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大学から歩いて五分ほどの、三ツ谷恭治の死体が装飾をされていた場所からも近くにある、築三十年を越えているのではと思われるアパートに平林文哉は住んでいる。日比野が調べたところによると、彼と三ツ谷の間に接点はない。文系と理系、大学でも道路を隔てて反対に位置しているせいもある。だが、本人に聞けば日比野がまだ気がついていない接点が見つかるかもしれない。
二人目の犠牲者である四条兼は、文哉と彼の親友である堂本王子が立ち上げたダンスサークルの後輩であり、三人目の犠牲者の須藤六花は、文哉と付き合っていた。六花が殺されてまだ時間が経っておらず、今のところ文哉からまともな証言を得ることができていない。そのため、駅前のファミレスで文哉と王子二人から話を聞くことにした。
その文哉と王子は正面に座り、料理もすでに置かれている。が、それに手をつける様子はない。
「どうぞ、緊張しないでください」
「僕はともかく、文哉は」
「承知しています。ですから、一秒もわれわれは無駄にしたくないのです」
「俺は、食欲がないだけです。何を話したらいいですか?」
「まず二人に率直に質問します。三ツ谷教授をご存知でしたか?」
二人とも首を振る。
「名前くらいなら」
と付け加えたのは王子だ。
「それでは堂本さん、あなたは以前四条さんのメールを証言しています」
「まだ残してあります」
「四条さんが会おうとしていた相手に心当たりはありますか?」
「ありません。兼は僕の知っている相手だと書いてきましたが」
「あなたを知っている人物かもしれません」
「実家は北陸だし、大学じゃあ、サークルくらいしか知り合いはいません。こいつとはじめから五年計画で動いてますし、周りと授業を重ならないようにしていますから」
「あなたのサークルで三ツ谷教授の講義を取っていた人はいますか?」
「さあ、そこまでは分からない」
王子は一度首を振ったあとで、思い出したように、あっと言った。
「今年の一年の笠倉岬っていう子がいるんですが、彼女は三ツ谷教授を知っていました」
「笠倉岬?」
はい、と言ってから、彼は一度文哉を見た。それから続ける。
「彼女は、今回の事件のことを早くから気にしていたようです。以前二つの事件の繋がりについて聞かれました」
「王子、俺に気にする必要ない。気にすべきは自分自身じゃないのか?」
文哉が俯いたまま声を出す。
「どういうことですか?」
「少し、説明するのが難しいことなのですが、彼女に聞いてもらえば分かると思います」
「あなたからの証言をお願いしたい」
王子はそこでテーブルに置かれたコップに一口付けてから、分かりました、と続ける。
「これが事件に関係するのか分かりませんし、あまり公にしたくないことですが、僕は、鈴木愛弥という子と付き合っていました。彼女の本名を知ったのは、つい先日のことです。彼女が所属する演劇のサークルで吸血鬼の芝居がこの間あったのですが、そのアイーシャとドラクという二人の人物は、僕と彼女をモデルとしているのです」
「それがどう関係してくるのですか?」
「ですから関係ないかもしれません」
「彼女の連絡先は分かりますか?」
「僕と彼女の関係はもう終わりました。彼女がどこに住んでいるのかも知りませんし、連絡先も分かりません」
「不思議な関係ですね」
「俺から補足すると、こいつは度胸がなかったんだ。関係に終止符を打つ必要もなかったし、相手もそんなことを望んでいたとは思えない。ただ、吸血鬼というキーワードだけが関係しているかもしれないということ」
「吸血鬼ですか。現代において吸血鬼が存在すると思いますか?」
「そんなものは存在しません」
王子は断言した。




