泣いた悪猿74
永山の脳裏に
その映像が焼き付いた途端に
凄まじい飢餓感が彼を襲った。
永山はここ一年半以上、人肉を断っていた。
物足りないと感じたことは一度や二度どころではなく両手指で数えても足らないほどだったが、その度にユウコの笑顔がちらついた。体は痩せ衰え筋肉は落ちていったが、彼女の作る鶏の唐揚げを代用にしてずっと我慢を重ねてきた。
人間なんて食べなくたって、鶏唐でいいじゃないか……自分にそう言い聞かせて今までやってきた。最近は空腹感にも慣れ、気のせいだと誤魔化すことも容易になっていた。なっていたはずだった。
だというのに
“恋人を喰ってしまう話”を
たった一度だけ観たばっかりに
永山がコツコツと重ねてきた我慢が
一瞬のうちに崩れ去ってしまった
地獄の底から響くような
低く重い音が胃に反響した
ユウコがレコーダーの電源を切った。
「なにこれ!騙された!!グロっ!グロ過ぎ!!」
ユウコは怒りに震えた。この映画は友達から借りたものだったが、悪戯でつかまされたもののようだ。恋愛モノと偽り、苦手なホラームービーを渡されたのだ。
「……ちょっと、外に出てくる……」
永山は朦朧としたまま、その場を立った。
「グロ注意だったもんね。大丈夫?」
何も知らないユウコは、純粋に永山のことを心配していた。




