泣いた悪猿⑦
永山がどうして人を食わなくなったのか、それには一人の女性が関係している。
石山結子との馴れ初めは一年ほど前のことだ。
その夜、永山は酷く虫の居所が悪かった。永山は新興宗教の幹部を勤めていたが、その役を実に理不尽な理由で干されたのだ。
“地球市民の会”と呼ばれるその宗教は、国政に手を伸ばしていた。後ろ暗いものを抱える組織を宗教団体を規制する法の手から守るためには、与党に媚びを売る必要があるのだ。
人間の信仰などには毛ほども興味はなかったが、教団に養われ人間の社会生活に必要な収入を得ていたのだから文句は言えなかった。永山は人間の信者に命令して“地球市民の党”が選挙で勝てるように投票工作を行わなければならなかった。一皮剥けば猿である永山に、そんな七面倒臭い仕事を押し付けるなど馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
投票工作などいったい何をどうやるのかと、周りの人間のやることを参考にしてみた。一例を挙げると、ボランティアと称して身よりのない老人の世話を末端信者に命じ、普段から恩を売っておくというものがある。まんまと借りを作った信者は選挙の日に老人を投票所に連れて行き、地球市民の党への投票を仄めかすという。