7話 ACT3-1
ログインした場所は最初の街、《アルバの街》。
サラから色々遊んでみてとは言われたものの、面倒くさがりのシキにとって街を色々探索して色々なNPCやプレイヤーと楽しく話をしていくモチベーションはないので街の外に出て早速新しく取得したウィザードのスキルを試してみる。
昨日と同じく晴天の空の下、草原の風景を楽しみながら風を雰囲気だけ味わい探索しているとケッコが現れる。
でかい鶏であるケッコは目があうなり正面から突っ込んでくるがシキはケッコの正面攻撃をかわし他の攻撃パターンを見定め攻撃パターンを考える。
しばらく攻撃を交わして様子見するが、ケッコは正面からの突っ込んでくる攻撃以外をしてこないのでシキはスキルを発動する。
「【マジックアロー】」
スキルを唱えた瞬間に木の杖の先の周りに気の塊が出てくる。
おー、これがスキルか。
始めてのスキルに少しだけ感動しつつ、木の杖を上に突き上げ振り落とすと気の塊がケッコに向かって飛んでいきケッコに打つける。
「ゴケーーーー!!」
衝撃音と爆発にあわせてHPゲージはすぐさま0になりケッコはふき飛ばされ倒れこみ光の粒子となって散っていく。
ウィザードの特性上今後はスキル中距離系の攻撃がメインになるのかと想像すると少しだけ違和感を感じるシキ。
昨日のバトルでもそうだった。
木の杖を振り回すことについての違和感。
そもそも拳や蹴りを使わないことの違和感。
リアル世界では格闘技をメインでやっていたために体がどうしてもウズウズしてしまう。
サラが言うリアルとは違う感覚を楽しみなよ。という言葉を受け入れつつも今ひとつ違和感の抜けないシキは木の杖を一度しまいこむ。
AHでは装備をしている状態でもアバター切り替え機能によってその武器を使わないこともできるが拳の状態で木の杖を装備しているステータスは維持される。
あまりこういう使い方をするプレイヤーはいなさそうであるが、シキはどうしてもリアルで得意とする動きをAHでしてみたくなる。
再び探索しているとケッコがまた現れる。
ちょうど同じモンスターで違う攻撃パターンを試せるのはうってつけである。
突っ込んでくるケッコを避け右サイドのケッコのボディに避けたステップの反動で飛び出し右ストレートで殴る。
「ゴケー」と倒れこみケッコはHPゲージを【マジックアロー】の時よりはスピードの遅い減り方であるが0まで減らし散る。
あれ?
【マジックアロー】の時ほどのダメージの大きさではないにしろ攻撃力は変わらないはずなのに木の杖で攻撃している時よりも相手に与えるダメージが大きいような気がする。
そんなことってあるのか?
不思議に思いながらもその後に出てくるスリープシープ、ゴブリンをストレート、フック、ミドルキック、跳び蹴り等を色々試すが明らかに木の杖で攻撃していた時よりも相手のHPゲージの減りが多くダメージを大きい。
それと同時にシキの中でくすぶっていた違和感はなくなり始める。
素手でのバトルをメインにするか・・・。
その場合別のジョブのほうがいいのか?
そんな思いもあるがウィザードでいながらこのバトルスタイルにあるスキル発動の仕方を考えてみた。
再び歩いているとまた現れるゴブリン。ゴブリンが棍棒を振りかざして迫ってくるのをみてシキは掌を広げる。
「【マジックアロー】」
掌から気の塊を生み出せたシキはそのまま気の塊である【マジックアロー】をゴブリンに投球するように投げつける。見事ゴブリンは【マジックアロー】に打つかり、消滅する。
「ギャキーーーー!!」
「これは・・・」
シキは自分の両手を見ながら興奮を隠しきれない。
一人完結で行える近接バトルの格闘コマンドと中距離バトルのスキル発動。
見事なまでのコンビネーションのバトルスタイルが見えてくる。
これを特殊スキルと呼んでいいのかどうかはさておき、独自性や個性が大事であることをサラが言っていた事はもちろん覚えているのでサラがインしたら早く伝えようと思う。
喜ぶサラに「そんな大したことか?」と天邪鬼な返答をしている自分を想像しながらも結局ドンドンAHにハマってしまっている事をシキは受け入れ始めてきた。
レベルアップや攻撃のバリエーションをもう少し待っている間に習得しようと意識を向ける。
シキが引き続き探索しているとゴブリン4体に囲まれている10歳くらいの女の子を見つける。
明らさまに危険を感じている表情をしているのはみてとれたのでゴブリン1体の顔面に向かって走り込み飛び膝蹴りを決める。
「ギャピ!!」
吹き飛ぶゴブリン。倒れこんではいるもののHPゲージはまだ残っているようなのでもう何発か入れないと倒せさなそうだ。
「大丈夫か?」
囲まれているゴブリンの1角を崩しその女の子の側に近寄る。
ゴブリン達は急遽参戦したきたシキへの敵意を完全に向けはじめた為、ターゲットがシキに変わったことを認識した。
「すいません。参戦感謝します」
礼儀正しくお礼してくる少女を見てそもそも人のバトルに勝手に参戦していいのかわからなかったシキは参戦OKを認識する。
「それじゃ他のゴブリンも片付けるか」
「はい」
囲ったゴブリンを蹴散らしたいシキは2体目のゴブリンを右ストレートで吹き飛ばし、3体目のゴブリンを飛び横蹴りで吹き飛ばし、その流れで4体目のゴブリンにカカト落としを決める。
カカト落としした4体目のゴブリンにそのまましゃがみ込みアッパーを打つけ、ゴブリンが少し中に浮いたところに腹に前蹴りを決めて吹き飛ばす。
4体目に攻撃したゴブリンはここで光の粒子となって散る。
ゴブリンはHPゲージの減りを見る限りでいうと2,3発で倒せるか。
少女のほうをみるとオロオロしているように見えたのでバトルはまだそこまで慣れていないのだろう。
「全部俺が片付ける。俺の後ろに下がってろ」
「はい」
女の子を囲うように4角に分かれていたゴブリンのうち攻撃した4体目の方向にはゴブリンがいなくなったので、そちらのほうに少女が走りその少女を背にする形でシキは構える。
立ち上がった3体のゴブリン達はまとめてシキに向かって棍棒を振り回し向かってくる。
「【マジックアロー】」
掌で生み出した気の塊【マジックアロー】を3体のゴブリンがこちらに向かってきて3体が寄ってくる面にあわせて投げつける。
「ギャキーーーーー!!」
さきほどと同じようにゴブリンの奇声を聞き爆風と共に光の粒子を見届けてシキはゴブリン4体ともの討伐を確認する。
シキは近距離と中距離の攻撃パターンを使いこなせる感覚に高揚感を覚えてきた。
「大丈夫だったか?」
「すいません、本当にありがとうございます」
ありがとうございますありがとうございます。とお辞儀とお礼を連発するショートヘアに緑のバンダナキャップ、白いシャツ黒の短パン姿の少女。
「それは全然いいんだけど、見たところまだバトルできなさそうだが一人で大丈夫なのか?」
「そうなんです・・・。一応シーフというジョブは取得しているのですが今までスリープシープ等比較的動きのゆっくりなモンスターとしか戦ったことなかったので・・・」
シーフは基本職である。基本職の種類をマイページで確認したシキ。
シーフになっているということは最低でもレベル5にはなっているということはわかる。
レベル5でここまでバトル慣れしていないとなると一人で行動させるのは結構危ないんじゃないか。
「そういえば名前はまだだったな。俺はシキ。君は?」
「私はミティです」
「そうか、ミティよろしくな。俺はログインして2日目の初心者だから偉そうなことは言えないんだけどミティは初心者か?シーフ職を持っているからレベルは多少あるんだろうけど、少し心配だよ。一緒に始めた仲間とかいないのか?」
いきなり会った奴にこんな言われ方するのはムッとさせるかもしれないが、自分がもし一人だったらこんな感じなのだろうかとシキは思いつつもミティに状況を確認してみる。
「はい。私完全にバトル初心者でして」
「それじゃ街に戻ったほうがいい。今のままじゃ危ない」
「でもそういうわけにはいかないんです。妹が、妹が危険にさらされてるんです」
7/13です。
次は18時に投稿します。




