プロローグ
金属がぶつかり合う音。
肉を斬る音。
夜中、様々な音が聞こえてくる屋敷があった。
表札には薇組と書かれ、元は綺麗な門だったのだろうが、今は血飛沫が掛かっていて、誰も入りたがらないだろう。
「藜の紫眼だ! 殺れ!」
“藜の紫眼”。
それはある少年の通り名だ。
文字通り、紫色の目をしていることからそう呼ばれる。
藜は、藜組のことを指している。
藜組というのは、関西を治めている極道一家の一つだ。それと共に、警察が逮捕できない相手をどうにかしたりと、日本を裏から支えている極道一家の一つでもある。
「古清水の黄緑眼も居るぞ!」
“古清水の黄緑眼”。
それはとある少女の通り名だ。
文字通り、黄緑色の目をしていることからそう呼ばれる。
古清水は、古清水組のことを指している。
古清水組というのは、藜組と同じく関西を治めている極道一家の一つで、日本を裏から支えている極道一家の一つでもある。
「あぁ? 五月蝿ェな」
月白に輝くウルフカットの髪を前に流し、薙刀を振るう和服の少年。そして、その背には藜組の者という証の紋付羽織りが靡いている。
この少年こそが、“藜の紫眼”であり、藜組の若大将。藜 雪紫。
得物はかの静御前が揮ったとされる小屏風。
「まぁまぁ。弱い犬ほど良く吠えると言うから。仕方ないわよ」
雪紫と同じ月白の長髪を払い、刀を振るう和服の少女。そして、その背には古清水組の者という証の紋付羽織りが靡いている。
この少女こそが、“古清水の黄緑眼”であり、古清水組の姫。古清水 白雪だ。
得物はかの上杉謙信の愛刀とされる姫鶴一文字。
「殺れ! 殺れぇ!」
騒ぎ立てる薇組の男。
「だから五月蝿いッての」
乱暴に頭を掻く雪紫。
二人の周りには大勢の薇組の者が。
「こんだけ居れば、二人くらいどおってことねえ! やっちまえ!」
「おおおおー!」と叫びながら二人に向かう大勢。
「あ”あー! うぜェうぜェ! 数が全てだと思い込んでやがる! まぁ確かにそうなんだが……。ただ数を集めりゃ良いッて訳じゃねェだろうがよ!」
小屏風を持ち直し、向かってくる敵を文字通り薙ぎ払う雪紫。
血飛沫が上がる。
それを見て、唇を舐める雪紫。
「能力発動。『ヴァンパイアフィリア・血液操作』」
そう雪紫が唱えると、葡萄色の魔方陣が展開され、血飛沫が宙に浮いたまま制止する。
「こんな雑魚相手に能力を使うの?」
「良いだろ別に。早く終わらせてェし」
「同感ね。じゃあ私も……。能力発動。『スペクトロフィリア・鶴姫』」
そう白雪が唱えると、薄桜の魔方陣が展開され、得物である姫鶴一文字が光り輝く。
次の瞬間、白雪の後ろには桜吹雪と共に恐ろしい程美しい夜叉、鶴姫が現れた。
「の、能力者!?」
「あの噂は本当だったのか……!」
男達がざわめく。
「あァ、あれか」
「噂って?」
「アレだよ」
――藜や古清水ならずとも、世界に居る居る能力者。
――これらパラフィリアに依存をし、パラフィリアあれば能力がある。
――藜の紫眼は血で遊ぶ。
――古清水の黄緑眼は霊で遊ぶ。
――これら二人に死角無し。
――なれば力で押し潰せ。
――鬼神の如き二人を倒せ。
「ッてやつ」
「へぇ~。いつの間に……」
「む、無理だ! 敵う訳ねぇ!」
後退さる薇組の者達。
しかし、二人を囲んでいた薇組のさらに外側には藜組と古清水組の者達が居た為、逃げ場が無くなる。
「チェックメイト、ね」
「あァ。んじゃ、暴れるか」
「そうね」
二人は手を掲げ、振り下ろす。
すると宙に浮いていた血液が弾丸の様に飛び交い、鶴姫が刀を振るう。
今更だが、何故こうなったかを説明しよう。
薇組とは、政府直属特務課極道係に目を付けられている悪徳極道だ。しかし、多くの悪徳組織と太いパイプがある為、中々手が出せなかったそう。
そこで、昔から政府と繋がりがある美徳極道である藜組と古清水組に依頼をし、今に至るのだ。
薇組は、一夜にして壊滅と相成った。