転移、そして危機 2
「消えた、だと?それはどういうことだ?」
ボールドウィンは目を丸くして聞いた。マクドナルドは困ったような顔をして、
「そういわれましても、我々にも見当がつかないのです。ただ周りが海になったという情報しか……」
と言った。
空はすでに白み始め、この島国の周りの海の視界はクリアになり始めていた。この国にしては珍しい宇宙が透けて見えるような快晴で、青空が広がっていた。大英帝国に異変が起きたことが知られるのも時間の問題である。
ボールドウィンとマクドナルドが話をしていると、内務大臣のサー・ジョン・サイモンが顔を青くして、部屋に入ってきた。
「首相。えらいことが起きました。」
走ってきたらしく、声はかすれていた。
「今度は何だね……。」
ボールドウィンは呆れたように言った。
「ドーヴァー及びイギリス海峡沿岸の警察署から報告がありました。『こんなに空が晴れ渡っていて、海の視界のクリアなのに、フランス沿岸が見えない』と!」
ドーヴァー海峡沿岸、特にドーヴァーからは、海での視界が良ければ、対岸のカレーが眺められる。
「漁から帰ってきた地元の漁師も、『いくら南の方向に進んでも、フランスの海岸が見えない』と言っています。」
サイモンは机に手をつきながら言った。
「私もそんなことはあり得ないと思いました。しかし、それを裏付けるような証言や証拠が多すぎます!」
その後少し間があり、ボールドウィンは口を開いた。
「つまり……君はこう言っているのだな。大英帝国とその自治領、属州が我々のもといた世界から放逐されたと。」