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泣いた悪猿75
「なあに……ついでにコーヒーでも買って……来るよ」
永山はそっぽを向いたまま答えた。
ユウコに今の顔は見せられなかった。人食を渇望している表情を見せたくなかった。何よりユウコの体の一部でも視界に入ったら、我慢できる自信がなかった。それほどに飢えていたのだ。
「トウジ君、待って!」
ユウコは玄関で靴を履く永山を呼び止めた。
「本当、大丈夫なの?」
なぜだか、妙な胸騒ぎがした。外出したが最期、永山とはこれっきり会えないような、そんな気が何故かしたのだ。
「外の……空気を……浴びるだけ……だ」
永山の態度が、どうしてかいつもと違うような気がした。以前は人の顔をあまり見ずに話す癖があったが、ここのところは改善されているような気がした。特にユウコに対しては、余所を向いたまま話すようなことは殆ど見られなくなっていたはずなのに。
(気のせい……だよね)
ユウコは馬鹿馬鹿しい妄想じみた考えをやめることにした。どうせ、ほんの数分もすれば涼しい顔をして帰ってくるのだから。騙した友達のことをブッ殺してやればいいだとか、また無責任なことを口走るに決まっているのだから。




