21話 ACT6-1
部屋で一息ついた後、部屋を出てリンカと一緒に1階のロビーと酒場が併設しているフロアに下りる。
フロアは《アルバの街》の集会所兼アパートメントと同じつくりと広さである。
プレイヤー達は変わらず飲み食いしているがどこかお互いが牽制し合っているような雰囲気を出していて、《アルバの街》に比べるとドンチャン騒ぎしているようなプレイヤー達はいなかった。
「さて、さっそく色々聞いていきましょうか」
リンカは、テーブル席を見渡す。
一人で食事しているプレイヤー、呑んでいるプレイヤー、お茶しているプレイヤー。
2~4人のグループで食事しているプレイヤー達、呑んでいるプレイヤー達、お茶しているプレイヤー達。
色々いる。
どこの環境においても人が一つの場所で活動するときは色々なコミュニティが存在するものだ。
コミュニティ群を見ていると意識高そうなコミュニティから雰囲気重視のコミュニティと色々ありそうだった。
もちろん単独のプレイヤーにおいても、ピリピリしていそうなプレイヤーとほんわかした雰囲気のプレイヤーと色々いる。
ヒアリングをするのに適していそうなプレイヤーを見定めるように歩き回るリンカの後ろをシキはとりあえず黙って付いて行く。
「こんにちは」
リンカが声をかけたのはお茶している勇者ご一行様のようなパーティー。
剣士がいて、弓使いがいて、魔法使いがいて、武道家がいる。
男四人の少し意識高そうな雰囲気のパーティーだった。
「私達、この街で特殊スキルが得られるって聞いてきたんだけど、何か情報知ってる?」
「おまえらもか。俺達も特殊スキルが目的で来たんだが、今の所収穫なしだな。
色んな奴に俺らも聞いてるが、情報がてんでバラバラだ。
ある奴はそんな情報知らないというし、ある奴はあるクエストをクリアしたら特殊スキルを得られると聞いたと言う。
またある奴は選ばれた者にしかその情報は入ってこない。と言う。
ただ何かありそうなのは間違いない。
俺達も情報を得られそうだったら共有するから、お前らも情報を得たら教えてくれ」
そう言ってリーダー格の剣士らしき男がリンカとフレンド登録をする。
お互いの登録をおえて「それじゃ」とその場をリンカが離れる。
「考えてみたらAHの人と絡むの始めてだな。みんなあんな感じでフレンドリーなのか」
「そんなことないわよ。私が美人だからフレンドリーなだけ。あ、ほら、他の3人からのあの剣士経由でフレンド申請来てるわ」
リンカは自身のマイページのフレンドボタンがびっくりマーク3つ付いているのをシキに見せる。
なるほど、ナンパな感じだな。
もちろんシキからリンカを経由してあの4人にフレンド申請することはないし、向こうから来る気配もないだろう。
ところで、リンカさん、自分で美人だと言い切るところもさすがですね。
「だいたいこの後のパターンは、今日はありがとな。ところで◯◯ってクエストで、△△って報酬やドロップがあるから一緒にいかない?っていうクエストデートのお誘いがくるパターンね。
もちろんそのままスルーして一定時期がたったらフレンド解除。ルーチンね」
「どこの世界でもチャンスあれば仲良くなりたいっていう下心は変わらないんだな」
「そうね、私みたいな美人と中々出会える事も少ないし、みんな千載一遇のチャンスを取りに来るんじゃない?」
そこまで言うか?そもそもアバターでいくらでも外見変えられるだろ。
「リンカはアバターいじってないのか?」
「殴るわよ」
「失礼」
シキは気持ちを抑えることができずに聞いてしまった。
次にリンカが声をかけたのは、一人で呑んでいるプレイヤー。
「こんにちは」
「お、おう」
ソロプレイヤーのこの男は筋肉ムキムキの柔道着きた格闘家プレイヤー。
少しだけ目を泳がせながらリンカの質問に受け答える。
女性に免疫がなさそうなタイプだった。
さきほどの勇者パーティー風の剣士に質問した内容と同じ内容をリンカがムキムキ男に質問をする。
「その話か・・・」
少しだけシキをみて間をおくムキムキ男。
「この男?私の家来だから気にしないで」
「そーか。実はな、俺には声が掛かってきた」
家来の説明のくだりが必要あったのかと思いきや、そこを確認するや否やムキムキ男からの気になる情報源が出てくる。
そもそも家来じゃなかくて彼氏だったら教えなかったのか?
この世界の男どもはどれだけ女と仲良くなりたいんだよ。
リンカは男の隣に座りどういった経緯で?どんな話したの?と質問攻めをする。
このタイミングでムキムキ男の隣に座るあたりが男の扱いになれている感があざとい。
ジョブ、キャバ嬢なんじゃねーの?と心の中でツッコミをいれておく。
男の話はよると夜、マント付きのフードをかぶったプレイヤーが接近してきて、才能ありそうなプレイヤーを探していると声をかけられる。
何を持って才能なのかは説明されないが特殊スキルを得ることに興味があるなら、気が熟したタイミングで声をかけるからそれまでこの街で待機しておいてほしいと言う。至極シンプルなお題を与えられるとのことだった。
また才能あるプレイヤーにしか声をかけていないので、この情報を周りには言わないでほしい。
もし情報が漏れてしまった場合はもう接触はできなくなってしまうかもしれないという制限も掛けられているとの事。
自分で高らかに美人と宣言してしまう方とその家来に対して普通に情報漏らしてますけどね、ムキムキさん。
ムキムキ男がマント付きフードを被ったプレイヤーから声をかけられて1週間ほど経つらしいが、今の所接近はなし。
ただムキムキ男は選ばれし男の目を自分に酔っていたので疑う余地は本人の中ではなさそうであった。
今か今かと声をかけられることをただただひたすら待っている様子。
ムキムキ男とのやりとりを追えてリンカは一通りのジャンルのコミュニティに声をかけて行く。
ある程度のコミュニティに声をかけおえたタイミングでシキとリンカは昼食を取り、その後休憩と情報整理をするために一旦シキの部屋に戻る。
「やっぱり色々ありそうね。この街」
「そうだな。ムキムキ男なんかは自分達の隠れた才能を見出してくれたことを誇らしげに語っていたが、あれ、絶対関係ないよな?」
「そうね。レベルもジョブもステータスを見ても何か特別な事があるとは思えないわ。あえて共通項を作るとしたらパーティーを組んでないソロ活動をしていて意識高そうなプレイヤー。かな?」
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情報整理メモ
意識高いソロプレイヤー。
フード付きマントを被ったプレイヤーからのお誘い。
現状で特殊スキルを得たプレイヤーには出会えていない。
ヒアリングした中では最長2週間またされているプレイヤーもいる。
仮説
一定期間を追えたプレイヤーに特殊スキルと称して帰化プレイヤー化をさせるのでは?
帰化プレイヤーはプレイヤーをキルすることでその状態になると思われることからどこかで暗殺されるのでは?
もしくは違う方法もあるのかもしれない。
検証
声をかけられたソロプレイヤーを監視する。
シキとリンカも声をかけられないか一旦パーティーを解除してみる事にする。
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明日は土曜日なので13時と20時に投稿します。




