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泣いた悪猿68
首俵の鋭さに、永山は改めて舌を巻いた。女がいるから無茶できないなどという、邪鬼の理屈では到底理解不能な感情論をどう説明して良いやら、永山は思案に暮れていたところだった。
まさか言う前から首俵の方で察してくれるとは想像だにしなかったが、よくよく思い起こせば首俵にはたまにあることだった。人間の世界には“一を聞いて十を知る”という言葉があるが、首俵ときたら一も聞かないうちに十を知っていることがあるのだ。首俵の知恵の深さは、永山のような凡庸な邪鬼には計り知れないものがあるのだ。
「……っ!そうだ。オレの代わりと言っちゃナンすけど、コウタの奴を連れてってやってくんねえっすか?最近、こっち来たらしくて。あいつなら……」
「ああ、幸太夫か……あれは、イマイチだ」
永山の代案に、首俵は首を横に振った。
「永山、てめえは目端が利く。ぶっちゃけ力は大したこたねえんだが、面子を纏めてくのには使えると思ったから声をかけたんだ。でも幸太夫はな、ろくに周りを見ねえで突っ走るトコがある。いつか、勝算の無い無茶をしておっ死ぬなありゃ。そういう奴は要らねえんだ。てめえみてえなのが欲しかったんだが……」
永山はつい涙が溢れた。
コウタには務まらない大役を、永山に任せようとしていたというのか。




