけで人の頭はハンマーでフルスイングしたスイカのように弾けるのだと。


「嘘おっしゃい! 騙されませんわよ!」


「おいおい、嘘じゃねえよ。最前線に向かう帝国傭兵の間じゃあ、一番売れている武器だぜ? まぁ、値は張るがね」


 実演してみせよう、そう言って店主は店の裏庭へリーズレット達を連れていく。


 庭にあったのは金属の盾。人を模した案山子があった。


 ライフルを構えて引き金を引くと『バン』と大きな音が鳴った。聞いた事のない音に肩をびくつかせるユリィであったが、隣にいるリーズレットは目を見開いた。


 音と共に発射された弾は木製の案山子の頭を木っ端みじんにしたのだ。次いで、隣にあった金属製の盾も貫通して穴を開ける。


「スゲエですわ!」


「だろう? 試射してみるかい?」


 店主のレクチャーを受けながらリーズレットはライフルを構えて試射を繰り返す。


 最初は当たらなかったが数発撃っただけで命中するように。


「お嬢ちゃん、なかなか良い腕をしてんじゃねえか」


 ボルトアクション方式のライフルを構え、撃った後にボルトを引いてリロードする姿は中々様になっていた。


 勧められたアサルトライフルに持ち替えてフルオート射撃も体験。撃ち慣れたらリコイル制御まで完璧にこなす。リーズレットには化け物じみた才能が秘められていたようだ。


「これしか種類はありませんの?」


「もっと他にもあるぜ」


 店主は中に戻ってリーズレットにラインナップを見せながら、1つ1つ丁寧に解説した。


「これと、これにしますわ」


 結果、リーズレットが選んだのはフルオートで撃てるアサルトライフルとハンドガン。加えてグレネードと爆薬をいくつか。


 もうお分かりだろう。彼女はこれでビッチの家を強襲するつもりだ。ご丁寧に家まで吹き飛ばすつもりである。


 計、金貨10枚のお買い物。換金した宝石の金額ほぼ全てを投入した。


「まいどあり!」


 久々の上客に店主もホクホク。金の匂いを嗅ぎ取って丁寧に説明した甲斐があったと内心思う。


「またお金を手に入れたら買いに来ますわ」


 バタンと店のドアを閉めてリーズレットはニンマリと笑った。


「お嬢様、本当に復讐するのですか?」


「ええ、勿論。私、やられたらやられっぱなしになっているのが一番嫌いでしてよ?」

  


-----



 2日後、リーズレットはユリィと共にクソビッチ家の領地にいた。


 銃を大きなバッグに入れて、旅の絵描きに変装して潜入を果たす。


 この街で知ったのは、やはり自分がお尋ね者になっているという事。反逆罪として処刑された父は大々的に新聞の一面になっていた。


 母がどうなっているかは不明だが、元娼婦でありながら父と結婚した母であれば平気だろう。


 今頃、自分を拘束した騎士を誑し込んで案外無事かもしれない。


 とにかく、今は目の前にある屋敷をどうぶっ潰すかが先決である。


「ふむ。門番2名、護衛騎士は全部で10人ですわね」


 絵描きに変装するリーズレットは街の一画、領主邸が見える位置にキャンバスを置いて絵を描くと同時に敵の配置を探った。


 全ては情報から。行動は大胆であるが準備は慎重に。処刑された父が常々言っていた言葉だ。


 ペタペタと絵具を塗りたくる姿を晒しながら情報収集を行っても領騎士は不審に思わない。なんたって、今の彼女は絵描きなのだから。


「クソビッチは王都にいるようですわね。ですが……今夜、やりましょう」


 一番殺したいビッチはいないようだが、彼女の両親は屋敷にいるようだ。


 まずは実家を潰す。    

 

 夜になるのをユリィが確保した宿屋で待ち、準備を整えた。


 今夜の空に月は無い。屋敷までの道は暗く、屋敷の周囲にある水路も闇の中。


 好都合ですわね、水路に身を隠したリーズレットはバッグから銃を取り出した。


 ハンドガンは脇の下にあるホルスターに。ベルトを肩に回したアサルトライフルを手に。


 腰のポーチには爆薬とフラググレネードを入れて。


「行きますわよォ」


 淑女の嗜みとしてドレスを着ながらも、アサルトライフルを持って正面玄関を目指す。


 松明の炎で周囲を照らす門番がリーズレットに気付いた。


 ドレスの少女。だが、何かを持っている。


「止まりなさい。ここは領主様のお屋敷だ」


 だが、止まらない。腰だめに構えた銃口を鎧に身を包んだ騎士へ向けて――


「パーティに来ましたわぁ!」


 ダダダダダ、とフルオートで弾を発射した。


 帝国産のフルメタルジャケット弾が王国騎士の正式鎧を容易に貫通し、中の人間を蜂の巣に変える。


 2名の門番を撃ち、まだ息がある門番の頭部へ慈悲(トドメ)の1発を与えた。


 門の向こう側へグレネードを1つ。吹き飛んだ玄関の前で少し待ち、殺到してきた騎士へ向かって銃を撃つ。


「ヒャア! これはご機嫌ですわねえ!」


 相手は剣。こちらは帝国が開発した銃。


 近距離戦闘しかできないサルはリーズレットの敵ではなかった。


「おーっほっほっほ! 快感でしてよ!」


 玄関にやって来た6人の騎士を殺した後はアサルトライフルのマガジンを外してタクティカルリロード。


 まだ弾が残るマガジンのお持ち帰りは必須。弾の1つまで無駄にしない。何たって金がない。マガジンを買う金も惜しい。


「貴様! 何者だぁぁ!」


 強襲された屋敷の主が玄関にあった2階へと続く階段の上に姿を現した。両脇には4人の騎士。


 丁度良い。馬鹿が雁首揃えて階段の上からリーズレットを見下ろしているじゃないか。


 リロードを終えた銃を構え、騎士の1人を即座に射殺。


 圧倒されている間にタンタンタン、小気味よく3人続けて射殺。


 リーズレットは悠々と階段を登って、腰を抜かす当主の額に擦り付けた。


 まだ熱の残る銃口を押し付けられた当主からは「アツゥ!」と悲鳴が上がった。 


「貴方に問いますわ。アルフォンス家を陥れたのは誰ですの?」


「まさか、貴様はアルフォンス家の娘か!?」


 リーズレットの問いに正体を察した様子。だが、関係無い。


「誰ですの? 答えてくれないと、貴方の額に第二のケツ穴ができますわ」


「ふん! 小娘が! 誰がしゃべ――」


 リーズレットは銃口を相手の太腿にズラしてトリガーを引く。


 タン、と音が出て相手の太腿には穴が開いた。


「あああああッ!!」


 血が噴き出す太腿を抑えながら当主は床を転げ回った。


 リーズレットはその細い足で撃ち抜いた方の太腿を踏む。


「あらぁ。一足早く太腿にケツの穴が出来てしまいましたわね。淑女を焦らすのは罪だという王国法をご存知ないのかしら? さぁ、さっさとお答えなさって?」


 グリグリと靴の先で踏みつけて、汚い悲鳴を木霊させた。


「わかった! 言う! 私はマッキンリー家に言われただけだ! 命令されたんだ!」


 仕方なかった。上級貴族には逆らえない。そう言い訳を並べるご当主様。


「今回の件に加担しているのはどの家ですの?」


「マッキンリー家の派閥に所属している家は全て……」


「ふぅん」


 派閥に所属している家は10を超える。これは中々に骨が折れそうだとリーズレットは思った。


「まぁ、良いですわ。私の人生設計を狂わせた芋虫共は一人残らず殺すと決めていますのよ」


「へ!?」


 銃口を再び額に向けたリーズレットはトリガーを引いた。ご当主様の醜い死体が出来上がり、リーズレットはニンマリと笑って次の行動へ移す。


「さぁ、回収しましょう」


 屋敷の中を回って金品強奪。これでまた新しい銃が買えるとルンルン気分である。


 隠れていたメイドに金目の物がある場所を脅して聞きながらも回収していると、次の部屋は当主の寝室だった。


「あらぁ。奥様。夜分にお邪魔しておりますわ」


「ひ、ひい!」


 ベッドの上には当主の嫁。ビッチの母親がいたのである。


 銃口を向けて、リーズレットは微笑む。


「私、貴方の娘に人生を壊されましてよ? どう責任を取るおつもり?」


「ひ、そ、そんな――」


 タン、タン。


 返答が返ってくる前にリーズレットはハンドガンで母親の胸を撃ち抜いた。


「豚がまたビッチを産めば世界の危機になりましてよ」


 フゥ、と銃口から上がる硝煙を息で吹き消すと、手あたり次第に宝石類などの持ち運び可能な金品を強奪した。


 泥棒作業を終えると1階から男達の声が聞こえた。街の騎士が駆けつけて来たのだろう。


 リーズレットは寝室に爆薬を置いて長い導火線に点火を開始。


 アサルトライフルと共に金品を詰めたバッグを持って、急いで部屋を飛び出すと玄関へ走った。


「助けて下さいましぃー! 上に悪漢が! 奥様をー!」


 騎士達もうら若き淑女たるリーズレットを犯人とは思わなかったのか、咄嗟の出来事で判断が遅れたのか。


 騎士達の間を走り抜けながらも上に犯人がいると叫びながら、然も被害者面をして走り抜けた。


「ごきげんようー!」


 玄関を抜ける間際、グレネードを後方へ2つ投げる。


 スカートを持ち上げながら走り逃げる彼女の背後で爆発。次の瞬間には2階にあった爆薬も爆発。


 月の無い夜を爆炎と炎で照らし、それを背景にしながら華麗に脱出を果たしたリーズレットであった。



-----



「お金が出来ましたのでまた来ましたわ。もっと強い銃はございませんの?」


 アンガー領に戻ったリーズレットは再び武器屋へ赴いた。


 そこで店主へ新たな銃の購入を検討していると告げる。注文は既に彼女が語った通りである。


「強い銃、ねえ。銃ってのはシチュエーションによって変えるモンだ。お嬢ちゃんが撃ちたいのはどんな相手なんだい?」


「そうですわね。数が多くて大きな相手ですわね。家の外壁のように硬い相手でしてよ」


 次に強襲する相手の家は伯爵家だ。伯爵家ともなればある程度裕福で、家の護衛に多くの騎士を配置している事だろう。


 特に次のプロス伯爵家は武家である。当主は過去の戦争で武功を立てた将軍で、領騎士の装備には常に気を使っていると学園でよく聞いた。


 というよりも、プロス伯爵家の娘が自分自身にそう自慢していた事を思い出す。


『ウチの家は剣を受けても物ともしないフルプレートアーマーで領地を守っておりますことよ!』


 あの淑女らしさの欠片もない筋肉ゴリラ女の家をぶっ潰すにはそれなりの火力が必要であると彼女は考えた次第である。


「ふぅむ。なるほどね」


 店主がカウンターの下から取り出したのは軽機関銃。ドスンと置かれたそれにリーズレットは目を輝かせた。


「大きいですわね!」


「おうよ。これは帝国で採用されている分隊支援火器だ。ベルトリンク・弾倉の二重給弾方式、空冷システム。今帝国じゃ一番信頼されている銃だぜ」


 店主が専門用語を並べて語るもリーズレットは首を傾げるばかり。


「あー、つまり、やべえ銃ってこと。アサルトライフルよりもいっぱい撃てて、家の壁なんざ簡単に蜂の巣っちゅーわけよ」


「良いですわね!」


「ただ重いぜ? 各部軽量化されてはいるがお嬢ちゃんが持つには……」


 そう言った店主であるが、リーズレットは「よっこいしょ」と持ち上げて腰だめに構えた。


「奥で試射してもよろしくて?」


 結論から言えばリーズレットは問題無く打つ事が出来た。細い腕と足でどうやって、という店主の疑問に対して、


「ダンスと変わりませんわ。淑女の嗜みでしてよ?」


 全く意味不明な答えを返す。


 とにかく、リーズレットの獲物は軽機関銃に変わった。布製の弾帯袋も3つ購入。グレネードの補給も忘れない。


 宿屋に戻り、お古となったアサルトライフルはユリィへ渡される。


「これで貴方も立派な淑女になりましてよ」


 淑女。それはゴツい銃を構え、相手を人体を徹底的に蜂の巣状態へ変える恐るべき存在。


 おお、神よ。なぜ貴方はこのようなファッキンデーモンをお作りになられたのですかと神父様は問うに違いない。


「さぁ、次はプロス伯爵領をファックしに参りますわよ」


 潜入方法は前と同じ。変装して、夜に襲撃を掛ける。


 ただ、領内に侵入はできたものの、今回のプロス伯爵邸は警備が厳重であった。恐らくクソビッチ家が潰された報を聞いたからだろう。


 筋肉ゴリラ娘が自慢していた通り、フルプレートアーマーに身を包んだ騎士達がわんさかいた。


「関係ございませんわね」


 そう、関係ない。軽機関銃ならね。


「貴様! 何ヤツ――」


「レッツ、パーティータァァァイムッ!!!」


 多少肉が斬れる事に長けた棒きれ VS 鉄すらも貫通する破壊の化身。


 まだマンモス相手に神風特攻を繰り返す人類が宇宙から来た侵略者と戦うくらい圧倒的な差がある。


 ダダダダダダと吐き出される銃弾はフルプレートアーマーを貫通して中の人間を容赦なく蜂の巣に。


 当たらなかった弾は後ろにあった家の壁を穴だらけにして、家の中を安全地帯だと勘違いしているアホウを襲う。


「ファッキューです! ファッキューです!」


 今回はユリィも一緒である。イカれたトリガーハッピーお嬢様の隣で必死に口真似をしながらアサルトライフルを撃つ様は微笑ましい。


「おーっほっほっほ! 鉄の棺桶に自ら入っているなんて、なんとお行儀のよろしい芋虫共ですことォ!」


「ファッキューです! ファッキューです!」


「おーっほっほっほ! ユリィ、前進しますわよォ!」


 腰だめで発射しながらズンズンと進むお嬢様とメイドの組み合わせ。プロス伯爵側にとっては悪魔の行進に思える程の恐怖を覚えた。

 

「誇り高きプロス伯爵領騎士団は悪魔にも負けぬ! 私に続けげべべべ――」


 銃撃される中、フルプレートを着用した伯爵自らが部下を鼓舞しながら前に出る!


 が、ダメッ! 


 軽機関銃の前では剣と共に掲げた根性論などチリ紙以下、ケツを拭く足しにもならない!


「あらぁ。自ら出て来てくれて助かりましたわ」


 自ら姿を晒した事によって蜂の巣になり、部下達へは更なる恐怖を植え付ける結果に終わった。


「さぁさぁ! 残りもお死になさい! 天界から舞い降りた天使のような私は、誰でも等しく平等に殺してあげますわよォ!」


 屋敷を守る騎士を鎮圧した後は恒例の金品強奪タイム。ユリィにも命じて手当たり次第に奪い尽くす。


 最後の部屋を開けると母親と共に部屋の隅で蹲る少年の姿があった。プロス伯爵家の長男だろう、とリーズレットは察した。


「お願いします! 命だけは! せめて、この子だけは!」


 母親の必死な懇願にニコリと笑うリーズレット。脇の下にあるホルスターからハンドガンを抜いて、母親の頭に銃口を押し付けた。


「いけませんわ。人の人生を滅茶苦茶にしておいて、自分だけ助かろうなどと。神も言っていますわね? 汝、左の頬を殴られたら相手の額にケツの穴をこさえろと」


 パン、と乾いた音と共に母親は床に倒れた。


「ひ、ひいぃ!」


「貴方も、自分の生まれを呪って下さいましね?」


 パンパン。


 床に倒れた親子の死体を一瞥する事もせず、彼女は寝室にあった宝石を奪いとる。


「ヒュゥ! 最高ですわ! 最高級のブルーダイヤモンドですわね! これで銃弾が千発は買えますわ!」   


「お嬢様! 回収が終わりました!」


「よくってよ、ユリィ。ズラかりましょう」


 鼻歌混じりにリーズレットは穴の開いた壁から堂々と屋敷を出た。最後はいつも通り、グレネードを2個投げ入れて。


「駆除完了ですわ!」


 またもや爆発する屋敷を背景にリーズレットは去って行った。



-----



「お前さんに会わせたい人がいる」


 プロス伯爵家襲撃から3ヵ月。ユリィにカットされた髪も伸び、大きなドリル巻き髪はまだ無理であるが、小ドリル巻き髪をセッティングできるようになった頃合いにそれは起きた。


 6つ目の家をぶっ潰したリーズレットが銃弾の補給をするべく武器屋へ赴くと、武器屋の店主は真剣な顔でそう言った。


 臭いですわね。内心でそう呟いたリーズレットはズラかる事に。


「用事を思い出しましたわ。ごきげんよう」


「おいおい、そりゃないぜ」


 店の奥から出て来たのは髭面のおじさん。髭がもみあげと一体化しているタイプのヤツだ。


「俺とお嬢さんの敵は一緒だぜ? アルフォンス家長女、リーズレットお嬢様?」


「…………」


 なぜ、その名をとは言わない。ジっとおじさんを見つめるリーズレット。彼の顔にどこか見覚えがあった。


「まぁ、奥で話そうや」


 素性が割れている以上、きっと逃げても追われる。宿屋も知られているだろう、と考えたリーズレットは大人しく後に続いた。


「一度会っているだろう? この店を教えたじゃないか。それと……俺の名はアドラ・フォン・アドスタニア。そう言えば正体がわかるかい?」


「それって……」


 見覚えがあったのは当然だ。彼はこの店をオススメしたゴロツキ。加えて口から出た名前。それはアドスタニア王家の一員であり、現王の弟の名であった。


 アドスタニア王国大公家であり、数年前に事故死したと発表された男である。


「事故死したはずでは?」


「兄にハメられてね。まぁ、政敵ってやつさ」


 アドラ曰く、アドラの母は元アドスタニア王家第一王妃であった。


 しかし、アドスタニア王家では妾であった第二王妃が先に子を産む。それが現在のアドスタニア王だ。これが悲劇の始まりであったとアドラは語った。


 先に生まれた妾の子。なかなか子を産まない正室。先代国王は正室に見切りをつけて先に産まれた妾の子である男児、現王を継承者として認めてしまった。


 苦しく肩身の狭い生活を送っていた正室の第一王妃だったが、子を産む事を諦めきれない。そして、第一子である側室の子誕生から5年後にアドラを遂に産んだ。


 先代国王は喜び、やはりアドラを次の王にすると次期継承者を変えた。これが切っ掛けで、正室派と側室派の派閥争いが激化するも2人の子供は成長していく。


 遂に先代王が病に倒れ、次の王を決めるタイムリミットが近づいた。


 通常通りであれば正室の子が国を受け継ぐのがベター。だが、側室だった第二王妃は自分の子が王になる事を諦めなかった。


 アドラが25になった頃、先代王が危篤と聞いて、視察先から王都に向かっている最中に側室派の工作員が強襲。事故に見せかけてアドラを殺そうとした。


 何とか部下達の奮闘もあって逃げ延びるも、アドラは身一つで世の中に放り出される事に。


 王都に戻っても殺される。そう考えたアドラは帝国へ渡った。因みにこの時、正室であったアドラの母も毒殺されている。当然、病死と偽って。


「そこで色々あってね。帝国人であるここの親父と仲良くなったのさ」


 そう言われ、手を振るのは武器屋の店主。彼がアドラを助け、支援しているようだ。


「この国が次に戦争しようって相手を知ってるか? 帝国だぜ?」


 技術力の成長著しく、転生者まで現れた大国。


 剣と鎧の時代を終わらせ、一部の者にしか使えない奇跡たる魔法と同等の殺傷能力を持つ『銃』を開発した帝国を、王国は相手しようと目論んでいるようだ。


「お嬢さん、銃を使ってどう思った? こんなモンを1万丁以上持つ帝国軍人にこの国が勝てると思うか?」


「まぁ、勝てるわけがございませんわね。頭の中身をぶちまけて蹂躙されるのがオチですわ」


 答えは当然、ノーだ。リーズレットどころか、頭の中がクソ塗れの傭兵達でも同じ答えを出すだろう。


 鉄の鎧を着込んで剣をチンパンジーのように振り回す王国が絶対に勝てるはずがない。


「だろう? 帝国をよく知る俺は戦争を止めたいわけよ。母の仇も取りたいしな。んで、帝国と戦争おっぱじめようとしているのは……」


「私の父を処刑した一派という訳ですわね?」


「正解だ」


 だから、敵は同じである。そうアドラは言った。


「君には俺達の勢力に加わってほしい。敵も同じだし……。何より、君の銃を撃つセンス。最高だぜ」


「断ったらどうするつもり? 私をこの場で殺しますの?」


「まさか。断られたらそれまでの話さ。君は君の復讐を続けると良い。だが、そうだな。俺達に加われば無料で銃をぶっ放せるぜ。軽機関銃よりも強い銃も――」


「やりますわ。仲間になってもよろしくってよ」


 無料で銃をぶっ放せる。それももっと強い銃を。リーズロッテは目を輝かせ、秒で方針を変えた。


「お、おう……。そうかい……」


 とんだトリガーハッピーなお嬢様だ。アドラはそう思わずにはいられなかった。


「お嬢さんのおかげで派閥に所属する家がだいぶ潰れた。残りはグラス伯爵家、王都にいるマッキンリーとその取り巻き。そして……」


「王家ですわね?」


 これはクーデターだ。なんたって現王も戦争には賛成派だ。加えてアドラと彼の母を殺した犯人の息子だ。


 だが、リーズレットには都合が良い。あのビッチと共にクソ芋臭い王子にも鉛弾を撃ち込んでやる気なのだから。


「準備があるからな。2週間後にグラス伯爵家を奇襲する」


「ええ、よくってよ」



-----



 結論から言おう。グラス伯爵家は爆発した。というよりも文字通り、爆発四散した。


「Fooooo!! ファッキン、マザーファッカァァァー!!」


 帝国産のRPGを肩に担いだリーズロッテの手によって。


 窓を突き破った弾は屋敷の中で爆発。屋根は空中に吹き飛んで、中にいる人間ごとゴミクズに変える。


「さいっこうですわ!! なんですのこれ!! さいっこうですわああああ!!」


「ファッキューです! ファッキューです!」


 脇で軽機関銃を乱射するユリィ。新しいRPGに手を伸ばすリーズレット。屋敷の中にいた伯爵ごと吹き飛んだ次は、外に並ぶ騎士に狙いを付けた。


「馬鹿やめろ! 対人戦で使う武器じゃねえ!」


「止めんじゃねえですわ! コロスゥ!!」


 アドラの制止は空しく、ボシュッと飛び出したロケット弾は騎士達目掛けて飛んでいく。騎士の鎧に着弾した弾は大爆発を起こし、爆風に飲まれた他の騎士ごとバラバラになって死体が宙を飛んだ。


 パラパラと降ってくる残骸のカスと人の死体を見上げながら、アドラは本当に仲間にして良かったのかと自分の胸に問うた。


 問題の淑女は隣で炸裂した火薬の臭いを肺に流し込みながら「この匂いがたまらないですわァ」とヤクにハマった悪魔のような事を言っているではありませんか。


「次は王都でしたわね? いつ向かいまして?」


「あ、ああ……。グラス伯爵の死が伝わるだろうからすぐに向かう予定だ」


 グラス伯爵家を奇襲する前に全ての準備は整えてあった。既に王国の未来はカウントダウンが始まっている。


「王都はどう攻めるおつもり? 今回のように奇襲するにはあまりにも広いですわよ?」


「大丈夫だ。王都には既に俺の仲間が民衆を煽っている。日時も伝えてあるから門をぶち破って一気に城へ向かう。それを合図に他の者達も武器を取るって寸法さ」


「あら。根回しがよろしいこと」


 開始日時は決まっている。時間帯は夜。閉まっている王都入場門を突破して、メインストリートを通って城へ。


 城に至るまでは貴族の住まう区画を通る。道すがらマッキンリー家を強襲すれば良い。マッキンリーを始末した後はクーデターを起こした仲間達と城を制圧して王を捕えれば勝ち。


 簡単でシンプルな作戦である。


「わかってますこと? マッキンリーとクソビッチ、クソ王子は私が殺しますのよ? 誰にも渡しはしませんわ」


「わかっているさ。存分にやりな」


 ここまで来れば迷っている暇はない。そう自分に言い聞かせたアドラはリーズレットとユリィを特別製の馬車に招いた。


 特別製の馬車はなんと馬が生きていない。銃と同じく機械仕掛けで作られた疲れ知らずの馬が3頭で引く大型馬車であった。


 2人を乗せた特別な馬車は、もう1台の特別製と共に並走しながら王国王都へ続く道を行く。破滅のカウントダウンは刻々と進み、その時が来た。


 目の前に王都の入場門が見えると帆馬車のようにキャビンを隠していた布が取り払われる。


 正体を晒した馬車のキャビンには壁が無い。代わりにあるのはガトリング式機関銃。左右に1つずつ備わったガトリング式機関銃のグリップを握ったリーズレットとユリィが姿を晒した。


「行くぜ! お嬢様!」


 隣で並走する馬車にはアドラが乗っており、肩に担いだRPGを門に向かってぶっ放した。


「あん。それも私が撃ちたかったですわ!」


 入場門に着弾すると大爆発を起こす。壊れた門から2台の馬車が王都の中に入ると、灯りを持った人々が続々と現れて爆発に驚く騎士へ襲い掛かる。


「前方に騎士団!」


 長いメインストリートを進んでいると騒ぎを嗅ぎつけた騎士団が行く手を阻む。


 いや、阻むと言うべきか?


「ユリィ! やりますわよ!」


「はい! お嬢様!」


「ロックンロォォォルッ!!」


 グリップを握った2人は騎士団に銃口を向ける。徐々に回転している6本の銃身がトップスピードまで至ると、高速で吐き出された弾によって騎士達は痛みを感じずに天へ召された。


 阻むどころか、ただの的になりに来ただけだ。


「ヒュウ! 来世でまた会いましょう!」


 騎士を鎧ごとミンチに変えたリーズレットは死体に中指を立てながら通過する。


 帝国で開発された人殺し馬車は死体の山を築きながら猛進、遂にマッキンリー家が見えた。


「クソ芋虫は等しく蜂の巣ですわぁぁ!」


 御者が屋敷の前で止めると、リーズレットによる掃射が始まる。


 屋敷は面白い程に穴だらけになっていき、中から悲鳴が聞こえてきた。


「おーっほっほっほ! 己のアホさ加減を理解するいい機会ですわよォ! 次の人生に活かして下さいましねェェ?」


 吐き出される弾の発射速度に対抗できる手段を王国貴族は持っていない。


 剣を持ったチンパンジー共は等しく死ぬ。食事中だったマッキンリー本人も同様に、ナイフとフォークを持ったまま頭を吹き飛ばされて死んだ。


「キィス、マァイ、アァァァスッ!!」


 リーズレットは自分の人生を滅茶苦茶にした主犯に中指を立て、唾を吐き捨てた。


「ファッキューです!」


 極めつけはユリィによるグレネードランチャー。マッキンリー家は粉々になって死体諸共崩れ落ちた。


「さぁ! 次は取り巻きの家をぶっ壊して、城ですわよ!」


 御者が機械仕掛けの馬を操作してメインストリートを更に奥へと続く。進みながらマッキンリーの取り巻きが住む家を破壊し、貴族の住まう区画には淑女の笑い声と銃声が響く。


 クソ共にお礼参りを果たしたリーズレットが目指すは天に向かって頭を伸ばすクソの象徴。


 芋クサ王子とビッチはきっと城だ。あそこで乳繰り合っているに違いない。そんな確信がリーズレットにはあった。


 城へ到達するとクーデターに加担した国民とアドラが門の前に陣取っているのが見えた。


「リーズレット! 来たか!」


 どうやらリーズレットを待っていたようだ。律儀に約束を守ってくれた事に彼に対しての内申点が少々上がる。やったぜ、ベイビー!


「突入を?」


「ああ、ほらよ」


 アドラは帝国式突入戦の華を譲りたかったようだ。


 お嬢様にRPG。淑女たるリーズレットは受け取ったRPGを肩に担いでぶっ放す。


 城の門が弾け飛ぶと、


「突撃ですわぁぁぁッ!! パーティィィィタァァァイムッ!!」


 ユリィと共にガトリング式機関銃を掃射しながら城の敷地内へ突撃を開始する。


 銃を撃つ快感に頭をヤラれた戦場の女神、ヤクをキメすぎてぶっ飛んだジャンヌ・ダルクとなったリーズレットの後にアドラと国民が続く。


 掃射によって死んでいく騎士達。手に持った農具で追い打ちをかける為に距離を詰め寄るクーデター軍団。


「私は上に行きますわ!」


「お供するぜ、レディ!」


 玄関口を蜂の巣にして穴を開けたリーズレットは軽機関銃を担いで馬車から降りた。


 アサルトライフルを持ったユリィとアドラが彼女に続く。


「Foooo!!」


 軽機関銃を撃ちながら階段を登り、階段を降りてくる騎士や廊下にいた者どもを等しく殺す。


 明日の神父様はさぞかし忙しいだろう。大量の死体袋を前に金を数えながら淑女(デーモン)万歳と言うに違いない。


 そして3人が辿り着いたのは王族専用のフロア。


「俺は兄を押さえる! お前はお前の復讐を果たせ!」


「当然ですわよ!」


 二手に別れ、リーズレットは淑女の勘を頼りに廊下を進む。途中で現れる近衛騎士を穴だらけにしながら、通過しそうになった部屋の前で足を止めた。


「臭いますわね。ここからビッチと芋クサ野郎の臭いがしますわ」


 ドアの金具を撃って蹴飛ばすと中にはベッドの上で裸のまま身を抱き寄せ合う王子とビッチの姿が。


「グッド、イブニィィング?」


 遂にミツケタ。


 ニタリと笑うリーズレット。硝煙がまだ残る銃口が人生を滅茶苦茶にした2人へ向けられる。


「リ、リーズレット……!」


「ご機嫌麗しゅう、クソ脳たりんの王子様ァ? 元婚約者がファッキン婚約破棄野郎をぶっ殺しに参りましたわよォ?」


 ヒィ、ヒィ! と悲鳴を上げる王子とビッチ。裸で抱き合いながらリーズレットへ恐れを充満させた目を向けた。


 人は恐れを抱き、恐怖に支配されると予想もしない行動に移すものだ。王子もまた、その1人であった。


「リ、リーズレット! 聞いてくれ! 私は悪くない! 悪いのはマッキンリーと加担していたあの女だ!」


 王子は全裸のまま、お楽しみ相手から離れてベッドから転がり落ちる。そして、リーズレットに向かって命乞いを始めた。


「ふふ。知っていますわ。安心して下さいましね、王子様。私は誰にでも等しく慈悲を与える心優しい淑女ですことよ?」


 ニコリと笑ったリーズレットは銃口をベッドの上で震えながら「裏切り者!」と叫ぶビッチへ向けた。


「な、なによ! 婚約者を取られた貴方が悪いんじゃない!」


 銃口を向けられた彼女は体を震わせながら強気な態度を取る。だが、それはいけない。悪手だ。銃を持った淑女にケンカを売ってはいけないよ。


「くたばりあそばせ! ビィィィィッッチ!!」


 銃口の先から弾が高速で吐き出された。リーズレットの怒りを表すかのように、トリガーに掛かった指は弾薬ポーチの中身が尽きるまで離れない。


 結果、ビッチの上半身は無くなった。


「あら、ごめんなさい王子様。貴方の大好きなダッチワイフの上半身が無くなってしまいましたわ」


 赤熱する銃口からは硝煙が天井へ向かって昇る。


「でも、もう充分に楽しんだでしょう?」


 赤熱した銃口を王子の体に押し付けると王子は「アツゥイ!」と叫びながら床を転げ回った。


「ひぃ、ひぃぃぃ!」


 涙と鼻水塗れになった顔の王子は全裸のまま軽機関銃によって開いた壁の穴から隣の部屋へ逃げようと試みる。


 だが、タンという音と共に王子の足に穴が開いた。リーズレットの手にはハンドガンが握られ、弾を発射した証拠に硝煙が舞う。


「ひぎゃあああ!」


「ああ! いけませんわ! 王子様の高貴な足にクソ穴が開いてしまいましてよ!」


 足を抑え、泣き叫ぶ王子に近寄ったリーズレットは彼の無事な足へハンドガンの銃口を押し当てて、


「痛いの、痛いの、飛んでいけ~!」 


 タン、ともう一発撃ち込んだ。


「ああ! 助けてくれ! 助けてぐれえええ!」


 両足の痛みに泣き叫ぶ王子。その醜悪な姿を見て、リーズレットは鼻で笑った。


「馬鹿な男ですわね。私に辱めを与えなければ、こうはならなかったでしょうに」


 婚約破棄をしなければ。父を処刑しなければ。愚かなマッキンリー派の甘い言葉に惑わされなければ。


 だが、もう遅い。もう終わった。


 ハンドガンの銃口が王子の額に押し付けられる。


「ごきげんよう、王子様。次の人生はマシである事を私、リーズレットが祈って差し上げますわ」


 華のように咲き誇る笑顔は淑女の嗜み。何時如何なる時も笑顔を忘れてはいけない。


 そう。婚約破棄をした愚かで、クソなファッキン王子を殺す時も。


 タンタンタン。


「お嬢様。ご苦労様でございました」


「特別サービスでケツの穴を追加で3つも増やしてしまいましたわ」


 ユリィの言葉を聞きながら、フゥと銃口の硝煙を吹き消してリーズレットはハンドガンをホルスターに仕舞った。


「全員始末しましたが、これから如何いたしますか?」


「そうねぇ……。まずは宝物庫から金品を強奪してから考えましょう」


-----



 クーデターは終わった。アドラが現王を拘束し、首を刎ねたのだ。


 これで世界最大の脅威と戦争をしようとしていたアドスタニア王国は生まれ変わる。新しい王と共に正しき道を歩む第一歩を踏み出したのだが……。


「リーズレット!」


 これから新王となるアドラは城の外で王都から去って行こうとするリーズレットの背中に声を掛けた。


 彼女とメイドのユリィはパンパンに膨らんだバッグと銃を肩に引っ掛けながら、朝日が昇る山を背景に振り返った。


「どこへ行くんだ! アドスタニアは変わる! 君もこれからこの国を支えてくれないか!」 


 彼の本心だった。これからアドスタニア王国は帝国と手を取って、新たな未来へ進む。国防の要としてリーズレットを将軍に据えたいと彼は考えていたのだ。


「お断りですわ!」


「なんで!」


「私、淑女でしてよ! 婚約者を探しにいきますの!」


 だったらアドスタニア王国の中から選べばいい。選び放題にしてやる! そう提案するが、リーズレットは鼻で笑った。


「アドスタニア人の男は、どいつもこいつも芋臭い顔をしていますわ。私には不似合いでしてよ」


 返答を聞いたアドラは一瞬返答に困った。だが、次第に笑いが込み上げた。


「そうかい! そうかい……」


 笑いながらアドラは手で顔を覆う。


「ありがとうよ! いつか戻って来い! そん時は、お前が出て行ったのを後悔するくらい美男子を並べて歓迎してやる!」


 アドラは笑いながら朝日の昇る方向へ歩き始めた淑女の背中を見送った。


 見送られる淑女は中指を立てて、メイドと共に去って行く。 


 この時以降、世界各地では『ドリル髪の悪魔淑女』という異名を持った傭兵の名が轟き始める。


『おーっほっほっほ! よろしくってよ! 豚共のケツに鉛弾をぶち込んでさしあげますわァァァ!』


 悪魔淑女のいる陣営に敵は無し。楯突く豚共はどいつもこいつも等しく平等にファックされ、国の中核に鉛弾を撃ち込まれる――らしい。


行き詰った勢いで書いた。


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[一言] 次の人生に活かして下さいましねェェ? このセリフ 次の人生に活かして下さいま 死ねェェ! こうにしか見えなくて困ってます。
[良い点] これぞ、本当の悪役令嬢。 楽しい。
[一言] タイトルからして読む映画って感じですね。 ハリウッドで2030年実写化決定で合ってましたっけ?
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