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泣いた悪猿79
永山は完全に詰んでしまった。
もはや、家に戻って改めて準備する余裕すらない。
道歩く人々が肉の塊にしか見えない。
目の前にぶら下げられた食事をお預けされた動物と同じだ。
一秒一秒、ただそこにいるだけで拷問。
空腹を耐えるだけで寿命が縮むのが実感できる。
胃が地獄の釜を開けたような断末魔をあげ続けていた。
永山は逃げ出した。
人間のいるところには、とてもいられない。ほど近く人目の避けられるところといえば、あそこしかない。見捨てられた過去の商業区がある。シャッターが閉まった空き店舗ばかりの、まさにゴーストタウンと化している一角だ。
永山は以前、ここを訪れたことがある。忘れもしない、あの男の襲撃を受けた所だ。
永山の救い主は
まさに、そこにいた
緑色のバンダナ
頭一つ抜けた長身
大きなサングラス
漆黒のロングコート
柳の下に泥鰌は二匹いないと言うが、このときは何故か狙いすましたかのように、立ちはだかっていた。




