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勇者ラーメン

作者: MOZUKU

俺は木下(きのした) 克己(かつみ)。冴えない30代のサラリーマンだったが、異世界に転生して頑張って世界を救った。だがそんなことはどうでも良い。

俺は転生する前から脱サラしてラーメン屋を始めようと思っていた。その為に貯金していたのに、信号無視したトラックに引かれて死んじまった。全くもってガッテムな出来事であったが、ラッキーなことに異世界に転生出来たんで、この世界でラーメン屋を始めることにした。

だがすぐにラーメン屋を始めるわけにはいかなかった。何故なら魔王がこの世界を牛耳ってやがったからだ。

世界を平和にしなけりゃラーメンは売れぬ。

そう思って地道に戦って、三年掛かって魔王を見事討伐してやった。

これでラーメン屋を始めることが出来るってもんよ。

俺は夢の第一歩として、車輪付きの移動屋台を買って、それで世界の隅々までラーメンを売り歩くことにした。遠回りな気もするが、まずはラーメンを知らないこの世界の人々にラーメンを知ってもらうことから始めたいのさ。俺も地道にやるのは好きだしな。

ラーメン屋の名前は『勇者ラーメン』。まんまって感じだが、せっかく世界を救ったんだから利用させてもらうぜ。

さて準備は出来たし、そろそろ出発しますかな。

「待って下さいオヤビン。出発前にアタシの作ったラーメンを食べて下さいまし。」

・・・はい?

俺をオヤビンと呼ぶ、この子の名前はミーシャ。猫の獣人の女の子である。

人と猫の割合が7:3であり、見た目は頭に猫の耳がちょこん付いた、少し毛深い女の子って感じ。身長140センチ程しか無く、見た目は小学生の様だが、こう見えて23歳ある。

彼女は俺が魔王退治してる途中で仲間になって一緒に旅をしていたのだが、どうやら俺のことを気に入ったらしく、パーティを解散した後もラーメン屋を手伝うと言って駄々をこね始めたので、仕方がないのでラーメン屋を手伝ってもらうことにしたのである。

昨夜、俺から鍋を一つ借りて、何やら一人で作業していたが、まさかラーメンを自作していたとはな。

「味に自信あるのかい?」

「ふふん♪まぁ、それなりに。」

えらく自信満々だな、よし食べてやろうじゃないか。

「へい♪お待ち♪」

ほぅ、どうやら基本は俺のラーメンと同じらしいな。ちなみに俺のラーメンは、とんこつベースの醤油の様なラーメンだ。豚も醤油もこの世界のには無かったので、代わりを見つけるのに非常に苦労した。ネギ、メンマ、チャーシュー、海苔も同様に似た物を探した。ゆで卵が少し大きな物になってしまったのはご愛嬌である。

むっ?ミーシャのラーメンには俺のラーメンには無い物が入っているな。細か過ぎてよく分からんが、まぁ食べてみれば分かるか。

まずスープを飲んで

"ズズッ"

その後、麺をすする。

"ズルズル・・・"

瞬間だった。瞬間的にあるワードが思い浮かび、正直にそれを口にした。

「クソ不味い。吐き気がする。」

「ひ、酷い!!」

ミーシャはショックを受けてシクシクと泣き始めたが、それを見ても俺に罪悪感は湧いて来なかった。それだけミーシャのラーメンは不味い、なんか酸っぱくて、嫌にスパイシーな匂いがするし、全体的に気持ち悪い。てかなんか獣の毛が入ってたんだけど、何コレ?

ここまで不味いとラーメンに対する冒涜だよ。しかも俺のラーメンを元にしているのが更に質が悪い。怒りすら湧いてきたが、ここは大人な対応をするか。

「ミーシャ、これは一体どうやって作ったんだ?どうやったらこんなに不味く作れるんだ?」

「不味いって・・・はっきり言われてミーシャ悲しいです。」

「不味い物は不味い。ラーメンの道は厳しいのだ。早くどうやって作ったのか教えてくれ。」

「え、えーっと・・・まず鍋に水を張って温め、その中にブータの骨と裸の私が入りました。それで・・・」

「ちょ、ちょい待て!!最初から何やってんだよ!!」

何故入ったんだ!?俺にはそれが分からない!!

「えっ?だって動物から出汁をとるのでしょ?そしたら半獣の私からも出汁が出るかと思い、一緒に入りました。とても良いお湯でしたよ♪」

「良いお湯じゃねぇよ!!出汁とりと入浴を兼ねるな!!・・・ということは、さっきの毛はお前の・・・うげぇ!!」

そりゃ吐き気もするわな。獣人ラーメンなんか、ぶっ飛びすぎてるよ。

「ちゃんと出汁出てたでしょ♪このラーメンを作るために私は一週間風呂に入りませんでしたから♪」

「おぇええええ!!」

ついに吐いてしまった俺。いや吐くべきだろう。逆に吐かない方がどうかしてる。スパイシーだと思ったら、衛生上ヤバすぎるヤツだったわ。

くそぉ、俺の相方サイコパス過ぎる。

「お、お前、ちゃんと味見したのか?」

「いえ、流石に自分の出汁を味見するのは、気が引けました。」

「ふざけんなバカ。残ったヤツお前にぶっかけるぞ。」

本当にぶっかけてやりたいが、不味いラーメンを食べたせいで体に力が入らない。これはもう兵器の類いだな。

ここでミーシャは言い訳をし始めた。

「オ、オヤビンは料理は愛情だと言いました。だから私はオヤビンへの愛情を込めるなら、自らを使って表現したかったのです。確かにラーメンは結果的には不味かったかもしれませんが、愛情なら誰にも負けません。だから、お願いですから一言『美味しい』と言ってくれませんか?」

とんでもない要求だな。

「不味い物を美味しいとは言えん!!」

俺がピシャリと断ると、ミーシャは大泣きし始めた。たくっ、泣けば済むと思っているのか?これだから女は・・・。

俺はチラリと食べかけのラーメンを見た。確かにこれはゲロ不味いが、猟奇的とはいえ愛情は確かに入っているかもしれん。

・・・仕方ねぇ。

"ズルズル"

「不味い、あぁ不味いなぁ。」

出されたものは残さず食べる。それが俺の流儀だ。

"ズルズル"

出発する前に、こんな惨状が起きるとは、勇者ラーメンの前途は多難だな。


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― 新着の感想 ―
[一言] スープの作り方は最高でした(笑)
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