11話 ACT3-5
「ミティ。マティはお母さんと同じく上級ポイズンウーズの毒にかかっている可能性がある。
マティは上級ポイズンウーズを討伐して《ウーズのコア》を手に入れてからお母さんと一緒に治療することを考えたり、上級ポイズンウーズと戦うことで俺達も毒消しでは治らない毒にかかる可能性も高い。
最悪は全滅も免れない。俺の希望としてはミティだけでもマティを連れて先に街に戻っていてほしいが、それでも一緒に来たいか?」
出会ってから今に至るまでのミティとのやりとりを考えると素直に言うことを聞くタイプでないのはわかっている。
逆に言えば自分の意思が明確なのだろう。
だからこそこうしたほうがいいからこうしろ。とは言わない。
シキの考えを伝えた上でミティに判断をさせる。
「はい。足手まといなのはわかっています・・・。でも私も一緒に戦いたいんです」
ミティの目元が赤くなっているのがわかる。きっと葛藤しながらここまで来たのだろう。
シキが気を使って掛けていた言葉もミティへの葛藤を増幅させていた事に気づくシキ。
「よし、わかった。これ以上もう何も言わない。一緒にポイズンウーズを倒すぞ」
「はい」
ミティの頭をポンポンとするシキを見てサラがニコニコしている。
「なんだよ?」
「ううん。シーちゃん、いいお兄さん、いいパパだな。って」
「俺だってそれなりに考えて行動してんだよ。ってかパパは無いだろ」
「あはは。そうだね。なんかシーちゃんのこんな一面を久々に見れてうれしくて」
サラの純粋な言葉をそのままどうしても素直に受け取りづらいシキだが、AHにインしてからのサラのシキに対する言動を見ると昔、小さい時に一緒に遊んでいた時の事を思い出す。
そういえばサラはいつもこうだった。
シキの側にいることを望み、シキが人に優しくしたりいい事をすると喜び、逆の事をすると悲しんだ。
中学生になり疎遠になっていった事はシキにとってはこれが大人になるってことなんだと割り切っていたが、サラの中では望んでいない環境の変化だったのかもしれない。
サラにとっては突然態度を変えてしまった幼馴染への接し方を色々模索した結果がAHという事を今更ながらに認識し始めることでサラに対して愛情という言葉だけでは表現しきれない感情が出てくる。
「サラ」
「なに?」
「その、なんだ、今言う話じゃないけど、ありがとな」
シキの対応の変化に気づいたのか、サラが照れ始める。
シキをずっと見てきていたサラだからこそ小さい変化には敏感である。
「え?、何、どうしたの?シーちゃん?いきなり変な事いわないで」
「あー悪い」
「あの、すいません・・・」
シキとサラはミティから声をかけられるタイミングまで少しだけ危機的状況の意識が抜けてしまったいた。
子供の前で少し恥ずかしくなるシキとサラ。
「悪い」
「ごめんね、ミティちゃん」
「いえ、こちらこそごめんなさい」
ミティの気を使わせてしまったことを申し訳ないと思うシキとサラ。
「それじゃ、奥に向かうぞ。俺とサラが基本的には戦うからミティはマティの側にいてあげてくれ」
「わかりました」
一旦はシキがマティをおんぶして三人は奥に向かっていく。
100mほど進むと明らかにポイズンウーズとは違う人の形状をしたドロドロのスライムがいる。
「ビャー、ヒー」
「ミティ、あれが上級ポンズンウーズか?」
以前、街に攻め込んできたポイズンウーズの群れや母が毒牙にかかったところを見ているミティは上級ポインズウーズを目視している。
「はい」
「よし、それじゃミティはここで待機だ。マティを下ろすぞ」
おんぶしていたマティをしゃがんでおろしミティに預け、シキとサラは10mほど先にいる上級ポイズンウーズをみて軽い作戦会議を立てる。
「シーちゃん、どう攻める?」
「今度はさっきの逆で攻めよう。サラが攻撃起点になってくれ。攻撃受けるにしろ避けるしろそこをついて俺は攻撃していく。
毒にかからない方法を模索したいがさすがにそんなに都合よくはいかないだろうから俺は毒にかかる前提で攻撃するよ。
サラは毒にかからないように気をつけてほしい」
「シーちゃん」
「ん?」
サラはシキの左手を右手でそっと触れてくる。
子供の頃はよく手をつないで遊んだりはしていたもののこの年齢になってすることもないので少しドギマギしてしまうが悟られないように気をつける。
「ううん。なんでもない。気をつけてね」
「わかってるって」
サラの頭を少しだけクシャクシャっとする。
「もーシーちゃん」
「いくぞ」
「うん」
シキとサラは小走りで上級ポイズンウーズ5m付近まで近づき、サラが矢を放つ。
矢の後ろをついていく形でシキは加速し走りこむ。
上級ポイズンウーズが矢を受けるにしろ避けるにしろ追加の攻撃を加えられるように意識した作戦。
上級ポイズンウーズはサラが放つ矢とシキ右フックを食らうその瞬間に馬鹿にしたような笑みを浮かべその瞬間に消える。
「え??」
「シーちゃん、後ろ」
サラの声とどうタイミングで上級ポイズンウーズから右フックを食らうシキ。
「ぐ!!」
シキは右フックを食らった反動を使って後ろ回し蹴りをするがこれも交わされ逆に後ろ回し蹴りを食らい吹き飛ばされる。
上級ポイズンウーズはシキを吹き飛ばした後もサラから後続してくる矢もすべて避け、近場の岩に座り「ビャ、ビャ、ビャ」と笑いとも取れる奇声をあげている。
こいつ・・・。強い。そして攻撃パターンが完全にシキに似ている。
むしろシキそっくりである。
近接戦闘のバトルが得意なポイズンウーズなんているのか・・・?
「【クリティカルスナイプ】」
クリティカルヒットを出す確率を飛躍的にあげるスキルを発動するサラ。
さきほどのポイズンウーズの群れとの戦いとは違い完全に決めにかかっているのがわかる。
サラを覆う気のオーラがうねりを上げている。
「【フェイルノート】」
確実にダメージを与えることができるスキルを発動した矢は上級ポイズンウーズにダメージを与える。
ポインズウーズの動きを止めたところに続けざまに
「【レイザーアロー】」
通常攻撃を倍増させる攻撃力と出血で継続ダメージを与えつつ付ける矢のスキルを発動する。
大きな気に覆われた矢が放たれ上級ポイズンウーズに直撃しHPゲージを2/3近くまで減らす。
「ビャーーーー!!」
シキはサラの攻撃に続けて上級ポイズンウーズへの右ストレートを仕掛けようとする。
ところが
「シーちゃん!!マティちゃんが」
サラの声と共にがそこになぜか毒に侵され倒れているはずのマティが立っていてシキの腹部に短剣を刺してきた。
「っち!!」
不意のカウンター攻撃にHPゲージを減らしシキは後方に下がる。
上級ポイズンウーズの前に立ち、まるでシキを敵とみなしたような立ち振る舞いをしているマティを見てシキはサラやミティの方を向く。
「シーちゃん、マティちゃんの様子がおかしい」
倒れているミティに腰に手を当ててしゃがみこんでいるサラ。
状況からして二人もマティに攻撃されたようだった。
「マティ、何やってるんだ?」
マティはシキの質問に答えることなくシキを直視しながらボソボソを小さくつぶやいている。
「殲滅しないと、、、」
気が確かではないな・・・。
シキは即座にマティの背後に回り首の後ろの延髄に手刀を入れる。
マティはそのまま気を崩れ落ちそうになるところを拾い抱きかかえる。
上級ポインズウーズはもちろんこのタイミングを見逃す事なく攻撃を仕掛けてくるが、なぜかそこでシキに向かって自身の体のスライム状から作り上げた弓を矢をシキに放つ。
シキは避けきれないと判断し攻め向け矢を背で受ける。さらに矢の攻撃をくらいHPゲージが1/4まで減り出血状態というステータス異常が現れる。
出血状態・・・?




