第一話:もしかして勇者様?
「人間っ!名を名乗れ!ここはオレの狩場だぞ!」
―初めてエンカウントしたこの世界の住人は虎?の亜人…というのが正しいのだろうか。そんな子だった。
「ええっと、私は真更 理沙。狩場って…?」
「?お前、レイア国のもんじゃねーのか?」
レイア国。レイア国ってなんだ…?やっぱりここは異世界で合っているらしい。
「レイア国の奴じゃねーならいいや。あいつらは名前名乗らないで斬りかかってくるし」
なんだか物騒な国だな…と思いつつ目の前の亜人の男の子を見る。
青い瞳と金髪、髪はぼさぼさだけどまた可愛い。つり眼の上八重歯なところも高ポイントだ。
じーっと男の子を見ていたら、ぐううう、と私のお腹が鳴ってしまった。
「リサ、腹減ってんのか?しゃあねえな、この干し肉でも食いなよ」
「あ、ありがと…えーっと」
干し肉を渡してくれたお礼を言ってから気づいた。まだ私は名前を聞いていない。
「オレはキール。本当にレイア国の奴じゃねえんだな。普通亜人からの施しなんていらないとか言うのに」
よっぽどそのレイア国というところは亜人嫌いが多いのだろうか。
こんなにかわいい男の子を嫌うだなんてもったいない。
「しっかし、リサはどの国から来たんだ?フィフルでもなさそうだし、グリアは魔物に破壊されちまったし」
「ま、魔物!?」
…一番関わりたくなかった単語が出てしまった。RPGの王道の敵、"魔物"。
「魔物なんざ珍しくねえじゃん。その干し肉もジュウシイクマから作ったやつだし」
「そ、そうだね、あはははは…」
…全部食べてしまったことを少し後悔した。
「え、えとね、キール君」
「んあ?」
―まずは宿を確保しなくては。このまま野宿はさすがにきつい。
いきなり異世界に来たというのに順応している自分が少しだけ驚きだ。
「キール君が知っている泊まれる場所とかってあるかな」
「…まあないこともないけど…」
―金、あんの?
その一言で現実に戻った。
「アリマセン」
しょぼん、と肩を落としてそう言うとキール君はしょうがないと笑って、
「うちに泊まれないか交渉してみるよ。一応うちの家宿もやってるから」
と言ってくれた。
「その代わりちょっと狩りするの手伝って?」
…天使なのか悪魔なのかわかりづらい子だ。
「リサは剣使えるのか?腰につけてるみたいだけど」
「いや…剣道とは違うしなあ、どうだろ」
「ケンドー?」
こっちには剣道という概念がないようだ。
昔見たバトルアニメで「習うより慣れろ」と主人公の師匠が言っていたのを思い出す。
「なんとかなるっ!」
「…ま、まあいいか…どうせすぐ倒せる魔物だから」
そう言ってキール君は私を手招きする。
ついていくと大きな熊のような動物がすやすやと寝ていた。
「あれがジュウシイクマだよ。寝てるときにやっちまうんだ」
(なんだか気が引けるなあ…)
…でも、この子たちが生きるためには必須なのだろう。
キール君は素早い動きでクマの子供を殺していく。魔物狩りとはこういうものだ、と私に教えているかのようだった。
―このまま何も起きず終るかと思った時。
寝ていたはずの母熊がキール君の身体に向かって走っていく姿が見えた。
「―ッ!危ないっ!」
―私にも何が起きたか解らなかった。
一瞬、腰から引き抜いた剣が光とともに風を斬り、キール君の後ろに迫っていた熊の首と胴体を真っ二つに引き裂いた。
「…!?」
キール君の身体にもおびただしい返り血がつく。
ポカン、としたキール君は信じられないものを見るように私を見た。
「…あ、あり、がと…」
「大丈夫!?」
「う、うん…」
私は剣を鞘にしまい、キール君も肉を集めていく。
「あ、あの、さ」
まだおっかなびっくりな声でキール君は、
「もしかして、リサって【勇者様】なのか…?」
と、つぶやいたのだった。