表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タナトスと戯れる夜  作者: なつ
第二章 第二の犠牲者は装って
8/32

 2

 金曜日、大学の講義を休み、笠倉岬は結城静江と喫茶店にいた。先週の木曜日に佐々木直人が殺され、その犯人として御前岳涼子が今しがた日比野に連れて行かれたところだ。その同僚である前田柚衣と広田葵は、仕事が残っているんだけど、と言いながらも今日はもう職場に戻らないらしい。

「静ちゃん、もう大丈夫?」

「うん、でも柚衣が心配。倒れてしまわないかしら」

「二人ともふらふらだったものね。仕事って分かんないけど、大変なんだろうね」

「二人も抜けちゃうわけだから」

 岬はストローを指で動かしながら、氷を揺らす。

「もう静ちゃんは本当に前田さんのことが好きなのね」

「好きというのはよく分からないけど、多分違うよ。前話したでしょ、結局私と柚衣の関係にこれ以上もこれ以下もないの」

「むー、岬ちゃんにはよく分かりません」

「彼女となら生きていけるかもしれないけど、彼女になら殺されてもいいってこと」

「もっとよく分からないよ」

「なんでもない。もう終わったのよ、この事件は」

「そうね」

 ストローに口をつけ、岬は残った液体を吸い上げる。ほとんどが水だ。わずかに残るコーヒーのテイストはむしろ薄すぎておいしくない。岬からすれば、結局ほとんど関係することなく終わってしまった。あまりにも関係が薄い事件だった。きっとそれは、岬の関心がもっと別のところに向かっていたからだろう。そして、岬の関心があったことに関しては、直接的に岬に関係してくるかもしれない。

「事件といえば、聞いた?」

 静江が両肘を突いたまま岬を振り返る。

「何のこと?」

「水曜日、休講だったじゃない。その理由」

「知ってるよ。三ツ谷教授でしょ?」

「昨日発見されたって」

「でも、殺されたのはもっと前なんでしょ?」

「そうなの?」

「岬ちゃんも、詳しいこと知らないけど、多分月曜日に」

「最近重なってるよね、こんな事件」

「そうかなぁ。事件なんて毎日どこかで起きてると思うけど」

「だって、すごい身近じゃない?」

「そうね」

 岬からすれば、佐々木よりも三ツ谷との関係のほうが遥かに強い。佐々木事件など、テレビや新聞の中の世界の話だ。今度の事件だけが偶然近くで起きただけのこと。静江がその二つに事件の近い位置にいたとしても、そんなのは偶然に過ぎないのだろう。

「もう、私ストレスで胃に穴が開きそうだもの」

「それじゃあ今日も飲んじゃいますか?」

 静江は横に一度だけ首を倒した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ