87/88
泣いた悪猿87
「知るかっ!」
死神は吐血を続ける永山に肩を貸し、歩かせようとした。仲間のところに連れて行けば助かる希望がある。命を長らえさせ、また人間のふりをする生活に戻してやれる。そう思ったからだ。
「俺は知らん。お前の女だろう。あの女に言いたいことがあれば、自分で言え……」
だが死神はすぐに、二つの無理があることに気がついた。
永山はマシラに変じた姿のままだ。仲間のところに連れて行こうにも、大猿を抱えた男が道を歩く姿を人に見られれば大騒ぎになってしまうだろう。
そしてもう一つ。
いかに死神の仲間たちが優秀でも、息絶えたものを救う術は持っていない。
永山はもう息をしていなかった。
痩せた体からはもはや瘴気が途絶えていた。もはやただの獣の死骸と化したそれは、肉の塊と変わらなかった。
両の瞳からは大粒の涙が零れ落ち、血と混じって地に落ちていた。獣の中にあったものが何だったのか、死神には痛いほど伝わった。
「……畜生めが……」
死神は悪態をついて、永山だったものから手を離した。肉塊は力無くアスファルトの上に落ち、湿った音をたてた。




