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泣いた悪猿88
降り始めた春雨を
窓の外に眺めながら
ユウコはたった一人で
フロアに寝転んでいた
「トウジ君、遅いなあ」
気晴らしに外に出た恋人は
なかなか帰ってこなかった
傘も持たずに外に出て
今頃はびしょ濡れだろうに
スマホで電話をかけたものの
そばの棚の上から着信音
「ケータイの意味ないし!」
携帯電話を持ち歩かない
永山の悪癖を詰り
窓の外を眺めながら
歌を歌い始めた
「あっめあっめ降れ降れトウジ君が~」
なかなかやまない雨を眺め
待ち人を迎える歌を
いつまでも歌っていた
眠太郎懺悔録 外伝
泣いた悪猿
完




