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16話 ACT4-3

「お前、さっきまでここにいなかったよな?何処から来た?」


 鉄仮面の下で口元がニヤついてる男は警戒するシキの質問に両手を広げ返答する。


「嗚呼少年よ。より良い世界を築く為の同志として君は選ばれました。そこの羽虫と離れ私と共にいざ参りましょう」


「は!!、お前何言ってんの」


 明らかに仲良くなろうとするつもりがない怪しい鉄仮面の男にシキは少し高圧的な態度で近づこうとする。


「シーちゃん、ジャンプして」


 サラに言われた瞬間シキはサラの言葉を忠実に従うべきだと直感しジャンプ動作に入る。

 鉄仮面の男の頭上よりも上にあがる。

 シキがジャンプするタイミングより少し前に鉄仮面の男は右の掌をシキに向ける形とり、そこからすさまじい波動を出す。

 シキはサラの言葉によりギリギリその波動をかわすことができた。


 しかしながら第二弾で頭上に飛んでいるシキ向かって第二の波動が襲ってくる。

 今度こそ避けきれないと思ったシキだったが、その波動がシキに当たるコンマ数秒のところでサラから放たれた矢が当たり、またしても波動を受けることを回避することができたが、矢と波動の衝撃でシキはサラのいるほうに飛ばされて倒れる。


「っく。あいつ、なんなんだよ」


 サラの左隣でちょうど倒れこんで起き上がるシキ。

 右隣にいるサラを見上げると、表情がかなりの深刻さを表している。


「シーちゃん、あいつは危ないかも。

 この現れ方を考えると、転移石(トランディションストーン)を使った空間移動じゃないと思う。

 アサシンのジョブで背後に回る瞬間移動のようなスキルもあるけどそれとも違う。

 もっと大掛かりな完全に瞬間移動と呼んでいい動きだよ。

 今出してきた波動?

 攻撃スキルもプレイヤーはおろかモンスターですら見たことないもん。

 特殊スキルもしくは特殊ジョブプレイヤーだと思う」


「すげースキルオンパレードのプレイヤーって事だな」


「うん・・・、これで仲良くやろうって気が感じられないのは、結構やばい気しかしないかも・・・」


 とはいえ簡単に逃げ出せるような状況でもないのは、サラが語らずともシキも認識できていた。


「嗚呼、なんとも五月蝿い羽虫。害を及ぼすのであれば駆逐せざるを得ませんね」


「うっせー。だまれ」


 シキは鉄仮面の男に向かって走り出しジャンプして飛びかかるように右ストレートで殴る。

 しかし鉄仮面はシキの右ストレートを右の掌で受け止め、微動だにせず続けて波動を出し、シキはふき飛ばされる。


「ぐ!!」


 こいつ、全く攻撃が通用する気がしねー。


「・・・。少年、ここで生み出された素晴らしい拳撃はどうしました?与えられた力を振るうことに躊躇しているのですか?」


 シキとサラは顔を見合わせる。

 鉄仮面から発せられる言葉から上級ポイズンウーズとの戦いを見られていたと思われる。


「あの時の奇声もお前だな。どこまで知ってんだ?」


 シキのバトルスタイル、シキだけの攻撃スキル仕様、レアイベントクエスト、上級ポイズンウーズ、これらすべては鉄仮面がどこまで関わっているのか?


「嗚呼、成る程。成る程。少年よ、貴方はなぜ選ばれたのかがわかっていない雛鳥。その通り、すべては私及び私達が仕掛けてきたことです!

 ミラーリングのポイズンウーズは魅力的だったのでは!少年よ、何もわからず不安でしょう!

 しかし安心しなさい。私の従うことで力を存分に使いこなせる大鷲になれるでしょう。

 そして世界を変えるのです!

 理想とするソーマ・エレフセリア(解放領域)を作り上げるのです!

 嗚呼、可能性とは才能ある者に許された素晴らしき特権ですね!」


「シーちゃん、下がって!!」


 シキはサラの言葉にあわせて飛び上がり後ろに引き下がる。

 言葉のタイミングに合わせてサラが【アローレイン】を発動する。

 鉄仮面の男の範囲を30本の矢の雨が降り注ぐ。

 矢の雨をすべて鉄仮面の男は受けるが、HPゲージも微々たるものしか減らない。


 続けざまに


「【フェイルノート】」


 確実に攻撃を与え動きを止める矢が放たれ、鉄仮面の男に直撃する。


「【クリティカルスナイプ】」

 

 クリティカルヒットを起こす補助スキルを発動させ、サラの周りがオーラに包まれる。

 オーラに包まれた状態でさらに先ほどよりも大きく太い気のオーラに包まれ爆撃を潜ませた矢を放つ。


「【ボムシュート】」


 【アローレイン】、【フェイルノート】で動きを鈍らせた状態で【クリティカルスナイプ】の【ボムシュート】。

 サラが今できる最高の連撃スキルを鉄仮面に打つける。

 ここまでのすさまじい攻撃はシキも始めてみる。

 鉄仮面の周りで衝撃音と爆発を起こし、シキは手応えを確認するようにサラを見るが、サラの表情は変わらない。


「シーちゃん、逃げよう」


 爆発に乗じてサラはシキの手を掴み、《汚水洞》を進んできた道へと走って戻っていく。


「倒せる気配は全くなしか?」


「はぁ、全然無理だよ、はぁ、手応えが全くないもん、はぁ、しかもシーちゃんとのやりとりも全く会話になってないし。

 やばいよ。なんとしてでも逃げよう」


 シキはサラの手を握りながら走り続ける。

 シキは後ろを振り返るが鉄仮面はいない。

 だが、顔を走っているほうに戻すと引き離したはずの鉄仮面の男が立っている。

 HPゲージは少しだけ減っていたが致命傷に至るまでのダメージにはなっていなかった。


 シキとサラが全力で走っているのも虚しく、鉄仮面の男は走っている方向の目の前に立ちだかる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 サラの苦しそうな呼吸と表情をみると、さきほどの攻撃パターンが相当サラに無理を与えた攻撃なのだろう。


「お前、目的はなんなんだ?俺たちを殺すことか?」


 これ以上サラに無理をさせらない。

 シキは自分が今、何をすべきなのかを覚悟し深呼吸する。


「羽虫、今のはなかなかでしたよ」


 シキの質問の返答すらしない鉄仮面の男をみて、シキは決意する。


「サラ、逃げろ」


 【魔法力上昇[マジックパワーアップ]】を発動させ、オーラがシキの全身を纏う。


 右手に【マジックアロー】を発動させる。右の拳にしっかりした気の塊に覆われる。


 サラのスキル連撃にびくともしない鉄仮面にシキの全力攻撃を打つけたところで結果は見えている。


 だが、ここでやらないわけにはいかない。


「ぶったっお、れやがれー」


 シキは【マジックアロー】に覆われた右の懇親のストレートを鉄仮面の左頬の直撃させる。


 すさまじい衝撃音と風圧が起こるが、シキの願いはむなしく目の前に起きている現実はただ、鉄仮面の男が殴られた状態のまま虫ケラを見るような目でシキを見下ろしていた。


 HPゲージを見るとわずかにしか減っていない。


「【マジックアロー】」


 続いて左の拳にも【マジックアロー】をかけ、左フックを、鉄仮面の右頬に打つける。


 激しい衝撃と音こそなれど、再び鉄仮面の男は微動だにしない。

 シキは自分の許す限りのひたすら殴り続ける。

 なんとか時間を稼いでサラが逃げてくれれば。

 そして少しだけ減っていくHPゲージを見ながらほんのわずかな可能性にかけながら。

 ひたすらひたすら殴り続けた。


 しかしそのシキの思いを嘲笑うかのように鉄仮面のHPゲージの減りが途中で止まる。


「・・・、もういいでしょう?」


 そう言った瞬間、鉄仮面はシキの頭を右手で掴み地面に叩きつける。


「ごふ!!」


 シキのHPゲージが1/2まで減少している。


 次でやばい・・・。


 シキの頭を地面に押し付けた状態で鉄仮面は、貫手の構えをしうつ伏せになっているシキの心臓目掛けて付いてくる。


 終わっ・・・・・・。


 グサ!!


 覚悟をし目をつぶってしまっていたシキだったが、音と共に自分の上に被さり抱きつく何かを感じる。


 まさか・・・・・・。


 目を開けるとシキに覆いかぶさっているサラがいる。


「おま!!、何やってんだよ」


 シキが叫ぶ。


 サラは今にも止まってしまいそうな荒い呼吸をしながら、か細い声でシキの耳元でささやく。


「シーちゃん、いい?、よく聞いて。

 この人の存在自体が何かおかしいの・・・。

 PK(プレイヤーキル)と呼ばれるプレイヤーともこの人は何かが違うから・・・。

 もっと何か私達の想像もつかないような危険があると思うの・・・。

 だからお願いだから一旦強制ログアウトして。

 私もすぐログアウトして実体リンクするから、お願いね」


 そう言ってシキに覆いかぶさったままのサラはマイページウィンドウから何かをいじり始める。


《パーティーマスターより強制執行で、シキをログアウトいたします》


 マイページウィンドウで流れるメッセージを見てシキは焦り始める。


「お、おい、サラ、お前が先に」


 ストン・・・。


 シキは目の前がブラックウィンドウになり、現実世界のホロジェクターグラスをつけている状態へと意識が戻っていった。

次は明日の21時に投稿します。

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