14話 ACT4-1
土曜日
「・・・シーち。・・・シーちゃ。シーちゃん、、シーちゃん」
自分の体が優しく揺れている感覚と遠くから聞こえてくるサラの声が少しつづ近づいて耳に入ってくる感覚と共に目を覚まし始めるシキ。
夢うつつの状態でまだ眠りの気持ちよさを感じながら重い瞼をあけると目の前には自分の下半身のところに正座から両足を外にして座る割座で座っているサラがいる。
「ん、、おはよう。ってか、、、サラ・・・。何やってんだ・・・」
少しだけまだ意識が朦朧としている状態で自分の上に乗っかっているサラを注意する。
朝の健全な青少年の上に乗っかっちゃいかんだろ・・・。
「もうお昼だよ。シーちゃんがいつまでたっても起きないから起こしに来た」
「いやいやいや、起こし方がおかしいだろ。とりあえず起きるからどいてくれ」
シキが起き上がると共にサラもお尻を軸にして両足をベッドの下に持って行き、シキから離れ立ち上がる。
「はい。準備して。AHにいくよ」
サラに洗面所まで引っ張られ準備し、軽くフレークを口にしてサラの家に移動する。
サラはVBCヘッドセットをシキはホロジェクターグラスを設置し、意識リンクとログインをする。
場所は《アルバの街》のメイン通り。目の前に教会がある。
サラから「お茶しながらちょっと話そうよ」と言われ教会から少し離れたところにある集会所に移動する。
集会所はホテルのロビーのような作りになっていて総合受付もあればクエスト一覧掲示板もあり、酒場施設も併設されていて4人掛けから8人掛けまでのテーブルのセットがあわせて20ほどあるほどの広さだった。
4人掛けの空いているテーブルを見つけ向かい合って座るシキとサラ。
店員らしきNPCに声をかけられコーヒーを二つ頼む。
「シーちゃん。私ね。昨日色々考えてて。話さないといけないことがいっぱいあるの」
色々話さなければいけない事はシキにも思い当たるところがある。
「マティの洗脳状態とかか?」
「うん。そこもだけどその前に今回のイベントクエストの事を話すね。昨日あの後、今回のイベントクエストの情報を掲示板で調べてみたの。そしたら全然情報が出てこなくて」
サラ曰くシキが今回プレイしたイベントクエストを経験しているプレイヤーが掲示板上では誰も存在していなかった事がわかった。
もちろんサラも初めて経験したイベントクエストの内容である。
本来イベントクエストとはその名の通りイベントという名がついているだけあってイベントのフラグを何かしらの要因で立たせてからイベントにつながる事が多い。
報酬が限定的などの特殊な事情があるとき以外は、情報掲示板で共有されるものである。
今回のレアイベントクエストが報酬が特殊なものでなかったことを考えると、本来であれば、イベントクエストをプレイし終わったプレイヤーが後にイベントにつながったフラグが立つ条件も含めて情報が掲示板にあがっているものだが今回はされていなかった。
情報がほとんどない事を考えて、シキの状況を考えた時にビギナーである事はまず選択肢から外す。
大きな可能性としてシキがAHにログインするために使っているハードウェアがホロジェクターグラスである事。
サラは昨日の夜の段階でリキに確認をいれてみたが、明確な答えを得る事はできなかった。
レアイベントクエストのプログラムがホロジェクターグラスのAHアプリにだけ起きているとすれば、VBCヘッドセットを使っているサラが参画するのは難しくなる。
ホロジェクターグラスのAHアプリとレアイベントクエストのつながりの選択肢は考えにくいんじゃないか。との事だった。
他のフラグのパターンを考えるとサラにはシキと一緒に行動していた中ではフラグを立たせるようなキッカケを思い当たる事がなかったので、昨日、サラとシキが別行動をとっていてからイベントクエストが始まるミティとの出会いに至るまでの経緯をシキから説明してもらう。
「そっか。もしかしたらなんだけど、ホロジェクターグラスをつけて個別特性をスキャンしたシーちゃんがリアル世界での武道とリンクできるようなプレイヤースキルを活かしたバトルスタイルを変えた事がレアイベントクエストに出現させたフラグなのかも」
「そんなことってあるのか?」
「特殊スキルをプレイヤーが手に入れたりレアイベントクエストを出現させるフラグ条件は公開されてないから断定はできないけど、ホロジェクターグラスがジョブ属性とは違うバトルスタイルをシーちゃんのプレイヤースキルと重なねてきたって考えられなくもないし、なんか選ばれてる感があってかっこいいよ」
そんな御都合主義の結論でいいのかよ?とシキは思うものの、自分にしか起きていない状況やサラの根拠のない説得力が相まって一旦受け入れることにする。
今回のイベントクエストが仮にシキが起こした行動によるフラグであるとするのであれば、単独行動している時に編み出した近距離格闘スタイルと【マジックアロー】を掌から生み出し投げつける攻撃パターンによって立ったフラグと考える。
結果としてシキは近距離攻撃パターン、道具を使わない中距離攻撃パターンに拳に【マジックアロー】を宿す事で近距離攻撃や通常の【マジックアロー】の何倍ものダメージを与える事ができる攻撃パターンも生み出した。
そうと考えるとこれもまた何かのフラグを立たせたキッカケになっているかもしれないことをシキとサラは共通認識とした。
「レアイベントクエストについては、今の時点では情報整理するとこんなところかも。
次はさっきシーちゃんが言ってたマティの豹変だよね。
ポイズンウーズが攻撃や接触することで相手を毒に侵す事を特性としているモンスターなのはわかっているんだけど・・・」
「上級ポイズンウーズになったからって、毒に侵したプレイヤーが正気を失って他のプレイヤーを攻撃するなんて事は基本は考えらない。ってことだよな?もしありえるなら相手にトランス状態を与えるスキルとか?」
「うん。そもそも上級ポイズンウーズに関する情報が少ないから断定はできないけど、私達の攻撃パターンを真似てきたり相手をトランス状態にさせたりとかちょっとピンとこないの。
マティちゃんのあの状態もトランス状態って言葉が適切かどうかもわからない。
ちょっとトランス状態とも違うような気もするんだよね。意識はしっかりしているというか」
「たしかにマティに攻撃された時に少しだけやりとりしてて、トランス状態をちゃんと認識できているわけじゃないけど、意識が飛んでるって感じはしなかったな。
殲滅してやる。って俺のほうを見て言ってたけど、まるで俺たちが敵で上級ポイズンウーズが味方であるような振る舞いをしていたのが気になったな」
マティはトランス状態ではなく洗脳状態だったのか?
上級ポイズンウーズの情報が少ないことと実際そこで起きた状況を考えた時に答えを見つけた出す事はできなかった。
もちろんその答えが出せない以上、マティの豹変に対しても仮説を立てる事すら難しい。
しばらくの間の沈黙の時間が流れる。
「うん、もう一回《汚水洞》に行ってみよう」
「うげ?またあの場所に戻るのか?」
「一度攻略しているところだし、しっかり事前準備していけば大丈夫だよ。
今回の目的は上級ポイズンウーズの生態系を研究にしよう。
レアイベントクエストでない状態の時の《汚水洞》がどうなっているのかとか他のプレイヤーが出入りしているのかどうかも知りたい」
サラの表情を見る限り気になって気になってしょうがないモードに入ってしまっているので、シキはこれ以上のコメントは諦める。
一度決めてしまったサラの考えを動かすのはテコでも動かないのはわかっている。
せっかくなので、シキも《汚水洞》を離れる前に耳に入ってきた小さな奇声の招待も少し気になってはいた原因を探ってみようと思った。
次は明日の21時に投稿します。




