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タナトスと戯れる夜  作者: なつ
第二章 第二の犠牲者は装って
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 3

 気の早い蝉がすぐ近くで鳴いている。もしかしたら部屋の中からかもしれない。堂本王子はいらいらしながら布団から跳ね起きた。音を探ると、枕側のすぐ上の網戸に蝉がくっついている。そこを指ではじくと、蝉は落ちるように飛んでいった。

 いらいらしながら、コンポで時間を確認すると昼の二時だ。四限は専門のため休むわけにはいかない。

 といっても、準備も特にないし、ここから大学までは歩いても十分かからない。洗面所へ移り、軽く身なりを整える。

 約束の一週間まであと二日である。

 日曜日にあの場所に行って、アイーシャは待っていてくれるのだろうか。そろそろ飽きて捨てられるかもしれない。大体考えてみても、待っているなんて可能性は限りなくゼロに近い。

 それに、捨ててしまえと言っておきながら、王子には何を捨てればアイーシャのことを最後まで愛撫することができるのか分からない。むしろ、捨てなければならないのは自分なのかもしれない。ただ自分が、アイーシャの喘ぎを聞きながらそれを続ければよいだけのことだから。

 それを望んでいないのは自分なのではないか。

 不気味なことだ。

 顔を洗い、歯を磨き、髪を整える。それから部屋に戻り、タンスから適当な服を選び出す。三秒悩んでから、横文字の並ぶTシャツに決めた。昨日脱ぎ散らかしたジーンズを再び穿き、脱いだシャツは洗濯機の横のかごに投げ入れる。そろそろ量がたまってきた。洗濯機を活用する頃だろう。

 財布を確認し、携帯を取り出すと五通メールが届いている。

 三通の迷惑メールを削除し、それから平林文哉からのメールを確認する。

「おーす。四限終わったら連絡くれ」

 届いたのは朝の八時だ。おそろしく健康的な時間だが、もしかしたらまだ前日分かもしれない。もう一通のメールは今年一年の四条兼からだ。

「おはようございます。今日のサークル休ませて下さい」

 律儀なのか何とも言いがたいメールだ。理由もなくサークルを休むやつは山ほどいるが、休む前に知らせてくるという点では律儀なのだろう。が、理由がない。

 サークルを辞めたいという前兆かもしれないし、ただ、用事があるだけかもしれない。仕方なく王子は返信を打つ。

「どうした、兼、デートか? それなら認めてやろう」

 しばらくするとメールが届く。

「デートです。ということで認めてもらいます」

 打ち方を誤ったか、本当にデートか分からない。兼は確かに女に受ける顔をしているし、動作も優雅だ。けれど、少なくとも先週の時点で彼女はいなかった、はずである。少なくともそんな話を聞いたことはない。だからといって、いまさらだめだというメールを打つのも愚かだ。それに理由はどうあれ、今日サークルに出られないのは事実なのだろう。

「しょうがない奴だ。認めてやろう。今度紹介しろよ」

「先輩の知ってる人ですよ」

 さらに最悪なメールが戻ってくる。一体誰とデートをするのだろうか。もしかしたら同じサークルの人間かもしれない。

 王子はため息をつくと、乱暴に携帯をジーンズのポケットにしまう。時刻を確認し、荷物を持つと下宿を飛び出した。



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