5話 ACT2-3
最初の街《アルバの街》を出て目前、草原に溢れた場所に移動。
「うーん。風が気持ち良いー」
雲ひとつない晴天。
先の先に街なのか何かがあるのはわかりつつもほとんど景色を害する物もない一面の草原の海。
サラはVBCのアバターなので実際に本当にそこにいるかのような体感を味わっている。
シキのつけているホロジェクターグラスは電磁波で擬似体感の演出はできるようになっているが、実際そこにいるかのような体感には程遠い。
そこは少しだけ羨ましいがもちろん言わない。
んーと伸びをしながら何も言わないシキを横目でみるサラ。
「そーかー、そーか、そっか、シーちゃんもこの風をしっかり感じたいんだねー。わかってるよー。シーちゃん、リアル世界でも風、好きだもんね」
なんでもサラに見破られてしまう。おまえはエスパーか。
「そりゃ、子供の頃の話だろ。風感じたいなら別にこの後リアル世界に戻って川の近くにでもいくわ」
「もー素直じゃない。とにかく少しづつね。少しづつ」
笑顔のサラにここまで巻き込まれるとVBCヘッドセットもそのうちだろうか・・・。とシキも半ば、事流れを感じる。
シキとサラはそのままテクテクと草原をどこを目的としているわけでもなく歩いていく。
しばらく歩いているとさきほどまで一面何もなかった草原にモンスターらしきものがウヨウヨ現れ始めてくる。
「あれ、さっきまでモンスターいなかったのに急に現れ始めたぞ」
「そうなの。一定領域に入るとモンスターが見えるようになっているみたい。広々とした景色をそこなわないように。っていう製作側の配慮かも」
見ていると動物がでかくなったようなモンスターがうろちょろしている。
見た目からすると鶏のでかい版?
羊のデカイ版?
狼と人がくっついたようなモンスター?
あ、あそこにいるのは見た目的にはゴブリンだな。ゴブリンは元は一体なんなんだろうな?
そんなことをシキが考えながら見ているとこちらに気づき始めたゴブリンがこちらに気づいて攻めてくる。
「これがエンカウント、遭遇ってやつだね。モンスターの一定範囲内に近づくとモンスターが近づいてくるみたい」
そう言ってサラは弓を出現させ矢を放ちゴブリンに命中させる。
ゴブリンは倒れこみ光の粒子となって散っていった。
「お、すげー、瞬殺」
「ここはゲームビギナーが最初にいる街の近くのモンスターだから今の私のレベルだと相当弱いかな。
パーティーモードを組んでいると一緒に経験値もらえるからこのタイミングでパーティーを組もっか?」
サラがそう言うと《パーティー申請》というテロップが目の前に流れる。
「ってか、組もっか?の言葉と同時に、パーティー申請がきたぞ。サラ、今、言っただけでメニューとかいじれるのか?」
シキは自分のマイページ画面にあがっていたパーティー申請をクリックすると、《サラとパーティーになりました》と出る。
「それはそうだよ。VBCヘッドセットだもん。基本は思考がそのままコマンドになるんだから。体動かす時に俺は今から右手を動かす。なんて思って動かしたりしないでしょ?」
「たしかに、言われてみればそうだが・・・」
「な〜〜に〜〜?どんどんVBCヘッドセットでやりたくなっちゃった?」
シキを見透かすようにニヤニヤしながら聞いてくるサラにシキはいやらしいやつめ。と思いながらあっちの方向を向きながら素直に答えておく。
「少しだけな」
「うーん。よろしい。よろしい」
最初のうちはレベルが低すぎて一回一回のバトルが大変だからという事で遭遇してくるモンスターをすべてサラが倒していく。
しかし、すべて矢一発とは・・・。結構レベル高そうだな・・・。
《レベルアップしました》
テロップが流れたのでシキはサラに報告する。
とりあえずレベル3まではこのままで行こうと言われしばしば散歩しながらエンカウント(遭遇)してバトルを見学。
「レベル3になったぞ」
「シーちゃん、レベルアップ早いね。
AHはリアル世界の個人の個性をスキャンして独自性を作ろうとしてくれたりするの。
だから普段からおじさんに鍛えられて道場でトレーニング癖のついているシーちゃんは個性として経験値取得補正のデータに反映されているのかも。
このまま何もしないでサクサクレベル上げしていっても楽しくないだろうからここからはシーちゃんが戦っていって」
少し歩くとでかい羊のようなモンスター、スリープシープが現れる。
モンスターとのバトルが始まる際にはモンスターの上に名前と矢印が発生しその状態になると所謂エンカウント(遭遇)となり、モンスターもこちらの存在を認識しているので戦うないし逃げるの行動コマンドがとれるようになる。
ノービス(初心者)の時はもちろんスキル等は持っていないので、攻撃コマンドは単一でシキは木の杖を装備していいたので木の杖でボコスカ殴るという選択肢のみである。
スリープシープがメエという言葉を発すると共にスキル名【催眠誘導】を超音波のようなエフェクトが発生する。
シキはスリープシープに向かって走り、スキル攻撃をジャンプして避け着地にあわせて木の杖を叩き落とす。
HPゲージが1/2ほど減ったのをみて続け様に振り落とした木の杖を下から突き上げスリープシープの脇腹に突きつけて倒す。
スリープシープはそのまま光の粒子となって散る。
「すごいすごーい」
シキの綺麗な攻撃コンボを見てパチパチ拍手しながらベタ褒めするサラ。
こんなん余裕でしょと言わんばかりの表情をするシキだが満更でもない。
子供の頃にやっていたゲームと違い完全に自分の特性を活かしているように感じてしまうAHの魅力を少しだけ感じた。
「もしかしたらシーちゃんは同レベルの人と戦ってもシーちゃんのほうがプレイヤースキル面で強かったりしちゃうんじゃないのかな」
「そんなもんか」
「そうだよ、そうだよ。これでVBCヘッドセット使ったら体感リンクするからもっとすごくなるような気がする。お客さん、今が買い時ですよ」
「どこの売り込みだよ」
ツッコミをしながらもサラのVBCヘッドセットを勧めてくる可愛いプッシュ攻撃にもうすぐ陥落してしまいそうになるシキ。
引き続きモンスターを探索する。次からはサラも一緒に戦っていくことになりモンスターを見つけてはシキは接近戦で攻撃し、サラは遠距離で矢を放って攻撃していく連携を取っていった。
「シーちゃん、離れて」
4体ゴブリンとエンカウント(遭遇)して始まったバトルにてシキは1体目のゴブリンを木の杖で殴り倒すが第2、第3、第4のゴブリンの攻撃をくらってしまい苦戦する。
後方からのサラから声に合わせてシキはすばやくゴブリンの群れから離れる。
そこに【アローレイン】と呼ばれるスナイパーのスキルである30本の矢の雨がゴブリンに降り注ぐ。
「ギェーーーーー」
矢の雨を喰らった3体のゴブリン達は続けざまに光の粒子になり散っていく。
「サラ、やるな」
「シーちゃんもタイミング最高だよ」
シキとサラの二人の息も合ってきている。
サラにとってシキとの連携がうまくいったことの喜びは大きいようだ。終始ニコニコしている。
バトルを続けていきシキのレベルもどんどん上がっていく。
ジョブチェンジできるレベル5も超えてレベル10になった。
5/13です。
次は22時に投稿します。