31話 ACT8-5
ソーサラーになったシキは、基本職ウィザードのスキルとジャイアントベアーナックルの装備スキルにあわせて、ソーサラースキル5つを未習得状態から一番低いスキルランクEの状態にスキルポイントを割り振り習得する。
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シキスキル
ウィザード職スキル
【魔法攻撃力上昇[マジックパワーアップ]】 E+
【マジックアロー[魔法攻撃中ダメージ]】 D+
【マジックバリア[MPでダメージ吸収]】 D
ソーサラー職スキル
【ファイアーボール[魔法攻撃大ダメージ]】 E
【アイスウォール[氷のバリアでダメージ減衰]】 E
【フロストボルト[魔法攻撃大ダメージ、確率で凍結状態付与]】 E
【ブラッドマジック[MPの代わりにHPを消費して魔法攻撃]】 E
【マジックスクエア[半径5m以内に仮装魔法陣を展開し、陣内で魔法攻撃を行った場合威力増加]】 E
装備スキル
ジャイアントベアーナックル
【雄叫び】 D+
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残りのスキルポイントは昨日リンカと話した通り《時と補正のエリア》でのレベルアップ後にギルマス権利剥奪決行作戦に備えて最終調整用にとっておく。
「それではいきましょうか」
リンカの言葉にあわせてシキとリンカはお互いの気を引き締める。
NPCの神父に《時と補正のエリア》に入りたい事を伝ると、以前レアイベントクエスト時に使わせてもらった礼拝堂の奥にある集会所をさらに奥に行き書斎に案内される。
書斎は四人掛けのテーブルが3つ中央にあり入り口を含めてすべての壁が本棚になっていて向かいに《時と補正のエリア》の入り口の扉がある。
《時と補正のエリア》は各パーティー専用の空間に分けられており入り口は一つだが、その先は利用を申請し許可されたパーティーの分だけあるようだ。
神父の案内を終え扉を開けるシキとリンカ。
その先はおおよそ教会の建物を考えて、とても位置がつながっているとは思えない白い地面に雲ひとつない青い空。
永遠とつづく建物もなにもない先の道の空間だった。
入り口の側には木造のコテージがあり、入ると10畳ほどのリビングダイニングがあり、簡素なテーブルと冷蔵庫とコップがいくつかあるだけだった。
ルームサービスで食事をとるのが前提のようにキッチンなどはなかった。
気分転換もかねてなのかアパートメントにはなかったシャワールームやバスルームもあり、寝室も2つあり缶詰とはいえ生活していく分には申し分ない。
「うん、悪くないわね。ゆっくりする時間を作りたいわけではないけれど、休憩も効率よくできそうね」
シキとリンカはコテージを一通り見た後、すぐにまた”外の空間”に出る。
「それでここはどんな感じでレベルアップしていくんだ?イースの街の外に出て草原を探索してモンスターと戦っていく。って流れと一緒なら別にわざわざここでやる必要ないよな?」
「もちろん。《時と補正のエリア》ではモンスターは出てこないわ。出てくるのはシャドウと呼ばれる自分の分身ね。ひたすら自分の分身と戦い続けるの。しかも自分と同じレベルであれば互角の戦いを繰り広げていくだけだから、自分より強いレベル補正されたシャドウとの戦いになるのよ」
「自分のシャドウか。楽しみだな」
「あなたねー。すごい楽観的に言ってるけど自分の事を何もかも知りつくしているシャドウと戦うのよ。
いわゆる自分にとって一番戦いづらい相手になるはずなの。
戦えば戦うほど自分が嫌になってくるくらい辛いって言うのによく楽しみだなんて言えるわね」
「全然ウェルカムだろ。
そもそもAHはパーティー組んで経験値シェアさせてもらってサクサクレベルアップできるようになっているにもかかわらず、それよりも《時と補正のエリア》はレベルアップが早いんだろ?
ブーストみたいなものだと考えればブーストには副作用のリスクと痛みが伴うのはしょうがないんじゃないか。
リスクと痛みはシンドイけど、その後強くなって自分のパフォーマンスを発揮できる事を想像すると辛さより楽しみのほうが大きいけどな」
「そ、そう。なんだか、あなたの印象が変わってきたわ。どちらかと言うと合理的な天邪鬼タイプなイメージがあったけど」
「合理的な天邪鬼タイプって・・・。
リアル世界ではそう言う一面もあるかもしれないがここではそういうつもりはないけどな。
こうしたほうがいいと周りから言われる常識的な事に全て懐疑的な中でやらなければいけない事や時がある。
色々とコミュニティの中で生きていくには自我を通すだけでは生きていけないからな。
その結果、自分の全力を注ぐに値しないけどやらなければいけない事に合理性を求めるんじゃないか。
自分にとっては本当はやらなくてもいい事だし、したくもない事だから一番楽なコスパで動きたいと。
俺なりの見解だけど」
「リアル世界でのあなたは知らないけれど、出会った時の印象は合理的な天邪鬼タイプの印象だったわよ。自分で合理的な天邪鬼タイプとあまり思っていないのがびっくりしたけれど、それだけの見解を持っていれば知らずと自己分析もできてるってことじゃない?」
「・・・、どこまでも俺が天邪鬼で合理的タイプである前提で話してくるな」
「ふふ。そこは認めなさい。たしかにあなたの言う通りね。
いつだって人の純粋な気持ちを失わせるのは、自分ががんばったと思える事の成果が出ない時だものね。
その中でさらに目的が一致しないその価値観を一方的に押しつけられる時に気持ちがついてこなくて打算的な動き方になってしまうんだと思うわ」
「さすがリンカも合理的な天邪鬼タイプだな」
「私は違うわよ。客観的に物事を見れるだけ」
おいおい・・・。
冷静に物事を見れた会話はできても主観的な部分は認めないんだな・・・。
シキはツッコミをいれようとしたが、リンカの天邪鬼かつ合理的でさらにプラスされた頑固で勝気が強い点を考えると、ここは本人の納得がいく会話で着地しておくのが無難である。
反論するとどこまでもつきあげられてしまう・・・。
別の会話に持っていく。
「その点、AHはわかりやすい。
やればやるだけレベルアップして自分にも周りにもその進化がわかりやすいのが自分の気持ちを高めるよな。
リアル世界と違って自分の価値観に沿わない常識的な事をしなくてはならない事もないから、どちらかが得をしてどちらかが損をするような利害関係もなく仲間と一緒に切磋琢磨しやすい。
その均衡を壊してしまったのがサラを巻き込み、AHのプレイヤーも巻き込んだ帰化プレイヤー問題なんだけどな」
「今は、その帰化プレイヤー問題の課題に向かって目的もはっきりしているし為すべきことも明確だから、多少のシンドさは問題ないってことかしら?」
「まあそういうことだな。マリアがこれから仕掛けようとしているやり方については正しいかどうかは正直わからない。
ただAHに来て確かな成長を感じている自分がマリアの役に立つなら助けてあげたいって気持ちは確かだ。
その先の事がサラにつながっていると信じているしな。
もちろん帰化プレイヤーの問題が解決するまで、リンカが探している人を見つけるまでこの旅は終わらせない。
その為に《時と補正のエリア》でのこの時間があるなら、変な言い方かもしれないけど、どんなことでも俺はきっと楽しめるよ。
その先に自分の求めてるものがあって叶う未来も想像できるからな」
「・・・。シキ、かっこいいね」
「ん?」
「あ!!、いや、なんでもない」
ふと思わず口に出してしまった言葉を発した後に気づいてしまったリンカは言った言葉の理解に合わせて顔が赤くなり始める。
「合理的な天邪鬼イメージは消えたか?」
「いいから、こっちこないで」
シキから目をそらし顔を背けて手を振り近づくなというリンカの腕を掴む。
さきほどよりもさらに耳まで赤くなっているリンカを少しからかい気味にシキは近づきを顔を近づけると、ビンタを食らう。
「おー、いてー」
「だからこっちこないでっていったでしょ」
勝気の強いリンカが恥ずかしがる所をからかう楽しさに少し調子乗ってしまった反省をするシキ。
しかし、リンカと出会ってからビンタを食らったことになるのだろうか・・・。
シキとリンカは、コテージから少しづつ離れ何もない白い地面の先を歩いていくと、ナビゲーションの案内が始まる。
『ようこそ、《時と補正のエリア》へ。
ここではプレイヤーの時短レベルアップを目的としたエリアです。
レベルアップはもちろんの事、自分自身の分身であるシャドウと呼ばれるアバターと戦い、共に過ごす事で心身共に自分を磨き成長することができます。
シャドウの呼び出し方と引き下げ方は思考コマンドでできるようになっています』
《時と補正のエリア》はAHの中でもVBCの技術を一部解放できる空間になっている。
本来、VBCが生み出したアバターはすべての事に制限がかけられていない。
空を飛ぶことも瞬間移動も可能であり、思ったものを簡単に生み出す事もでき、肉体のスペック制限もなく超人という言葉に相応しい動きをする事もできる。
ただしVBCの世界においては。
リアル世界とログインしているVBC技術のアバターにおいてはいろいろな制限は発生している。
リアル世界の理や自然摂理のバランスを崩さないようにVBCのアバターとリアル世界を同期してログインしているにすぎないので、思ったものを簡単に生み出す事ができることもなくリアル世界の”都合”にアバターが少しあわせていなければいけない点がある。
完全なデジタルワールドであるAHにおいてもゲームシステムが採用されている為に、リアル世界までとはいかないがすべての制限が解放されているわけではない。
そんなAHの中にある《時と補正のエリア》ではあるが、AHでの制限で一つ解放されているのが、シャドウを出現させたり消失させりする仕様、コマンドである。
『問題なければ、シャドウを出現させトレーニングを開始してください。健闘をお祈り申し上げます』
ナビゲーションの案内を終え、シキとリンカはシャドウ出現を思考コマンドで開始する。
シャドウ出現コマンドを開始すると隣にいたリンカがいなくなる。
「おい、リンカ?」
呼びかけるリンカの代わりにナビゲーションが返答をする。
『シャドウの出現のタイミングでパーティーメンバーとは空間別離いたします。お互いがシャドウを消失させる状態になると空間統合が行われます』
「パーティー同士でシャドウと戦うことはできないのか?」
『原則できませんが、シャドウがその必要があると判断した時にはその環境が用意されることもあります。すべてはシャドウのなすままに』
「シャドウのなすままって、たかが分身だろ?」
シキの最後の質問にナビゲーションは答える事はなかった。
シキもそれ以上追求する事なく、しばらくは白い地面の四方八方、先が何もないその道をまっすぐ歩いているのかすらわからない状態で歩き続けると、10mほど先で空間が歪み現れるアバター。
その姿にシキは考えるよりも先に怒りがこみ上げてくることになる。
「なんで、てめーがここにいんだよ」
その言葉と共に走り出しそのアバターに飛びかかり右ストレートで殴りかかるシキにその人物は掌をシキに向けて波動を放ちシキをふき飛ばす。
そう、シャドウと呼ばれるアバターがいるはずがなぜか鉄仮面がそこにいたのである。
次回は来週の月曜日の19時に投稿します。




