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泣いた悪猿80
「……奇遇だな、コウタロウさんよ……」
永山は皮肉混じりに死神を勝手につけた名で呼んだ。
「奇遇もなにもない。白昼堂々街のド真ん中でドス黒い瘴気を垂れ流している奴がいるから潰しに来たつもりだったが、まさかお前だとは思わなかったぞ。
前は中途半端な瘴気だったくせして、何かあったか?呪でも受けたか?」
死神にしてみれば、偶然ではなく必然だったようだ。驚いたのは死神も同じ事らしい。
「はは……呪か。確かに、似たようなものかもな……」
永山は別に呪いを受けたわけではない。単に映画を観ただけだ。だがたまたま観た映像が、永山が抑圧してきた人食欲求のトリガーを引いてしまったのだ。この偶然は誰の悪意で起こったわけでもない純粋な事故だが、永山の内面を見事にひっくり返した。下手な呪いより性能が高いといえる。
……いいや、それは「たまたま」だとか「偶然」などと表現するには確率が高すぎることだったかもしれない。飲酒運転を習慣にしているドライバーが事故を起こす確率のような、いつか何かしらの形で発生すると予測できた事だったのかもしれない。
「コウタロウさんよ……頼みがあるんだわ」
永山は肩を震わせながら決意した。
「オレ、もうダメだわ。やってくれ」




