泣いた悪猿⑨
スッキリした永山を待っていたのは、襲われていた女性からの尊敬と感謝の眼差しだった。永山からすればストレス解消に暴れただけだが、結子からすれば見た目こそ小汚いが紛れもないナイト様のように映った。恍惚とした表情で恩人を見つめる眼差しを煩わしいと思う反面、更なる役得に授かる妙案も浮かんだ。
格好つけた態度に適度な甘い言葉を混ぜることで、数日後には住処にしていたマンションに彼女を連れ込むことに成功した。やっていることは乱暴者たちと何が違うのかわからないというのに、結子ときたら貴男こそ運命の人だと目前で言い切った。
「オレが君を幸せにする。君の幸せがオレの幸せだからだ」
暇つぶしに見たドラマの台詞を覚えていたのが功を奏した。性欲の捌け口を確保した上で、飽きたら食えばいい。永山としてはその程度のつもりで、通い妻になりたいという彼女の希望を快く許した。
嘘が真実に化けた理由は、永山にもよくわからない。
都合のいい牝犬が、いつの間にか身の一部に変わっていた。どうしてそうなったのか、永山には本当にわからない。
将来を誓いあった筈の前の彼氏に、理由もなく別れを告げられた話を聞いてからなのか。
彼女の作る鶏の唐揚げが旨かったからか。
案外、夜の営みの献身さが気に入っただけかも知れない。
気付けば、彼女と似た姿をした生き物を食べることに違和感を払拭できなくなっていた。
いつしか、彼女の笑顔を見ることが永山の行動原理に大きく関わるようになっていた。