どすこい異世界英雄譚
「竜也、お前のその大きな体はみんなを守るためにあるんだ。
周りの連中が言うような、木偶の棒なんかじゃない。胸を張って、自信を持て」
気が弱く大人しかった少年は、大好きなおじいちゃんにそう言われ、顔をほころばせた。
「僕は、ヒーローなの」
「そうだ、竜也はヒーローになる」
「お化けも、いじめっ子のハセベ君も怖くない?」
「もちろんだ! お化けだってハセベ君だって、みんな竜也の友達になる。だから前向きに、元気に生きてくんだ」
そう言って、老人は少年の頭をガシガシと撫ぜる。
それは、竜也の一番古い記憶だ。
老人が息を引き取り、大好きだった相撲を見よう見まねで始め、中学では全国大会で準優勝をおさめたが……
――ここ一番での気の弱さが、まだ抜けきらない。
竜也はおじいちゃんの最後の言葉を思い返す度に、自分がまだまだヒーローでないことを実感した。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
「竜ちゃん、今場所から十両なんだから、そんなにコンビニとか遊びに行っちゃダメだよ。親方に見つかったら怒られちゃうから」
おかみさんは美しい顔を近づけて、したり顔でそう言った。
竜ちゃんと呼ばれた神崎竜也は渋い顔をする。
相撲業界でも「時舞部屋のボンバーおかみ」として有名な彼女は、元人気女子プロレスラーで、まだ年若く、20代の後半だ。
献身的で格闘技にも明るく、良いおかみだが…… その美しさは竜也が苦手とする所だった。
――どうも、女の人は苦手だ。おかみさんも綺麗すぎて、近付きがたいし。
しかも竜也は、今日発売の週刊少年漫画が気になって仕方ない。
――あのヒーローは、ヒロインを助け出せたんだろうか?
自分の十両昇格より、その事が気になっている。
「おかみさん…… ごめん。午後の稽古前には戻ってくるから、親方には内緒にして」
中学を卒業し、相撲部屋に入門して2年半。竜也は前の場所で幕下準優勝を飾り、相撲ファンの注目を集めた若手のホープだ。
しかし、まだ17歳。普通に進学してたら高校3年生。
おかみさんは懇願するような竜也の顔を見て、ため息をつく。
――まだ、漫画読んだりゲームしたい年だものねえ。
親元を離れ毎日稽古に励む姿を見ているだけに、どうしても甘やかしたくなってしまう。
「あんまり長居しないで、早く帰ってくるんだよ。
それから、踏切前の坂道は気を付けて。確か数日前もあそこで事故があったから」
おかみさんの言葉に竜也はニコリと微笑む。
そして、大きな体をゆすりながら嬉しそうに歩き出した竜也の後ろ姿に、もう一度深いため息をついた。
コンビにまでの道のりは近くの高校の通学路でもあり、あまり遅い時間は彼らとすれ違うことが多いから、竜也は出来るだけ早い時間にコンビニに寄ることにしている。
どうしても、高校生に奇異な目で見られるのが嫌だったからだ。
ましてや同年代の女の子には、苦手意識すら芽生え始めていた。
だから平日の午後の3時に、遮断機の前で佇むセーラー服の少女に目が行った。
しかも彼女は、美しいブラウンの髪を風にたなびかせている。
――染めてる感じじゃないな…… 外国の人かな?
そして、その後ろから近づいてきた軽トラに気付いた。
ドライバーのおばあさんは、ハンドルにうつ伏せになり…… 踏切前でもブレーキを踏む気配が全くない。
まるで坂道を転げるように、滑り落ちてゆく。
大したスピードではないが、このままではセーラー服の女の子がひかれてしまう。
竜也は少女に向かって、とっさに飛び出したが……
――けど、女の子を助けても軽トラックのおばあさんは? このタイミングで踏切を超えたら電車の乗客は?
途中で方向を変え、猛然と軽トラに突進した。
「力士とは、力を持って『士』とする。
――心技体全てを常に精進し、その力で世に貢献する仕事だ」
親方の言葉が頭をよぎる。
「そうだ、竜也はヒーローになる」
大好きだった、おじいちゃんの声も聞こえてきたような気がした。
少女も、おばあさんも、電車の乗員も。
全てを助ける!
竜也はその一念で、軽トラにぶちかましを決めた。
そのまま前方に回り込み、軽トラを止めるべく、フロントバンパーをまわしのように握りしめる。
竜也が得意とする「喧嘩四つ」の組手だ。
左腕と胸元からグシャリと嫌な音が聞こえたが、腰を落として全力で踏ん張った。
――ここが勝負時。いつまでも、ここ一番で負けてはいられない!
後ろからは列車が走る音が聞こえてくる。
竜也は、「通過するまで死んでもこのまわしは離さない」と…… 口からこぼれ出る血をものともせず、歯を食い縛った。
――あと少し、あと少しだ!
やがて踏切が上がる音が聞こえ、竜也は力尽きて意識を手放した。
――少女は、助かったんだろうか?
意識が遠のく瞬間、竜也はそれだけが心配だった。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
目が覚めると、そこは見知らぬ森の中だった。
「アノ、だ、大丈夫デスか?」
心配そうにのぞき込むセーラー服の少女に、竜也は安堵の息を吐いた。
見た感じ外傷らしいものは無いし、元気そうだ。
少し日本語の発音がおかしいのは、外国人だからなのか。
良く見ると、ブラウンの髪は透き通るように美しく、整った顔立ちとややブール―の瞳は、神秘的な美しさがある。
――これを見るのは何年ぶりだろう?
竜也は苦手意識と軽い恐怖から、一瞬息を止めたが……
考えを改めて、出来るだけ相手を怖がらせないように笑顔を作った。
「はい、大丈夫です。それで…… ここは何処ですか?」
竜也は怯えを隠し、なんとか声を出した。
「アノ…… 私も分かんなくて。気付いたらここにいたんデス」
竜也と少女がキョロキョロと辺りを確認してると、茂みから何かが飛び出して来た。
「きゃ!」
少女の声に、かばうように前に出ると……
「なんだコレは?」
豚のような醜い顔をした、大男が斧を携えて威嚇してきた。
「オ、オーク?」
ファンタジーゲームなどでよく見かける、モンスターに似ている。
「グルルルル!」
何かから逃げてきたんだろうか?
辺りを見回し竜也を確認すると、突然斧を振り上げ襲いかかってきた。
「くそ!」
上がった腕を下せないように脇下に手を入れ、正面からぶつかり一気に押す。
『ハズ押し』という相撲の基本技が、無意識のうちにでた。
相手は身長186センチの竜也を超える巨体だったが、腰を下げ前へ前へと『がぶり』寄ると、難なく押し切ることができる。
――相撲技が通用するし、不思議な事に体が痛くない。事故の傷が治ったんだろうか?
むしろ心技体の『心』を充実させると、力がみなぎり相手を圧倒することができる。
竜也の技を嫌って、相手が後ろに下がり距離を取った瞬間……
「押せば押せ、引けば押せが相撲道!」師匠の言葉が頭をよぎった。
「はあ!」
竜也のこん身の左張り手が顔面をとらえる。
相手がもんどりをうって、倒れると。
「み、見事な取り組みでした! 立ち合い低い姿勢の当たりからのハズ押し、流れるようにがぶり寄りからの下手出投! 最後は嫌って距離を取ったところへの張り手でしたが……」
後ろの少女が両手を握りしめて、興奮冷め止まぬ表情で竜也を見ていた。
何故かさっきより、の本語の発音も確りしてる。
――まるで相撲解説だ…… しかも凄く的確だし。
「す、相撲が好きなんですか?」
「ええ、大好きデス! カナダ巡業で初めて観たデス。それで日本語を勉強して……
相撲部屋が近くにある高校探して、留学してきたデス」
無邪気に「へへっ」と言う少女に、竜也は安心する。
――不安な事も多いだろうに。気を使ってくれてるんだろうか……
笑うと急に幼く見えて、親近感も湧いてきた。
「あたし、マリア・ゼルウィガー言うデス」
「自分は、 ――神崎竜也です」
2人でペコペコ頭を下げてると、後ろから声が聞こえて振り返る。
「凄いな、素手でハイ・オークを倒すなんて……」
そこには、軽装の鎧姿で長剣を構えた男がひとり立っていた。
「あなたは?」
竜也の言葉に男はニヤリと笑って、なれた手つきで長剣を背中に背負った鞘にしまい込む。
「俺の名前は、ハイドランド。ハイドって呼んでくれ! この辺りで冒険者をやってる。
今あんたが倒したハイ・オークは、この前の魔力嵐で移転してきた賞金首だ」
栗色の髪に、さわやかな笑顔…… 年は同じぐらいだろうか?
イケメンと言って申し分ないその男に、竜也は少し嫌悪感を抱いた。
何処か、いじめっ子のハセベ君に似ていたからだ。
しかし相手が名乗ったんだから、こちらも名乗らないと失礼だと思い直し。
「自分は神崎竜也…… 竜也と呼んでください」
ペコリと頭を下げた。すると、今度は女性の声が聞こえてくる。
「ハイド! あのオークヤローどこに逃げた?」
真っ赤な髪に露出度の高い鎧姿の少女が、細い片手剣を握りしめ走り寄ってきた。
「アンジェ! オークならそこのリューヤが今殴り倒したとこだ」
「はあ? ハイ・オークを殴り倒す!? んな、バカな」
しかし赤髪の少女は、倒れているオークを見つけると、口をあんぐりと開け…… 竜也を見上げた。
「遅いぞ、ミリー! もう仕事は終わっちまったぞ」
ハイドの言葉に。
「はあ、はあ。もう、あ、あなたたち体力バカと一緒にしないで下さい」
息を切らして走ってきた、青髪のローブ姿の少女が反論する。
そして、手に持っている大きな木製の杖でオークをつつくと。
「何をしたらこうなるんですか? 完全に魔力を失って、昏倒してますが」
赤髪の少女と同じように、口をあんぐりと開け…… 竜也を見上げた。
「さー? ま、詳しい話は直接リューヤに聞いてみるか。
ギルドが掛けた賞金の取り分の問題もあるしな!」
ハイドは、楽しそうに「はっはっは!」と笑いだした。
「つまり…… リューヤは突然この森に移転させられて、こいつに襲われたんだ」
赤髪の少女アンジェは、大きな目をクリクリさせて竜也に質問してきた。
彼女は『戦士』と『盗賊』を兼ねるパーティーの中衛職らしい。
「しかし、凄い技ですね。素手でハイ・オークを倒すなんて、話にも聞いたことが無いです。その衣装も髪型も始めて見ました。何処かの種族の戦士か何かですか?
固有魔法と体術を併せ持つ『技』を身に着けた武道民族が、東の国にいると昔師匠から聞いたことがあるんですが……」
オークは、拘束されてミリーと呼ばれた青髪の少女の魔術でぷかぷかと浮かんでいる。
彼女は『回復師』と『魔術師』を兼ねた後衛職との事だ。
「殺さなくて済むんなら、殺したくない。それに生け捕りの方が賞金が高いしね」
そう言ったのは、前衛職の『剣士』ハイドだ。
この3人でパーティーを組んでいる。名前は「ハーグエンド」
若手A級冒険者として、この辺りでは有名なパーティーらしい。
「まあ話し辛い事は、黙ってな。俺たちは衛兵じゃないんだから。
それより、賞金の取り分をキメとこうぜ!
探し出して追い込んだのは俺達だが、止めをさしたのはリューヤだ。
あんたの言い分で良いぜ。どうする?」
竜也はまだこの世界の事情が良く分からなかったし、そう言った相場も分からなかった。
ただ、突然投げ出されたこのゲームのような『異世界』で生きてゆくには、先立つモノも必要だろう。
それに、一番後ろをとぼとぼと歩くセーラー服の少女の事も気になる。
――彼女を守るのは自分しかいないのだから。
「配分はお任せします。ただ、コレから住む場所とか……
そうゆうのを紹介してもらえれば」
竜也の言葉に、3人は顔を見合わせ。
「任しときな!」
「安心して、あたしらこれでも、この辺じゃ融通が利くんだから」
「私もあの固有魔法を教えていただけるのなら、お手伝いします!」
――そう答えてくれた。
竜也は内心ほっとして…… もう一度。
もう一度、マリアの存在を確認した。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
ハーグエンドは、本当に近くの街では有名なパーティーで、ハイドが紹介するといろいろな事がスムーズに行うことができた。
今住んでいる街外れの小屋も、もともとは木こりの夫婦が住んでいた家だが。
「最近多発してる『魔力嵐』のせいで、移転させられたんだろうな。
こんな森に近い場所の建物だ、変に空き家にしといて魔物の住みかにでもなったら厄介だって、街の連中も気にしてたんだ。
リューヤが住んでくれるんなら、安心だよ」
そう言って、木こり夫婦が見付かるまでという条件で、無償で借りることができた。
また、金銭的にも。
「こないだのハイ・オークの討伐の賞金は俺達とリューヤで半々でどうだ?
それから、パーティーにいた『タンク』がいなくなっちまってさ。
リューヤさえよければ、たまに手伝ってくれないか」
ハーグエンドの手伝いをすることで、必要十分な額を稼ぐことができた。
「何から何まで、すいません」
「こう言うのは、お互い様だ! リューヤのおかげで俺達も難易度の高いクエストを安全にできるようになったんだからさ」
ハイドはいつもニコリと笑って、竜也に話しかけてくれた。
マリアとの共同生活も、徐々に慣れ始めれば快適なモノだった。
「今日はオオトカゲのちゃんこデス! これ、鶏肉と同じ味デス。
なかなか美味しく出来ました」
もともと家事が好きなのだろうか。マリアがいろいろと生活を仕切ってくれて、竜也はありがたい限りだった。
「美味しいです、 ……いつもありがとう。
ちゃんこや掃除洗濯は相撲部屋でもやってましたから、きつかったら言って下さい。
手伝えることは、やりますので」
「オー、心配ないね。リューヤさんのおかげで私は安心して生活できる。何度も助けてもらったし、ありがとうは私の方デス」
マリアが屈託なく笑うので、竜也はついついその言葉に甘えてしまった。
――しかし、全く問題が無かったわけでもない。
竜也はこの世界に移転しても、毎朝稽古を欠かさなかった。
しこを踏み、基本の型を行い、筋力トレーニングをする。
ひと汗かいたので、水でも浴びようと風呂場に行ったら。
「きゃー! リューヤさん。ノ、ノックくらいしてください!」
一糸まとわぬマリアがいた。
その均等の取れたプロ―ポーションと、透き通るような存在感に…… 竜也は気を失って倒れてしまった。
「ど、どうしてリューヤさんが倒れるデスか。し、失礼な」
その後の朝食の席で、竜也は問い詰められた。
「すいません。 ――その、どうも女性が苦手で」
「謝ってもダメデス! 女の子のプライドが許しません」
真っ赤な顔で抗議してくるマリアに、竜也は戸惑った。
――なんて言ったらいいんだ?
考えてもさっぱりわからない。
「そ、その、そんなに変だったデスか?」
「変だなんて…… そんなことはありません」
「じゃあ、キレイでしたか」
「――はい」
お互いに顔を赤くしてうつむくが…… マリアの追及は止まらなかった。
「ど、どこがキレイでしたか? ぐ、具体的に言って下さいデス」
「それは……」
竜也は恥ずかしさで死にそうだった。
「あたし…… ちょっと痩せてるけど、胸は他の子より大きいデス。
形にも自信あるデス。バ、バッチリ見たデスよね」
しかし、マリアが何かを訴えようとしている気がして、竜也は背筋を正す。
何事も真摯に対応しなくてはいけない。そうだ、それは礼に始まり礼に終わる相撲道にも通じるモノだ。
「はい、見ました。とても美しかったです」
そして、嘘偽りない返答をした。
「も、もう一度見たいと思うデスか?」
「はい」
恥ずかしさは消えなかったが、竜也は腹に力を入れ、力強く本心を語る。
「分かったデス、それなら許します」
マリアの言葉に、竜也は自分の対応が間違ってなかったことに安心した。
「あのデスね、リューヤさん」
「はい」
「リューヤさんがしゃべるの苦手、分かります。でも、もっといろいろ話してくれると嬉しいデス」
「はい」
「約束デスよ?」
「はい」
「では、朝食をいただきましょう」
ニッコリと笑うマリアに、 ――竜也はもっと話をしようと心に誓った。
共同生活が軌道に乗った頃、今度は仕事で問題が起き出した。
「リューヤ! モンスター退治はチームワークなんだ。いくら自分が強いからって、勝手に先行するな」
1対1の戦いで、竜也が遅れをとることはまずなかった。
『心』を込めて『技』を仕掛けると、最近は白い輝きが現れ、モンスターに決定打を打ち込むことができたからだ。
相撲は日本古来から伝わる神事のひとつだ。退魔の歴史もあったと言う。
竜也は、白い輝きが『相撲道』の導きのひとつではないかと考え始めていた。
しかし相手が多数だと、それが上手くいかない。パーティーの仲間や襲い来る複数の敵に気を取られ、技が決まらないからだ。
「ハイドもそんなに怒んないで! 今回はあたしのミスもあったんだし。
大きなケガじゃないからさ」
『魔力嵐』の影響か、突然現れたグリフィンと呼ばれるモンスターの討伐で、竜也のミスからアンジェがケガをした。
今ミリーの回復魔法を受けているが、前の世界なら全治数か月と言う大ケガだ。
「申し訳ありません、自分の力不足で」
「リューヤ、俺が怒ってんのはそこじゃねえ。
もっと俺達を信用してくれ! 確かにお前ほどの実力はねーが、モンスター退治に関しちゃ、経験は上なんだからな!」
……それは、子供の頃ドッジボールでミスをした時に怒るハセベ君に似ていて。
竜也は、ただただ頭を下げるだけだった。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
街外れの小屋に帰って、その事をマリアに相談すると。
「オー! それはリューヤさんが悪いデスね」
「自分は、どうしてもチームワークが苦手で」
最近はこうやって2人で、今日何があったかを話す機会が増えていた。
「では、『向こう正面の竜也さーん』今日の取り組みはどうでしたか?」
「グリフィンと言う魔物は空を飛びます。そんな相手は初めてだったんで…… 後れを取りました」
「ふむふむ。それで、パーティーの人たちは?」
「後衛のミリーさんの魔法を中心にグリフィンの動きを止めて、各個撃破を狙いました。 ――事前の打ち合わせでも、そうなってたし」
「それで、リューヤさんは?」
「はじめは上手く行ってたけど、徐々に数で押され始めて。
アンジェさんが集中して狙われだして、つい…… 持ち場を離れてしまって」
「それが逆に、致命打になったと」
「はい」
「リューヤさんの悪い癖で、なんでも自分でしようとするからデスね。
もっと周りの人を信用しなきゃデス。
私もソレ苦手デスけど」
「マリアさんが?」
「ハイ。私、父の仕事の都合で引っ越し多かったデス。
だからコミュニケーションがダメデス。
でも、もっともっと話せば、きっとなんとかなるデス。
――母にいつも言われてました」
マリアの表情がくもったのを、竜也は見逃さなかった。
「心配ですか?」
「もちろんデス。カナダの両親や、日本の友達…… あいたいデス。
でも、リューヤさんいるから、私ハッピーです。贅沢は敵デス」
最近マリアのはかなさが増していたことにも、竜也は気付いていた。
「なんとか帰れないかな」
「ソレは、ソレでしょー。無理な事を悩んでも仕方ないデスね。
それより、もっとパーティーのメンバーとコミュニケーションしないと。
まず、なんでもいいから話すデス」
「なんでもいい?」
「そう! 直接仕事に関係なくても良いデス。ちょっとした相談とか、好きな食べ物とか、す、 ――好きな女の子の事とか……」
最後の方は声が小さくて、聞き取れなかったが。
「頑張ってみます」
竜也は深く頷いた。
コミュニケーション、 ――そして帰る方法。
自分に言い聞かせるように。
「頑張ります」
竜也は、もう一度声に出して呟いた。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
それ以来、竜也は出来るだけパーティーのメンバーと会話をするようにした。
アンジェとは連携が上手く出来るように、仕事の合間で個別に練習をした。
ミリーは『相撲』に興味があるようなので、簡単な型を教えている。
「リューヤ、だんだんパーティーにも馴染んできたみたいだし。
今夜あたり、一杯どうだ?」
そんなハイドの言葉に。
家ではマリアが待っていたし、未成年なので酒を飲むつもりがなかったのでいつも断っていたが。
「お酒をいただかないですが、いいですか?」
竜也がそう言うと、ハイドは嬉し気に肩を叩き、
「よし、今日は全員で行こう!」
大声で喜んだ。
竜也がその店に入ると周りが一瞬静かになり、ひそひそとした話し声が聞こえて来た。
「ありゃー、噂の戦士じゃないか?
素手でハイ・オークやグリフォンを倒したって言う」
「間違いない、ハイドと一緒にいるからな。
なんでも、戦士じゃなくて『力士』って言うらしいぜ」
「リキシ、なんだいそりゃ?」
「スモウという技を極めた漢の事だそうだ! ミリーがそう言ってた」
ハイドも、アンジェやミリーも…… そのヒソヒソ話を自慢げに聞いている。
「リューヤはギルドや酒場に来ないから知らないだろうが、最近じゃ噂の英雄なんだ」
竜也はハイドの言葉に恐縮しながら、視線を避けるようにその大きな体を縮めて席に着いた。
そして4人で乾杯して、食事が始まる。
竜也は酒を飲まなかったが、他の3人はハイペースで杯を空けて行った。
「で、相談って何だい?」
ハイドの突然の声に、竜也が驚く。
「隠しても無駄だぜ。最近リューヤが悩んでんのは、みんな気付いてんだ」
見ると、アンジェもミリーもウンウンと頷く。
「実は……」
竜也は、今まで話さなかった日本の事、マリアについての悩み…… そして、帰る方法を探している事。
ポツリポツリと、ちゃんと伝わるように、慎重に話し出した。
3人は驚いたり不思議がったりしながら竜也の話を聞くと。
「やっと話してくれてホッとしたというか…… まあ、複雑な心境ですけどね」
まず、ミリーがそう言った。
「でもこれで、ハイドのヤツが必死になって探してた『帰る方法』が役に立ちそうだし。
ね、良かったじゃない!」
アンジェが、隣に座っているハイドを肘で突く。
「だいたい予想はついてたんだ。それに…… 最近の『魔力嵐』は怪し過ぎる。
まあ、そっちを調べてたついでって言うか、副産物みたいなもんだが」
アンジェの「なに言い訳してんの? バカじゃない」と言う言葉を無視しながら、ハイドは懐から1枚の地図を出した。
「どうやら、このところの移転事件の原因は『時間岩』らしい。
この世界に7つある『魔力門』のひとつで、こいつがズレたんじゃないかってのが、賢者会の見解だ。
実際『時間岩』がある『時の谷』近辺に移転事件が最も多い。
そこに行ってみりゃ、何かがつかめるかもしれない」
その地図の上に、トンと指を置く。
そこは、竜也達が出会った森からそれほど離れていない山のふもとだった。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
竜也は家に帰ると、ハイドから聞いた話をマリアに伝えた。
「つまり、帰る方法が見つかるかもしれないデスか?」
「はい、だからマリアさんもついて来てほしい。
『時の谷』には鬼人と呼ばれる危険なモンスターがいるそうですが、必ずマリアさんを守りますから」
力強い竜也の眼差しに、マリアは静かに頷いた。
――やっぱり危険なんだろうか? それとも別の問題でもあるのかな?
いつもにまして真剣な竜也の顔に、マリアは戸惑いながら。
「あ、あのデス。リューヤさん、聞きたいことがあるんデスが」
不安になって、いつか聞こうと思っていたことを口にしようとしたが。
「私の事リューヤさんは、その…… ど、どんなふうに」
勇気がでなくて声が小さくなり、上手く言い出せない。
「ど? ど、が何ですか? マリアさん」
「その…… ど、どどど、どすこいってどんな意味ですか?」
そして、関係ない事を聞いてしまった。
「ああ、それは相撲甚句のかけ声ですよ」
「ジンク?」
「相撲は神様に奉納する祭りなんです」
「はい、それは知ってるデス!」
「相撲を奉納するときは『甚句』と言う詩のようなモノを歌います。
その『甚句』に『どすこい、どすこい』と、力士がかけ声をします。
意味はいろんな説があるんですが、自分は『安心しろ、任せておけ』って、言ってるんじゃないかって思ってます」
「どうしてデスか?」
「甚句の内容が、『世の中で上手く行かない事や、大変な事があっても頑張ろう』と言うのが多いんです。
そして相撲は、相手の力を逃げずに正面から受け止め、真っ向から勝負するものです。
力士が頑張るから、『安心しろ、任せておけ』ってかけ声をかけて。
そしてみんなで頑張ろうって。神様に誓うのが、相撲なんでしょう」
「それで、『どすこい』なんデスか?」
「ええ、どんな苦難でも『ドーンとこい』『ドスンとこい』 ――俺たちは負けないから。
自分は、そんなかけ声だと思ってます」
――マリアはその話を聞いて、両手を力強く握りしめた。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
翌朝、竜也が起きると。
「その、コレ。昨日頑張って作ってみたんデスが……
――良い布がなかなかなくって。
こんなに、なったデス」
マリアから『まわし』を手渡された。
「ひょっとして、マリアさんの部屋のカーテンで」
「あの、変デスから…… 捨てても良いデス」
「いえ、大切に使います」
竜也はそれを受け取ると自分の部屋に戻り、支度を整えた。
「では行きましょう、マリアさん。時の谷へ」
そして2人は、ハイド達が待つ森の境まで歩み出した。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
「こっから向こうが鬼人達が住む『時の谷』だ。
やつ等は知能も高いし、オークよりも小さいが力は何倍もある。
さすがのリューヤでも、てこずるかもな」
ハイドの言葉に、全員が気を引き締める。
しばらく歩くと木で組み上げた城壁の様なモノがあり、ひとりの鬼人が門番をしていた。
「なんだ、人族か。ここから先は鬼人の領域だ、黙って帰るなら手出しはせん。
とっとと、失せろ!」
「俺達はこの中にある『時間岩』に用がある! 悪いが通してもらうぜ」
ハイドが剣を構えると。
「ほう? それは面白い。もし俺に勝てるなら通してやってもいいが」
鬼人の言葉に、竜也が前にでる。
「ここは自分にまかせて下さい」
金棒のような武器を振り上げ襲い来る鬼人に、竜也はいつものように低い体勢で正面からぶつかっていった。
「立ち合いは五分! ああ、リューヤさんが『のどわ』で鬼人の状態を上げた。
そのまま得意の輝く張り手の連発! これは鬼人もたまらない」
マリアの相撲解説が、竜也の耳に届く。
「そこから流れるように差し手を引いて、小手投げ! これは決まりましたね」
倒れ込んだ鬼人が、驚きの表情で竜也を見上げた。
「約束だ、門をくぐれ」
竜也は倒れた鬼人に深く礼をすると、その門をくぐる。
「ねえ、意外とあっさりいったね」
アンジェの言葉に。
「鬼人は武道民族ですから、勝負は神聖なものなのです。
それに知能も知識も高いですから、このまま話し合いが通じれば良いのですが」
ミリーがそう答えた。
そして、庭園のような場所を歩いてゆくと。
何人かの鎧を着た鬼人が現れた。
「待て! お前らは何者だ?
まさか、あの門をくぐってきたのか」
「そうだ! 門番と勝負して通してもらった」
それにハイドが答える。
「うーむ。門番のウザーラが人族に負けるなどとは信じがたいな。
俺はこの庭を守るドリアーと言う!
面白い、ココを通りたいなら俺達と勝負しろ」
「リューヤ、複数人との戦いだ!
俺達パーティーの連携を見せてやろうぜ」
竜也はハイドの言葉に頷いた。
ミリーの魔法のバリエーションは、相撲の稽古の時に話を聞いたので、詠唱と同時に何をしたらいいのか理解できたし、ミリーも竜也の相撲技を把握しているので、連携が取れた。
アンジェとも、練習の成果が出た。しかし一番上手く行ったのは、ハイドとの連携だった。
何故なら竜也はハイドの動きを今まで最も注意して見ていたし、それはハイドも同じだった。
2人の前衛が蹴散らすように鬼人たちを追い詰める。
「ふん、鬼族最強の武道集団も口ほどにないな!」
ハイドは、勝を確信してそう言い放った。
「ほう! これはなかなか愉快だな。
まさか人族の冒険者がこんな所までくるとは」
突然現れたのは、今までより大きな鬼人だった。
「我こそは、鬼人族の長バーン・バングだ!
相手をしてやろう」
素手で上段に構えた鬼人の腕からは、竜也が会心の技が決まったときと同じような白い輝きが見えた。
「はっ、しゃらくせえ!」
ハイドが長剣を下段からすくい上げるように振りながら突進する。
「ふん!」
しかし横なぎの張り手一発で、ハイドは弾かれるように飛ばされてしまった。
「はあっ」
それを竜也が受け止める。
「ハイドさん、次は1対1です。自分にまかせてください」
竜也はバーンと名乗った鬼人を睨みながら、ゆっくりと「しこ」を踏んだ。
「人族にも闘気をまとうヤツがいるのか…… しかもなかなかの『力』だ」
お互いの視線が絡みあい、火花が散る。
そして後ろからポツリと。
「大一番ですね!」
――マリアの呟きが聞こえて来た。
大きな鬼人と竜也が正面からぶつかると、ズシンと地面が揺れた。
2人はその後「四つ」に組んで動かなくなる。
時折白い輝きが足元や手元に現れるから、マリアは高度な組手争いが行われてるんじゃないかと考えた。
「凄いなー、族長と真正面から組み合ってるぞ! あの人族」
「なんだいあの闘気は! こっちまでビシビシ伝わってきやがる」
今まで戦ってきた鬼人たちがワラワラと集まってきて、周りを囲みだす。
どうやらハイドを始め、他のパーティーのメンバーも鬼人にとどめを刺さなかったようで、みな軽いけがはしているモノの、元気そのものだった。
「族長、いけー! 頑張れー」
「リューヤ! 負けんじゃないぞー」
やがて族長を応援する鬼人と、竜也を応援するパーティーのメンバーとの、応援合戦が始まった。
――マリアは両手を強く握りしめる。
何度も自分を守ってくれたリューヤ。
傷つきながらも慣れない世界で冒険者をして、暮らしを支えてくれたリューヤ。
不器用ながらも、いつも自分を見守ってくれたリューヤ。
「リューヤさん、がんばれー!」
そして、マリアの声に突き動かされるようにリューヤの投げが決まる。
「きゃー! やったー」
パーティーの女の子たちが抱き合い、剣士がガッツポーズをした。
鬼人たちが落胆の声を上げながらも、勝負に惜しみない拍手を贈る。
――ああ、これは相撲だ。本物の大相撲だ!
マリアは感動のあまり、涙をこらえるのがやっとだった。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
「ふむ、それで時間岩を調べに来たのか」
族長のバーンがハイドの話を聞いて、深く頷く。
連れてこられた長老の家は広く、バーン以外にも数人の鬼人と、家の奥には老婆がひとり子供達に囲まれて座っていた。
「確かに数日前に時間岩が傾いちまって、俺達も困っていたが…… 人族領でそんなことが起きてたのか。なあ、ババ様。どう思う?」
「あれは魔王復活の知らせさね。お前たちは、あの伝説を忘れちまったのかい」
老婆が不敵に笑うと、鬼人たちは皆、困った顔をした。
「まあ、伝説の事はどうでもいいが…… リューヤと言ったな。
あれは、素晴らしい闘気だった!
俺達が何人がかりでも戻す事が出来なかった時間岩の傾きだが、お前なら直せるかもしれん。
もちろん謝礼も払うし、傾きが直ればお前も元の世界に戻れる可能性もある。
どうだい、やってみてくれないか」
「その傾きとリューヤが戻れるかどうかってのは、関係があるのか?」
ハイドの言葉に、老婆が答える。
「時間岩は『時間』と『空間』を繋ぐ要なんだよ。そして伝説では勇者が現れ、去る場所でもあるのさ」
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
時間岩は、太さは直径2メートルほどだが、高さは10メートルを超える長細い『岩』だった。
地面に突き刺さったソレは、しめ縄のようなモノが結ばれ、その周りの土にも縄が円状にしかれていた。
「こ、これは土俵だ」
竜也は思わずつぶやいた。
「よく見ないと分からんが、少し傾いててな。放っておくと倒れかねない」
見上げると確かにそれは傾いていた。
「しかもこの岩は、触ると『闘気』を吸い込みやがる。おかげで簡単に直すことも出来ない」
先ほど勝負を観戦していた鬼人たちも、岩の周りに集まってきた。
老婆が子供達に手を引かれながら、竜也に近付く。
「子供達よ、少し離れててくれないかい。ちょいとババは大事な話が合ってね」
「なにかお話が?」
竜也が老婆に聞くと。
「いやいや、そっちのお嬢さん。 ――そう、そこの霊体に話があるのさ」
霊体と呼ばれたマリアは、びっくりして老婆を見た。
「やはり、自分の状態に気付いておらんのか……
お嬢さんの波動と『時間岩』のズレの波動が重なっておる。
もし、この岩のズレが直れば、前の世界に戻れるかもしれんが。
――霊体の記憶は儚いもんじゃ。ここで起きたことは全て忘れるじゃろう。
しかし、このままこちらの世界におれば消滅するか……
――最悪、アンデッドとなってさ迷う事になろう」
「私…… 死んじゃってるデスか?」
マリアは初めて、竜也以外の人間が自分を見ていないことに気付いた。
「大丈夫です、マリアさん。自分を信じて下さい」
竜也は自分が子供の頃から『幽霊』が見える事。
そして、元の世界に戻ればどうなるか……
――マリアに包み隠さず話す。
「そんな……」
寂しそうに呟くマリアに、竜也はもう一度言った。
「自分を信じて下さい」
「心優しき異界の戦士よ、健闘を祈るよ」
老婆がそう言い残して離れると、ハイドが近付いてきた。
「リューヤ、俺達は親友だよな」
その顔はやっぱりいじめっ子のハセベ君に似ていたが、竜也はそう言われてとても嬉しかった。
「はい」
「そうか、聞きたいことはそれだけだ。
あと、マリアさんてのは何処にいるんだ?」
竜也が目配せすると、
「リューヤをよろしく頼むぜ!」
目配せされた場所見むかって、ニコリと笑って去って行った。
「ここが本当の大一番だな!」
竜也は自分にそう言い聞かせ。
――もう、負けるわけにはいかない。
強く強く、心に誓った。
竜也は着物を脱ぎ棄て、マリアに作ってもらった「まわし」一枚になる。
そして土俵入りの作法にのっとり、「しこ」を踏む。
しこを踏み、手をあげるたびに溢れ出る光に、ギャラリーの鬼人達がどよめく。
ババ様が叫んだ。
「なんと言う闘気と優しさじゃ。時間岩が心を開いておる。
子供達よ、わしのめしいた目の代わりによーく見ておくれ!」
子供達が顔をしかめ、嫌そうに解説する。
「あの人族のお兄さん、突然服を脱いでピンクの腰巻だけになったわ! 変態かしら。しかもあちこち金色に光りだして、とっても微妙!」
ババ様は、声を震わせた。
「おおお……、その者ピンクの腰巻を締め、金色に輝き、歪みし『時』と『空間』をたださん! 古き言い伝えはまことであった!!」
そして竜也は、ガッシリと時間岩に組み付き……
――ただ無心に、前へ前へと…… 力を注ぎ続けた。
Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω Ω
「あら、よかった。やっと目を覚ましたのね」
竜也が目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
「おかみさん…… 自分は」
「竜ちゃん、凄いわね。
軽トラに乗ってたおばあさんも無事だったし、あのまま踏切を越えてたら大惨事だったって。
JRの人も感謝してたわ」
「ケガ人は?」
「誰も出て無いわよ…… しいて言うなら竜ちゃんの腕とあばらにヒビが入ったった事かしら。今場所は休場だけど、無理しないでね。親方もゆっくり休めって、言ってたから」
確認すると左腕がギブスで固定され、動こうとしたら胸が痛んだ。
「まだ動いちゃダメよ。そうそう、さっきキレイなお嬢さんが面会に来てたから。
竜ちゃんと同じ場所で、数日前に交通事故した子なんだけど……
――今朝意識を取り戻して。
外傷も特にないみたいだから今日退院なんだって」
おかみさんは、パタパタと身の回りの世話を終わらせると。
「相撲も恋もね、『押せば押せ、引けば押せ』よ!
あたしはそれで親方を落としたんだから」
そうささやいて、部屋を出て行った。
竜也が驚いていると、入れ違うようにひとりの少女が入ってきた。
「あの…… はじめまして? デス」
ブラウンの流れるような髪の少女は、不思議そうに竜也の顔を覗き込んだ。
「はじめまして」
竜也もそう呟くと。
「やっぱり、はじめましてデスよね」
少女は寂しそうに顔を傾けた。
「あの、私相撲が好きで……
それから、さっきお医者様から事故の事話聞きました。
これも、なにかの縁かも知れないデスね。これから応援します」
それだけ言うと、また困った顔をして……
少女はペコリと頭を下げて、部屋を出て行った。
竜也はゆっくりと目を閉じる。
――きっと、コレで良かったんだろう。
異世界での出来事が本当だったとしても、生霊だった彼女は記憶を持たないはずだし。
それに…… 今までの出来事自体が夢かも知れない。
実際、証拠は何処にもないんだから。
そんなことを考えながら、竜也がうとうとと眠りにつきかけると。
「ねえ、ここであってるの? もうこんなダンジョンみたいな建物……」
「アンジェ、声がでかいぞ! ミリー、リューヤのケガを回復してくれ!」
「了解です」
そんな声が聞こえてきたような気がした。
「おいリューヤ、いいかげん目を覚ませ!
やっぱり魔王が復活しやがった!
鬼人達の力を借りてここまで迎えに来たんだ。
ヤツらに対抗するにはお前の力が必要なんだよ。
ああ、それからマリアさんだっけ?
彼女がいないと時間岩が上手く操作できないそうだ。
だからまず、彼女を探そう!」
――怒鳴るような親友の声に、竜也はゆっくりと瞳を開けた。




