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泣いた悪猿77

(……そもそも、オレは宇宙人じゃない。あの男とは違うんだ……)

筋道立てて考えてみれば、酷く馬鹿馬鹿しい話だ。あの男は配偶者を喰わなければ子孫を残せないという業の深い生き物だった。永山とは全く違う生き物だ。マシラは人肉を好んで食うが、それはあくまで嗜好の話であって、人間を断つことによって精力が弱まることはあっても命に別状はない。


しかし、永山はユウコを喰いたくてたまらない衝動にかられているのだ


仮に万が一、実は人肉に強力な中毒作用があったとする。邪鬼の世界には人間と違い、自分たちの細かな習性を精査するものがいない。つまりマシラの生態に知られざる部分があったとしても、不思議ではない。

だとしたら最悪でも誰かしら人間を喰えば、このどうしようもない飢餓感は治まるのだ。それがユウコでなくてはならない理由など、どう考えたってありはしないのだ。


それでも、永山が喰いたいのはユウコなのだ


いくら頭の悪い永山でもわかる。この世界でユウコはたった一人しかいない。欲望に負けて彼女を喰ってしまったら、もうあの笑顔を見ることができない。唐揚げも食べられない。そんな世界に、もはや存在する価値など一片もありはしない。


だというのに、ユウコの笑顔が脳裏にチラつけばチラつくほど、(よだれ)がとめどなく流れるのだ。

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