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2 勇者一行

 この村に救いが訪れたのは、偶然であろうか。それとも生ける神の采配であるだろうか。魔族を統べる王、魔王を討伐するために王都から旅をしていた勇者の一行が、この村を通りがかったのだ。勇者一行が村の広場に入ったとき、聞こえていたのは、まるで啜り泣くように石臼によって小麦が削られる音と、そして実際に啜り泣きながら石臼を回す村人の声であった。父親を魔族に殺された少女も、その母親も、石臼を回していた。門番の少年は、魔族が来た森に向かって剣を振っていた。


「魔族は、どちらから来ましたか?」とその広場の光景を見て、馬から降り、近くで泣きながら石臼を回している村人に近づき、尋ねたのは勇者だった。そして、その勇者の仲間は、聖女、剣聖であった。


 聖女は、神の加護を受け、癒しの力を授けられた唯一の者に与えられる称号。魔族に苦しめられ、数百年の月日を待った人間に与えられた神の権威と力を授かった者。神によって与えられた人間の力を越えた癒しの力を持つ処女おとめ、それが聖女であった。


 剣聖は、王都で年に一度開かれる武闘大会を三年連続で優勝した者に与えられる称号である。武闘大会ではありとあらゆる武器の使用が認められ、大剣、小剣、長剣、短剣と、多種多様である。それに槍、弓、盾が加わる。武器にはそれぞれ得意不得意とする武器がある。公平な抽選によって組み合わされるトーナメントでも、相手がどのような武器を使うかという運の要素が生まれる。それにも関わらず、三年連続で優勝を果たした久方ぶりの英雄、それが剣聖であった。



 そして勇者は、他者から勇者と呼ばれる存在であった。



「どうかこの村をお助けください……村は」と、勇者のマントを掴んで離さず、村の差し迫った状況を説明し始めた村長の言葉を遮ったのは剣聖であった。


「村の状況を見れば分かる。で、勇者の質問に答えてやって欲しい。魔族は、どちらから来たんだ? どこに魔族の巣があるのか分からなければ討伐できないだろうが」


「おぉ、勇者様。村を守ってくださるのですか」と村長が言った。


「それが僕の使命です」と、勇者と呼ばれる者が言い切る。


 それからは酷くあっけないものであった。


「神よ、あなたがこの村人たちを祝福し、彼等を守られるように。神よ、御顔を向けて彼等を照らし、彼等に恵みを与えられるように。神よ、御顔を彼等に向けて、彼等に平安を賜るように」と聖女が祈ると、村人たちが負った傷は癒えた。


 そして、魔族が村へとやって来た方向の森へと勇者一行が旅立った。次の日の昼過ぎには勇者一行は、魔族の群の長の首を携えて村へと戻って来た。


「長の首も勇者が討ち取り、魔族の群れを殲滅した。数年は魔族の組織的な行動はないだろう」と剣聖が村の広場で高らかに宣言をした。


「おぉ」と広場に集まった村人たちの歓声が聞こえた。だが、次第に、「それでもたった数年なのか」という暗い呟きが村人たちの間から聞こえはじめた。


「それは違います!」


 澄み渡る聖女の声が広場に響いた。


「私たちは魔王の城へと向かっています。魔王を勇者が討ち滅ぼすでしょう。そうなれば、魔族から“魔”が過ぎ去り、魔族も力を失います。どうか勇者を信じてください」


 魔族の襲来によって失われた村人たちの笑顔と、希望と、明日を生きる活力が戻った瞬間であった。未だに笑顔を取り戻していないのは、魔族によって家族を失った遺族たちである。そして門番の少年は思い詰めた顔をしていた。

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