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タナトスと戯れる夜  作者: なつ
第一章 第一の犠牲者は愚かにも
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 2

 目覚ましのけたたましい音が響く。三つ目だ。これで起きなければ、起こしてくれる目覚ましはもうない。これだけ頭が回っているなら、起きるのはたやすいことだ、などと思わないで欲しい。誰が考えたか知らないが、ブルーマンデイとは自分にこそふさわしい。こんなにも憂鬱な朝はない。

 鈴木愛弥は重たい体を持ち上げる。

 うるさく鳴り響く目覚まし時計を激しく叩くと、携帯も鳴っていることに気がついた。ベッドから起き上がり、携帯を取り上げる。

 メールだ。

 送信者は芹沢茜。同じサークルの友達だ。箱入りのお嬢様ということで、自分とはまるで違う世界の住人なのだが、なぜか波長があった。

「あやちゃん、おはよう。今日は三限までということですから、三時過ぎにはサークルに行けそうです。待っていてね」

 飾りのない文章。大学に入って初めて携帯を持ったそうで、メールの使い方も教えたのは愛弥だ。時々間違ったままの漢字で送られてくることもありかわいい。まだぼーっとした頭で愛弥は返信を打った。

「茜ちゃん、おはよう。私は二限と四限なのよ。三限が開いてるブルーマンデイ。お昼そっちに行っていい?」

 茜の通う大学は、愛弥の大学のすぐ南側にある。歩いて五分ほどしか離れていないN山大学だ。正直に言って、学食のレベルは愛弥の通う国立のN大に比べて高い。だから、愛弥はよくN山大学の学食を利用している。

「もちろんよ。それじゃあ二限が終わったら北門のところで待ってるね」

 返信が来た。待っててもらうなんて恐れ多いことなのかもしれないが、そこが茜のいいところでもある。普段から全然飾っていないし、自分のオーラを消すすべを知っている。だからこそ愛弥は惹かれたのかもしれない。といっても茜のことを知っている人であれば、オーラがなくてもひれ伏してしまうものであるが。

 愛弥は風呂の準備をしながら、コーヒーメーカーの電源をつける。けたたましい音が中の豆を粉々に砕いてゆく。

 続いてロールパンをくわえながら、ベッドを直しテレビをつける。

 適当にチャンネルを変えていると、占いが映った。しかもちょうど自分の星座だ。瞬間手が止まり、占いの内容に耳を傾ける。

「今週のおうし座、恋愛運上昇、思いの人から思わぬ告白があるかも。金運急下降、大金を持ち歩くと災難。ラッキーカラーはゼニスブルー、ラッキーアイテムはメロンパン」

 立ち上がり、棚を見ると運がよいことにメロンパンが残っている、消費期限は二日前に過ぎているが、まあ気にするほどのことではない。

 風呂を確認して湯を止める。

 コーヒーをカップに移し、テレビの前に戻った。

「なんとかブルーって何だろう」

 すでにゼニスという記憶はない。青い色の服はあっただろうか、と考えをめぐらし、空色のキャミソールを思い出す。上から薄い服を羽織れば日差しが強くても大丈夫だろう。

 メロンパンを一口食べて、愛弥はクローゼットから服の準備をした。押入れの棚から下着も取り出し、それも一緒に調える。

 時折コーヒーに口をつけて、時間を確認する。まだ余裕がある。

 愛弥はカーテンを閉めると服を脱ぎ風呂に移った。シャワーを捻り、辺りに散らす。湯気が浴室内を満たし、サウナのように蒸し暑くなる。

 頭と体を洗いお風呂に浸かった。

「それまでにすべてを捨ててしまえ」

 昨日のドラクの言葉がよみがえる。捨てることなどできるはずがない。捨ててしまえば、愛弥があの場所にいくことさえなくなってしまうのだから。どうしてそれを分かってもらえないのだろう。もっと乱暴にされたいのに、ドラクはいつも優しい。決して一線を越えようとしない。

 細い腕。

 一気に線を越えてくれればいいのに、きっと捨てることができていないのはドラクの方だ。恐れ慄き、首筋に立てた牙をそこで止めてしまう。愛弥も道連れにしてくれれば、一生をともにできるというのに。

 どうすればドラクに愛されることがあるだろう。

 そもそも始まりからありえない奇跡の連続だったのだ。あと二つくらい奇跡が重なってもおかしなことではないではないか。

 愛弥は立ち上がると湯船の栓を抜いた。少し立ちくらみ。のぼせてしまったようだ。

 お湯が渦を巻き流れ減ってゆく。ドアを細く開け、バスタオルを取る。体を拭き、外に出ると用意しておいた服を着る。

 時計を見ると、まだ少し時間がある。ドライヤーで髪を整え、薄いブルーのアイシャドウをつけてみた。あまり似合わない。けれどやり直すだけの時間はない。髪留めは星の付いたピンクのものにした。

 眼鏡を掛けて鞄を持つと急いで部屋を出た。


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